第408話 羽無しという名の差別
「救世主様、お連れのセン様。長く不便を掛けて申し訳なかった。ささ、崩れたりしないので、どうか気楽に足を踏み出して下され」
プロケラの言葉に促され、研一達は雲の上へと足を踏み出していく。
「ふむ?」
「何というか意外と普通ですね、研一さん」
フワフワとした見た目に反して、雲の感触は地面と何の差も感じない。
おまけに山を見下ろす程に高い場所にある割に、強い風が吹いている訳でもなければ、息苦しさ等も感じない。
目を瞑っていれば、ここが雲の上だなんて解からない自然さであった。
「期待外れで申し訳ない」
「ああ、いや。単に驚いただけで期待外れって訳じゃ――」
「翼を持ち、魔力が高い傾向こそあるものの、我等も種族的には人間とそう変わらない。空の上で快適に過ごせるような身体の作りをしておらん。だから、出来るだけ地上の環境に近付けているのだ」
「なるほど……」
だが、言われてみれば納得の話だ。
そもそも雲の上で過ごせる事自体が何らかの魔法の作用である以上、過ごし易い環境に整えるのは当たり前だし。
ましてや観光名所でも何でもなく、自分達が暮らす場所なのだ。
見た目に合わせて無駄に、フワフワとした足取りにしたって不便なだけだろう。
「ご期待に添えず、大変恐縮で――」
「いえいえ。むしろプロケラさんの言葉に、はっとさせられました。飛天族の方々が暮らしている場所なのに、物見遊山な気分で見ていたと気付かされた気持ちで……」
「モノミユ? 済みません、もう一度言って頂いても?」
「ああ、えーと俺の世界の言葉で、旅とかで珍しい物を見るような感覚、ですかね?」
「救世主様の世界の! 是非、もう一度! 出来るだけゆっくりと――」
他愛もない話を続けつつ。
プロケラに案内されるまま、街を歩いて一際大きい屋敷に向かっている時だった。
「あ、羽無しだ!」
「本当だ! 羽無しのムノーが居るぞ!」
そこで子ども達が研一達を指差して、笑い声を上げる。
能力なんてなくても、馬鹿にされている事なんて誰でも解かる。
はっきりと意味が解からないからこそ、逆に悪意というのは、直接伝わってくるものだから。
『聞かされた話的に、地上の人間って嫌いそうだし。多分、羽無しってのは人間を示す差別用語とか、そういうのだろうね』
『……あまり良い気分じゃないですね』
『俺だってそうだよ。でも、ここで下手に問題起こすのはマズいし、申し訳ないけど我慢して』
『はい。解かってます……』
とはいえ、今の研一達の立場で出来る事なんてない。
子どもの言う事だからと自分達に言い聞かせ、念話でお互いを慰め合い、この場を穏便にやり過ごそうとする。
だが――
「失礼。少々お待ちを」
どうやら研一達と違い、大人しく見過ごす気なんて一切ない者が居た。
プロケラである。
先程まで研一達の国の言葉を聞いて嬉しそうにしていた様子とは打って変わり、酷く業務的な冷たい声を上げたかと思うと――
そのまま研一達を置いて子どもの方へと向かっていく。
「お、何だ! 羽無しのムノー共にへこへこしてた姉ちゃんが俺達に――」
それ以上、子どもは言葉を続けられなかった。
ゴンゴン、と大きな音が立て続けに響いたからだ。
それは離れている研一にさえ聞こえる程の勢いで、プロケラが子ども達の頭を殴り付けた音であった。
「少年。親や寺小屋から習わなかったか? 羽の有る無しで、生き物の価値は変わらない。本人がどんな力を持ち、何をしたかで価値は決まるのだ、と」
プロケラは自分より遥かに小さい子ども達を見下ろし、語り掛けていく。
そこに怒りはない。
ただ瞳が悲しげに揺れている。
「い、良い子ぶんなよ! 知ってんだぞ! 羽無し共は飛ぶ事さえマトモに出来ないからって、こっちじゃ生活出来ないからって山に降ろされてんじゃねーか! 俺達ガキでも出来る飛行も出来ない時点で役立たずのムノーだろ!」
(……ああ、なるほど。羽無しってのは人間じゃなくて、飛天族の中でも羽のない者達の事を指す言葉か)
人間と飛天族の溝は深く、交流なんてある訳もない。
そもそも人間なんて見た事ある者の方が少なく、こんな場所に居るとすら思っていないのだ。
――それはおそらく大人の飛天族達も同じであり、だから子ども以外、あまり研一達を気にしていないのだろう。
「だが、そうして山で動物や木々を育ててくれている者達が居るお陰で、我等は飢える事も住処に困る事もなく、暮らしていけているのだ。違うか?」
「はっ。そりゃあ俺達が地上人から、アイツ等を守ってやってるからだろ? 地上の奴等は俺達の目や羽で魔具とかいう道具を作るらしいからな」
そして、どうやら子ども達の話から推測するに、雲の上にある国が本拠地とするのなら、山は生産地帯と言っったところだろう。
他の種族と交流してない飛天族からすれば、大事な生命線であり。
だからこそ、研一達が山に近付いただけで過剰とも言える勢いで襲ってきた部分もあったのだろう。
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