第406話 憧れの英雄
「そこに手を差し伸べたのが、遥か昔に召喚された何代も前の救世主様、その人だった!」
「え?」
まさか過去の救世主が飛天族の歴史に大きく関わっているとは思わず、予想外の単語に戸惑いの声を上げる研一。
だが、本当は驚くような事でもないのかもしれない。
かつてマニュアルちゃんと呼ばれた、研一が持つスキルの化身とも呼ばれる存在の言葉を覚えているだろうか。
千年近く歴代の救世主と共に過ごしてきた、と。
それだけの時を重ねていれば、一人や二人くらい、飛天族の歴史に大きく関わる者が居たって、何も不思議ではない。
(という事はアレか? 人間と敵対してまで飛天族を守ろうとするような人が居たのか?)
とはいえ、研一からすれば寝耳に水の話。
プロケラは研一の戸惑いの声に気付く事も無く、更に話を続けていく。
「伝承によると当時の救世主様は、あまり目立った功績を上げられた事がなく、人間達の間では期待外れだと疎まれていたそうな。だが、それは仮の姿! 傲慢な人間達に力を貸すのが嫌で、うだつの上がらない愚鈍な姿を演じていたのだろう!」
(多分、悪意をあんまり集められないタイプの善人だったんだろうね……)
同じスキルを持つ者だからだろう。
当時の救世主の苦労を何となく予想出来たものの、研一はプロケラの話の腰を折る事もせず、心の中だけで、先人の救世主に同情しておく。
「ですが我等の扱いに怒りを覚えた救世主様は、人間達を裏切り、我等を守る為にたった一人で立ち上がったのだ!」
「へえ……」
(ちゃんと居たんだなあ。マトモな救世主……)
何となく救世主は傲慢で恨まれまくりの悪党か。
あるいは逆に、恨まれる事が出来ず、何も成せないまま散っていった哀れな人しか居ないと思っていただけに。
ちょっと嬉しくなって、思わず感嘆の声が研一の口から飛び出し。
そんな研一の姿にプロケラは嬉しそうに頬を僅かに緩め、更に熱く言葉を紡いでいく。
「それまでの無能っぷりは、どこへやら! 何と救世主様は、たった一人で人間軍達を相手取り、全く寄せ付けない程の強さだったそうな!」
(ああ、なるほど。そりゃあ人間達からは最大級の裏切り者になる訳だから、相当な敵意が集まっただろうなあ……)
実は強かったという流れを信じ込んでいるプロケラには申し訳ないが、研一にはその救世主の急変のカラクリが手に取るように解かった。
話から考えるに、本当に優しい人で恨まれるような事なんて出来なかったのだろう。
そして、そんな人だから飛天族の扱いを見過ごせなかった。
結果、奇跡的に圧倒的な力を手に入れたというところだろう。
「その力を人間の国に居た頃に見せていれば、地位も権力も思いのままだったろうに! 何という気高き志! そして圧倒的な力! 彼の者こそ救世主と呼ばれるに相応しい御仁!」
(わざわざ説明して、夢を壊す必要はないよな……)
話しぶりから考えて、このプロケラが飛天族を助けてくれた救世主を、慈悲深い英雄として尊敬している事は明らかだ。
それに話を聞いている限りでは、尊敬に値すべき人物であるようには思う。
それならば無駄に水を差す理由もなく、研一は何も言わずに黙り込む。
「だが、彼奴等人間は、その救世主様の偉業を全て無かった事にして、歴史から消してしまったのだ!」
「…………」
歴史とは勝者が紡ぐ物だ、なんてよく言われるが実際は少し違う。
文句を言う者が居なければ、好き勝手に弄り回されていくという話であり、基本的には敗者が黙り込むケースが多いだけ。
仮に戦いがあって敗北して逃げ出した者達だけで国を作り、誰にも邪魔される事無く歴史を紡げば、きっと敗者に取って都合の良い物語を築き上げるだろう。
結局歴史なんていうものは、紡ぐ者達の胸三寸の曖昧なモノでしかない。
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