第403話 天狗と呼ばれてしまったプロケラさん
「ここは既に飛天族の領域。再三の警告にも拘わらず、立ち入ろうと言うならば、これ以上は容赦する気はないが、如何に?」
音速すら軽く超える速度で移動出来るプロケラからすれば、空から研一達の居る場所までなんて、文字通り、瞬く程の時間があれば十分。
研一の目の前に現れたプロケラは、これ以上山に近付くようならば、容赦する事は出来ないと警告するが――
すぐにでも戦いなるだろうと予想していたプロケラの推測は、一瞬で砕かれる事になる。
「……天狗?」
プロケラの姿を見た研一が、訝し気な表情で決定的な単語を口にしたからだ。
ピシリ、と。
まるで音でも聞こえそうな勢いで、プロケラが石にでもなってしまったように、空中で静止してしまった。
「あ、いや。こっちの世界に日本の妖怪なんて居る訳ないか」
羽の一つも動かさず。
空中で固まった状態で浮いているプロケラに、羽じゃなくて魔法で浮いているのかなんて思いつつ、研一は話を続けていく。
「えーと、その、羽人じゃなくて飛天族の方でしたっけ? その、戦いに来た訳じゃないので出来たら話を聞いて頂けると助かるのですがって――」
「…………」
そこまで告げたところで、ようやく研一は気付く事が出来た。
さっきまで静止していただけプロケラの顔に、異様な程の汗が流れ始めている事に。
「あの――」
「し、失礼を承知でお聞かせ頂きたいのですが、救世主である闇野研一様だと証明出来る物をお持ちではないでしょうか?」
丁寧でありながら、研一の言葉を遮る勢いで。
傍目で見ている研一にも解かる必死さで、プロケラが言葉を捲し立てていく。
「重ね重ね、失礼だとは思うのですが、その、お聞きしている噂と随分と様子が違うものでして。こちらとしても、お言葉だけで信用するのは、難しいと言いますか……」
どうか違っていてほしい、と言いたげなプロケラの様子に研一は不憫に思いながら。
確かによく考えれば、今までが悪党の振りしてゴリ押しし続けてきたり、救援で呼ばれていたから何とかなっていただけで――
今まであまり証明とか求められた事のない方が、おかしかったんだなと思いながら、異空間からある物を取り出す。
「えっと、飛天族? の方に伝わるかは解からないのですが、一応、いくつかの国からの認可が入った証明書ならあります」
それは今の今まで悪党演技をしていた都合上、使う機会が無かった救世主である事を認めるという印の付いた、紙と言うよりも、特殊な金属で作られたカードのような物だ。
今までに会ってきた党首達の署名が入っているのだが、人間と交流のない飛天族にどれ程の効果があるのか解からず、半信半疑で差し出す研一であったが――
「拝見させて頂きます……」
プロケラは恭しく研一から証明書を受け取ると、僅かに表面を手でなぞる。
このカードのような物体は特殊な素材で作られており、印は魔力によって刻まれている。
そして――
(今の時代の人間に、これ程の魔力を持つ者は多くない筈だ。間違いなく、党首級の者が複数名、署名している……)
読み取った魔力が証明している。
この証明書は間違いなく本物であり、目の前に居る男の正体は救世主か、あるいは本物の救世主から証明書を奪った不届き者の二択。
「か、数々の無礼、平に御容赦を! どうか、どうかここは我の首一つで穏便に!」
それならば、救世主から証明書を奪い取れる者なんて居る筈がないとばかりに、迷う事無くプロケラは慌てて宙に浮くのを止めて降りたかと思うと、迷う事無く地面に頭を擦り付ける。
あまりに完璧な土下座であった。
「えっと――」
突然の急展開にどうすればいいか解からず。
研一は暫く言葉も返せず、途方に暮れるのであった。
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