第401話 悲しき擦れ違い
「羽人さん達! 聞いて下さい! 俺は闇野研一! 魔族と戦う為に女神によって異世界から召喚され、救世主と呼ばれている男です!」
だが、いくら羽人達が突然襲ってきているとはいえ、研一の目的は戦う事ではない。
人間と魔族の話を第三者の視点から、聞いてみたいだけなのだ。
(こっちから事情を聞きに行く立場だし、無理に悪ぶる必要はないよな?)
いつもと違い悪党の演技をしていないのは、羽人は人間達と交流がないから、素がバレても大丈夫だろうという推測。
それに加えて。
人間嫌いっぽい羽人達に余計な敵対心を与えない為にも、丁寧に接した方がいいだろうという研一なりの配慮であった。
「知らない事とは言え、貴方達の領土を無断で侵してしまった事は謝ります! ですが、こちらに争う気はありません! どうか俺の話を聞いてくれませんか!」
先程の地点が既に羽人達の領土だと言うのなら、言ってしまえば研一は不法入国者。
攻撃されても仕方ないと非を認めつつ、声を張り上げ、必死で対話を試みていこうとする研一であったが――
「研一さん。来ます!」
どうやら向こうに対話する気は、全くないらしい。
研一にお姫様抱っこ状態で抱えられ、戦闘中にも拘わらずご満悦な顔をしたセンが、追撃の報告をしてくれる。
「くっ!」
(そりゃあ、いきなり不法入国者が話をさせろって言っただけじゃ、門前払いを喰らうのは仕方ないかもしれないけど!)
まさか会話の一つも出来ないどころか、姿形も見せずに遥か遠くから攻撃を仕掛けてくるだけとは、完全に想定外。
いくら何でも厳し過ぎるだろうと思う研一だが、大きな認識違いがあった。
「頭領。救世主と名乗っていますが――」
遥か上空。
空に浮かぶ雲に紛れるようにして、地上を見下ろしていた羽の生えた人間のような集団が居たのだが――
「救世主は異界人。かつて我等の祖先を救った恩人達の一族であり、礼を尽くして、地上人達とは一線を画した対応をすべきという、古からの掟がある筈では?」
そこに属する一人が、集団の中で格が高そうな服装をしている女性に声を掛ける。
どうやら、羽人達的には救世主に一方的に攻撃を仕掛けるのは、少しばかし問題のある行動らしい。
だが――
「はっ、下らん」
頭領と呼ばれた女性、プロケラ・ウェンティは検討する余地もないとばかりに一言で吐き捨てる。
研一が救世主である筈がない、と確信しているように。
「お前達も知っているだろう? 今代の救世主は、力に溺れた乱暴者で、好みの女と見れば国の代表だろうと手籠めにする悪漢だと。あんなマトモそうな男の訳がない」
その理由こそ、救世主の噂だ。
人間と敵対しているような状態だからこそ、動向を探る為に情報を多く集めており、今回呼び出された救世主が碌でもなしの変態だという話は、嫌という程に耳に入っている。
「我としても、だ。あんな礼儀正しく真面目そうな男が救世主であれば望ましいとは思うが、世界が違っても人間。力に溺れるのが道理というモノなのだろう」
プロケラとしても、掟がある以上、救世主には最低限の敬意くらいは払おうとは思っている。
「所詮は、我等の祖先の恩人と同郷というだけ。別の人間でしかないのだからな……」
だが、それでも噂を聞く限り、すぐに敬意なんて捨てて、皆を守る為に戦う羽目になるだろうと残念そうな様子を隠しもしない。
「話が逸れたな。いくらどうしようもない悪漢とはいえ、我等の祖先の恩人達に連なる者の名を語る、不届き者。祖先に代わり、我等が罰を降さないでどうする?」
研一が追撃を受けている理由。
それこそ、救世主を名乗ったにも拘わらず、噂と違って好青年にしか見えなくて、偽者と思われているからであった。
「ですが――」
「お前達も解かるだろう? あの者の秘めた魔力を。アレだけの力を持ち、我等が救世主には手を出し難い事を知っていて、救世主を名乗っているのだ。相当な危険人物と見ていい」
更に最初に全力で攻撃されたのも、研一の実力に気付いていたからだ。
つまりプロケラ達から見た研一の状態は、不法侵入者ではなく――
下手すれば国を落とせるだけの力を持った軍事兵器が突然現れたかと思えば、貴方達の味方なので国に入れて下さい。
なんて言いながら擦り寄ってきているという、トンデモナイ事態なのだ。
――いくら飛天族が人間嫌いとはいえ、問答無用で侵入者を殺し回ったりして、下手に反感なんて買いたくはない。
あくまで今回の問答無用の対応は、特例であった。
「大体、だ。異界人である筈の救世主が、我等をどうして羽人なんて、ふざけた名前で呼ぶ?」
更にプロケラを頑なにさせている理由が、自分達の呼び方だ。
羽の生えた人。
まるで人である部分こそが主体である物言いであり、プロケラ達からすれば、この呼び方は蔑称とまでは言わないが、あまり好ましい言い方ではない。
天を自由に飛び回る者という意味で、基本的には飛天族と名乗っているからだ。
――残念ながら人間と全くに近い次元で交流がないからこそ、この種属名自体が人間には伝わっていないのだけれども。
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