第405話 飛天の歴史
「その、救世主様? 一つお聞きしたい事があるのですが――」
どうしたものかと悩む研一の思考を引き戻したのは、プロケラの声だった。
先程までの縮こまっていただけとは違う。
何か決意や覚悟を感じさせる、強さを秘めた音が研一の耳を叩く。
「我々が集めた情報では、救世主様の噂は、その、口にするのも憚られるような酷い内容ばかりでした。こうして実際にお会いして話してみた貴公の印象とは、あまりにも遠く掛け離れておりまして――」
「ああ。ええと、その、ですね……」
プロケラの事は信用出来そうだし、後で事情の説明をしようと思っていた研一だが、さすがに他に飛天族達が居る状況でスキルの秘密に関わる事は話せない。
どうやって誤魔化そうと言葉に窮してしまうが――
「やはり人間ですか。人間共が魔族の侵攻から国を守ってもらいながら、下らない見栄で貴公を貶めようとしたのですね!」
研一の態度を、プロケラは人間に迷惑が掛かる事を恐れて言葉を濁したと思ったらしい。
どうやら想定していた以上に、人間との関係は劣悪のようだ。
「ちが――」
「奴等は昔からそうなのです! 我等が人間より魔力が高い者が多く、空も飛べる事を嫉んで、人間と姿形が違うからと魔族扱いして好き放題に嫌がらせ!」
弱々しい研一の訂正の声は、全く届かない。
だが、よく考えれば忌憚なく意見を聴ける機会だと思い直し、研一はあえて強く言って邪魔をせず、プロケラの好きなように語らせる。
「その癖、いざ魔族との戦争が始まった途端、同じ人間同士、今までの事は全て忘れて、仲良く手を取り合って戦おう、等とほざく始末! どの口で全て忘れて、と言えるのか! 面の皮が厚いにも程がある!」
(……この辺は多分、全部事実なんだろうなあ)
一方の言葉だけ聞いて全てを判断するのは浅はかにも程があると理解しつつ、それでもこの件に関しては天魔族の歴史が正しいだろう、と研一は確信していた。
何せ獣人の時と、最初から最後まで全く同じと言っていい流れだ。
おそらく獣人が仕方なく人間と手を組んでいなければ、飛天族と同じように臆病で逃げ出したとか、人間だけが勇敢な歴史にでも改変されていたのだろう。
「そんな都合の良い話、認められる訳がない! だが、魔族との戦いに一丸にならねばならなかったのは事実。だからこそ、お互いに背中を預けられる立場になる為にも、我々は正当な謝罪と贖罪を要求したのに――」
(まだあるのか……)
そして、ここからは知らない話。
プロケラの激情に巻き込まれる事無く、慎重に真偽を見極めなければいけないと、この世界への人間に対する不快感や不信感を抑えて。
研一は心を落ち着け、プロケラの言葉を聞く。
「人間共は我等を魔族と通じていたなどと世界中に流言を広げ、我等を世界から孤立させようとしたのだ!」
(……そりゃあ神様達に見捨てられもするよ)
事実なら、身勝手にも程がある。
話の流れ的には何もおかしく感じないし、実際問題、飛天族と同じような状態から協力関係になった獣人だって、差別的な扱いを受けていた。
全てを鵜呑みにする事は危険だが、信憑性自体は、決して低いとは言えないだろう。
「無論、我等が魔族と通じている筈なぞない! だが、どれだけ釈明したところで人間達は我等を裏切り者として扱い、かといって魔族に降れば、我等の名誉も誇りも地に堕ち果て、それこそ人間達の言葉通り、最悪の裏切り者として歴史に名を刻む事になるだろう!」
(何だろう。随分と熱が入ってきたな……)
人間の卑劣さに辟易して冷めていく研一とは対照的に。
プロケラの声は次第に勢いを増していき、もし研一達を抱えていなければ、腕を振り回して熱弁してそうな程に盛り上がっていく。
「孤立無援! 絶体絶命! もはや全てを敵に回してでも、最期まで勇敢に戦ったと一花咲かせるしかないとなった我等、飛天族!」
この手の感情の介入は、事実や歴史の検証においては邪魔なだけ。
ここからは話半分に聞いた方がいいかと思い、更に心を落ち着けようとした研一だったが、次のプロケラの言葉には、驚かされる事になる。
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