第404話 消えるセンの目のハイライト
「えーと、その気になれば俺ならジャンプすれば、届くと思うんですけど……」
プロケラに抱えられている研一は、気まずそうな様子で提案する。
先程のやり取りで救世主だと認知してもらえた結果、雲の国へと連れて行ってもらえる事になったのだが――
(その、当たってるというか……)
研一の両脇の下に手を入れる形でプロケラに持たれている上に、服の布地もそれ程厚くない上に、相変わらずこの世界には下着という物が存在していないようなので――
割と豊満でたわわな感触が、後頭部に当たっているのだ。
「御不快だとは思いますが、どうか平に御容赦を……」
「いや、別に不快とかそういう話ではなくてですね……」
どうも救世主である研一に相当な無礼を働いてしまったと思っているらしく、最初の高圧的にすら思える程の強気の態度は、どこへ行ってしまったのやら。
今ではすっかり縮こまってしまい、研一の言葉を悪い方へ悪い方へと捉える始末。
「純粋に運ぶのが手間なんじゃないかって思っただけで――」
「お気遣いは有難く。ですが、貴公程の力を持った者が、我等の手も借りずに国に直接乗り込んでしまうと、その、国に住まう者達も心中穏やかで居られないと言いますか……」
とはいえ、申し訳なさはあれども、自責の念で塞ぎ込んでいるという訳ではないらしく。
ちゃんと会話自体は成立出来るくらいには、落ち着いているようであった。
「救世主様から見れば我等も非力に思えるのでしょうが、これまで我等は侵略者は全て山への道中の内に退けており、空の本国への侵入を許した事はないのです」
(この辺は大体、話で聞いていた通りだな……)
「ですから、私に連れられず無造作に侵入しようとすれば、今までの威信に賭けても撃退しようとするでしょうし、その、ですね――」
「ああ、なるほど」
(ずっと撃退を続けていたのに、あっさり突破とかされたら、面子だの何だの言い出す奴が出てきて、面倒な事になるって事か)
言い辛そうなプロケラの態度に、研一は何となく事情を予想出来た。
要は下手に波風を立てない為にも、客人としてプロケラの手で迎え入れられてほしいという話だろう。
「お察しの通りです。救世主様相手なのだから、我等が到底敵わない相手で当然だと受け止めるべきだとは思うのですが、そこまで広い度量を我々は持ち合わせておりません……」
短い頷きだけで研一が全ての事情を理解してくれたと気付いたのだろう。
更にプロケラは申し訳なさそうに、肩身狭そうに縮こまる。
――その結果、密着度が上がり更に胸が押し付けられた。
「いえいえ。今まで無敗って言っていい実績で、自分より強い相手が居るって認められる方が稀ですし、むしろそんな事を言えるプロケラさんは凄い方だと思います」
「恐縮です……」
(何というか、色々と困る……)
研一としても、委縮させたい訳ではないのだ。
これから人間や魔族との歴史について、教えてもらおうという立場の身なので、むしろ最初の堂々としていた態度の方が色々と有難いくらいであり――
何とか打ち解けて、普段通りの姿を見せてほしい。
「…………」
何より、ずっとセンの視線が痛い。
見上げるような形でずっと研一の顔を見詰めており、何も言わないのだ。
気まずいにも程がある。
(もっと他の方法、探せばよかったか?)
センが研一を見上げるような状況で見ている理由は、あまりに特殊な今の研一達の飛び方にあった。
研一達の飛行スタイルは相当に特殊な形になっており――
プロケラが研一を抱え、その研一がセンをお姫様抱っこ状態で抱えているという状態なのだ。
(プロケラさんが俺達に敬意を持って接してくれているし、悪意がないのも解かるけど……)
別に変な趣味があるとか、飛天族に伝わる特殊な運び方ではない。
いくらプロケラの事が信用出来ると言っても、それでも初対面。
他の者達も同じように信用出来るとは限らないし、プロケラの気が変わる可能性だって否定出来ない。
もし他の者にセンを連れ去られたり人質にでもされようものなら、いくら凄まじい身体能力を研一が持っていても、自由自在に空を飛び回れる相手から、センを取り返すのは困難極まる。
その結果、こんな特殊な恰好で飛ぶ事になっている訳だが――
「…………」
(いや、でも、ですよ? ここで胸が当たってるんですけど、なんて指摘しても、余計に気まずくなるだけで何も改善しそうにないし……)
センは何も言わず、どこか色のない目で研一の顔を見詰め続けている。
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