第402話 天狗と呼ばれたい飛天族
「今でこそ我等は飛天族と名乗っているが、異界人は我等を見たら基本的には、古き呼び名。天狗だと呼んでくれるそうではないか」
何よりもプロケラが研一を救世主と信じていない理由。
それこそがプロケラ達の衣装にある。
頭に赤い三角の帽子のような物を被り、日本の山伏を思わせる和装を露出を増やしたような衣装を着ている上に、手には紅葉でも模したような使い難そうな団扇に、足には普通に立つのも難しそうなT字型の一本歯の下駄という――
清々しいまでの天狗っぽい出で立ち。
おまけに背中に羽まで生えているのだから、顔がどれだけ美人で鼻が出っ張ってなかったとしても、天狗を知っている者ならば、容易に想像出来る筈だ。
だが――
「いや、でもですよ。向こうからは俺達の姿って、見えてないんじゃないですか?」
研一達は山の麓付近に居るが、プロケラ達は空高くを飛んでいる。
おまけに雲に紛れて隠れ潜む形で動いているから、魔力探知で場所を知るくらいは出来ても、目で見て姿形を視認するのは、非常に困難な状況であった。
「それこそ有り得まい。噂を聞く限り、今代の救世主は人格に問題こそあれど、かつて我等を救った救世主様と力自体は同等の物を持っていると言っていい。地上から我等の姿なんて見えて当然だろうし、会話すら聞き取れても不思議でないだろう」
「そりゃあ頭領が救世主の事を、過大評価し過ぎなだけでは?」
「あまりに不敬な発言だぞ。我々の窮地を救えるだけの力を持っているのだ。そのくらいの事は軽々やれて当然だろう」
どうもプロケラは、羽人改め、飛天族としての自分達の力に強い誇りを持っているらしい。
その上で救世主の力を更に自分達より格上として定義しており、そのくらいの事ならやって貰わないと困ると思っているようであった。
「解りました。一応、俺達は止めましたからね?」
「ああ、大丈夫だ。仮にアレが本物の救世主だったなら、我が一人で責任は取る。それで問題ないだろう?」
「いや、責任を押し付けたいという訳ではなくて――」
どちらかと言えば、プロケラの身を案じての言葉であった。
救世主は我々の恩人であり、その恩を忘れて無闇に害してはならない、という掟が飛天族の中にはある。
これを破った者は追放や処刑になる可能性も決して低くはなく、部下としては慎重に動いた方がいいと思っているだけなのだ。
何故なら――
「もしアレが本気で我等に仇なす者だったなら、油断すれば我等は全滅だ。我の首一つで済むなら、必要な犠牲というヤツだ」
研一の圧倒的な力を理解し、国を守る為に最大限、警戒しているからこその対応。
頑なに研一の事を救世主として認めたくない訳でなく、救世主である可能性自体は頭の隅に入れつつ、最悪の事態を想定して動いてくれているという事を、部下達は正しく理解しているからだ。
「いいか。お前等は何があっても手を出すな」
会話をしながらも牽制程度に地上に攻撃を放ち続けていたプロケラだが、研一には全く通用していない事を悟ると――
この距離では何をしても意味がないと確信して、覚悟を決める。
「我が倒されたら、すぐにでも長老達に事情を伝え、国を動かすんだぞ」
「頭領、待って――」
「いいか! 私の戦いを無駄にしてくれるなよ!」
研一が本物の救世主だったなら、独断専行して攻撃を仕掛けた自分だけ処分されればいい。
逆に悪意を持って近付いてきた偽者ならば、最低限、国の者達に危機を知らせて逃げる時間だけは稼ぐ。
その決意と共にプロケラが地上に舞い降りる。
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