第407話 飛天の里、ウェンティ
「どうせ今回の貴公の悪い噂も、そういう事なのだろう!」
ここでようやく、プロケラの話が本題に戻ってきた。
どう見ても研一が噂に聞くような悪党とは掛け離れた好青年にしか見えない、というところが、今回の話の発端なのである。
「自分達じゃ魔族相手に手も足も出ない癖に、いざ助けてもらったら自分達が出来なかった事を簡単にやった者を認められない。だから貶して自分達より下に落とす。人間共なんて、どれだけ時間が流れようと変わらぬ、反省の一つもしない卑劣な輩の集まりという事だ!」
どうやら過去の救世主について熱弁している内に。
完全にプロケラの中では、研一の悪評に対する筋書きが決まってしまったらしい。
「いや――」
飛天族から見た人間の生の感想を聴ける機会だからと、あえて遮る事も訂正する事もしなかったが、放置し過ぎた事に気付いて。
慌てて研一は訂正しようとするが――
「安心されよ、救世主様!」
色んな意味で仕上がってしまったプロケラは、話を聞いてくれない。
遠慮するなとばかりに研一の言葉を遮ると、まるで自らの使命を果たす時が来たとばかりに、堂々と告げる。
「かつての我等はこの雲の国を作る事に力を割き、救世主様と共に人間と戦う事は叶わなかったそうだが、今の我々には力も余裕もある! 貴公が望むなら、我等、飛天族は貴公の名誉を守る為、この命を賭けて人間共を皆殺しにする覚悟は出来ている!」
(これはマズイ!)
別にプロケラの言葉を鵜呑みにする気はない。
何故なら周囲に視線を向ければ、他の飛天族は軽く首を振って勘弁してくれという態度を見せており、おそらくここまでやる気があるのは、プロケラくらいの筈。
(例え誰一人として協力しなかったとしても、プロケラさんは、一人でも戦いに行く……)
だが、そのプロケラ本人があまりにも問題なのだ。
プロケラに対する周りの態度に加えて、格好もプロケラだけ他の者達より豪華なのだ。
間違いなくプロケラこそが部隊長であり、ちゃんと戦ってないから正確な強さまでは推し量れないが、それでも相当に強い事は間違いない。
それこそ下手な国なら一人でも滅ぼせてしまう程に。
(しかもこの態度から考えて、全身全霊で容赦なく、自分の命が尽きるまで戦いそう……)
その勢いで攻められれば、人間だってプロケラ一人の暴走で済ませる筈がない。
今までの扱いに業を煮やした飛天族が、戦争開始の先兵を送り込んできたと解釈し、無抵抗では蹂躙されるばかりだと、反撃に転じるだろう。
そうなれば人間と飛天族の間での戦争は、避けられないものとなる。
(周りも誰も止めようとしてない辺り、救世主の為に命懸けで戦うのはともかく、人間との戦争自体は、始まればやってやるって感じか……)
このままプロケラの暴走を放っておけば、誇張でも何でもなく戦争に発展する。
事態は非常にマズイところまで進んでいた。
「あの! 誤解があるんで――」
下らない勘違いで要らない血を流させて堪るか。
とばかりに研一が力を込めて口を開こうとするが、続きを口にする事は叶わなかった。
「さあ、ご覧あれ! ここが我等の国。飛天の里、ウェンティだ!」
タイミング悪く、目的地である雲の上に存在する国へと到着してしまったからだ。
ただ、国に着いただけならば、研一だって無理やり話し続ける事も出来たかもしれない。
だが、眼前に広がる光景は、あまりにも予想外過ぎた。
「これは――」
(いや、プロケラさんの恰好から、推測出来たか?)
まるで時代劇にでも出てくるような、木造っぽい長屋や屋敷っぽい物体が立ち並んでいた。
よく見れば寺みたいな物体もある。
雲の上というファンタジーそのものの場所にも拘わらず、あまりにも和風の色が強い光景のギャップが凄い。
こんな光景が出てきて、平然と話を続けられる精神を研一はしていない。
「ふふ、驚かれただろう? かつて救世主様に救われ感銘を受けた我々は、救世主様のお話を元に、救世主様の居た世界とやらを模した街並みを再現したのだ!」
どうだ、元居た世界を思い出す光景だろう。
なんて眩しい笑顔で告げるプロケラの姿には、遠い先祖から代々引き継いで築き上げ守ってきた光景を、ようやく目的の相手に見せられた嬉しさが溢れ出しており。
それはドヤ顔というには、あまりに誇らしげで達成感のある表情で。
(もうこんな風景は、俺の居た世界でも珍しいんですよ、なんて言えないよな……)
懐かしさなんて微塵もないなんて本当の事を告げ、プロケラの顔を曇らせるような事は、したくなかった。
かと言って、この真っ直ぐな視線に嘘を吐くのも嫌で。
「ええ、驚きました。凄く良い街ですね……」
本心からの感嘆の言葉だけを口にする。
事実、ギャップに驚きこそしたが、雲の上に立ち並ぶ木造家屋の町並みは幻想的であり。
もし日本に存在していたなら、間違いなく観光名所になっていただろうと断言出来る程に美しく、素晴らしい光景であったのだから。
(それにしても、本当に時代劇でしか見た事無いような建物ばっかりだな。やっぱその何代も前の救世主って人は、相当に昔の日本人だったんだろうなあ……)
改めて木造の寺や長屋のような場所を眺めた研一は、この光景を作らせる切っ掛けになった者へと想いを馳せていく。
正直に言えば、意外だったと言っていい。
異世界転移なんて最近流行っているような印象があったからだ。
けれど――
(よく考えれば日本には昔から神隠しとかもあるし、海外にも結構別の世界に迷い込む話もあるし、そんなにおかしい事でもないのかもな……)
どう考えても日本とは無縁そうな筈のこの異世界に、古くから交流のようなモノがあった事に感慨深さを覚えて。
どこか心が温かくなるのを感じていたのだった。
面白かった、続きが見たい。
書籍化して絵が付いているところが見たい。
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