第410話 子どもの領域を先に越えたのは――
(親父の着ている服に結構似てる、けど――)
山伏みたいな格好に一本下駄という、かつて救世主が着ていたとされる服を模した、飛天族の伝統的な戦闘装束。
緊急時に民間人と混同され無い為、何かしらの部隊に就いている者以外が、着用する事は認められていない服であり――
部隊の隊長を任されている父を持つ子どもからすれば、見慣れた衣装だ。
(何か親父の服より色が多くて綺麗だ……)
けれど、自慢であり憧れの父親の服装を見続けている子どもには、解かった。
記憶にある父親の服よりも、目の前の女の方が派手な色合いだ。
つまり、仲間の言い分が正しいなら――
「ほ、本当に親父より偉い、のか?」
この目の前の女には、誰でも言いなりに出来る魔法の言葉なんて通用しない。
むしろ自分達こそが今まで嫌がらせをしてきた者達の立場になっており、惨めに泣いて許しを乞い、無抵抗で言いなりにならなければならない状態なのだと今までの経験から思い――
子ども達の顔が青ざめていく。
「ああ、そうだ。我は君のお父さんより、ずっと偉いぞ」
怯えた子ども達の表情から、子ども達が何を考えたのか。
完全に理解出来たプロケラは、まるで決まり切っている答えでも伝えているように淡々と言葉を紡いでいぐ。
「君達の言い分通りなら、我は君や君のお父さんよりずっと偉くて、たくさん守ってやってるから、君達に何をしてもいいという事だな? そしてそれが嫌なら、君達は雲の上から出ていけばいいんだったか? さて、どうしようか?」
これで反省して心から謝罪出来るなら、きっとプロケラは優しい対応をしただろう。
けれど、そうはならなかった。
「お、大人の癖して子ども相手にムキになんなよ……」
「そうだそうだ……」
無抵抗で反撃出来ない相手なら、好き放題に甚振り。
いざ自分がその立場に落ちた途端、卑怯だズルイだと言って相手を悪い事にして逃げる。
実に本人達にだけ都合の良いダブルスタンス。
「一人の子どもとして扱ってほしいなら、子どもらしくしていろ! 家や親の力を使って我儘を通しておいて、自分の都合が悪くなった時だけ、子どもの立場を振りかざすな!」
「ひっ!?」
無論、そんな甘えた言い分をプロケラが許す訳もない。
それで許すような性格ならば、最初から子どもの言う事だしと放置して、大事な大事な救世主である研一達の相手を続けていた筈だ。
「君のお父さんの隊長の任を解く。ああ、解かり易く言ってほしいんだったな。もう君のお父さんは、隊長でも何でもなくなる」
「ま、待って! そんな事されたら俺が親父に殺される!」
「それならば、そこまで悪い事を君がしたという事だ」
泣いて縋り付こうとする子どもを、プロケラは虫でも払うように腕を振って無造作に引き離す。
その目は酷く冷たく――
けれど、それ以上に寂しく虚しそうでもあった。
「わ、悪いのは俺なんだろ! だったら親父は関係ないじゃねえか。なあ、頼むよ……」
「覚えておくといい。それが隊長であるお父さんの名前を使って、人を従わせるという事だ」
泣き崩れて地面に蹲る子ども達に、プロケラは手を差し伸べる事もせず。
結局出てくるのが保身や許しを願う言葉でしかなく、反省も謝罪の色も一つも見せない子ども達の姿に、一瞬だけ泣きそうに表情を歪めて。
「君のお父さんが隊長を辞めさせられるのも、君が殺されるのだとしても。それも全部、親の力を使って下らない嫌がらせをしていた君の責任だ」
最後に突き放すようにそれだけ告げると、振り返る事もせず歩き出す。
泣き出してしまう子ども達の声を掻き消すように、カランカランと、下駄が雲を叩く音が妙に大きく響いていた。
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