第400話 触らずの山
「センちゃん。もう一度聞くけど、本当にいいのかい?」
噂の山の近くに繋がっているという転移陣の前で、研一はセンに最後の確認をしていた。
当然だが、これからの事に付いて、センには真っ先に相談していた。
今の中途半端な状態は、ある意味では一番不安定な状態であり、人間側からも魔族側からも敵視される可能性があり――
判断を終え、どちらかの勢力に就こうとなった時に、今更信じられるかと受け容れてもらえず、孤立する可能性だって十分あるのだ。
(それでも俺は――)
危険性を考慮して尚、ちゃんと知って進んでいきたいと思った。
けれど、それは研一個人の心の問題。
ただ安全に生きるだけなら他にいくらでも方法があるのに、自分の個人的な主義や信念の為にセンを危険に巻き込むのは違う。
「もう。言ったじゃないですか。私の居る場所は研一さんの隣だけです。例え研一さんが世界中の誰から恨まれても隣に居ますし、悪党に成り下がったら、一緒に私も悪党に堕ちますよ」
だが、センの言葉は過去に相談した時と何も変わらない。
どんな苦痛や困難が待ち構えていたって、研一の傍に居られなくなる事に比べれば、大した事なんてない。
それは研一が恋人と再会しても変わる事はなく――
(ベッカさんだって言ってたもの! むしろ離れちゃったら、それこそ機会なんて失くなっちゃう!)
より一層の執着心や対抗心となって燃え上がる。
センの恋心は、強敵が現れたくらいで諦められるような柔いモノではなかった。
「解かった。それじゃあ行こうか!」
これ以上の確認は、センの決意と覚悟を貶めるだけだろう。
それならば、下手に心配するよりも信頼しているという気持ちを込めて、笑い掛けるだけ。
「はい、一緒に行きましょう!」
センも研一の想いを受け取って。
眩しいくらいの笑顔を見せて、研一と共に転移陣の上に乗る。
「……」
即座に発動される転移の光に二人は、軽く一度だけ見詰め合って、
この瞬間だけは二人には新天地への不安も、まだ何も進べき道が決まっていない事への焦りもなく。
ただ、お互いの存在を感じて不思議な安心感を覚えていたのであった。
〇 〇
「これがベッカさんから聞いた『触らずの山』か……」
転移に成功した研一は、本当に山のすぐ傍に転移された事に感心しつつ、見上げるようにして山の全体を見るが――
大きい事は大きい山ではあるのだが、思っていたより巨大でも壮大でもなかった。
「てっきり物凄く大きい山で、頂上が雲の上にある国と繋がっているとか、山が雲を貫通している感じなのかなって思ってたんですけど、山から少し離れた所に、大きな雲が浮いてる感じなんですね」
センも想像と少し違ったのか。
青々としたのどかそうな雰囲気の山に、僅かに戸惑いの色が見えた。
「けど、雲の方は俺が思ってたよりも大きいかな?」
「あ、私もです。確かにアレなら街の一つや二つくらいあっても、おかしくないですよね!」
だが、山の方は想像よりも小ぶりだったが、雲の方は壮観だった。
真っ白な雲が山全体を太陽の光から隠してしまう程に広がっており、この上に国があるのだとすれば。
一種族しか居なかったとしても、相当な規模だと予測出来る。
(まあ地球の常識で考えたら、どれだけ大きくても有り得ない事ではあるんだけれど……)
ただ地球基準の科学で考えれば、雲はどこまで言っても雲でしかなく、その上で生物が暮らして行く事なんて不可能だ。
(いくら少し前に日本に居た頃の知り合いに再会したとはいえ、やっぱりここって地球じゃないんだなあ……)
改めて自分が異世界に居る事を実感しつつ。
見ているだけじゃ意味がないとばかりに、研一が山に入ろうと足を進めてた瞬間だった。
(これは――)
急に世界がゆっくり見え始めると共に、身体に何かが刺さるような感覚。
もう戸惑う事もない程に慣れ親しんでしまった、自分に敵意を持つ者が戦闘を仕掛けて来ている状態だ。
「センちゃん!」
「うわっと!」
おそらく山そのものが羽人とやらの領土で、既に侵入者として扱われているのだろう。
即座に判断した研一は、急いでセンを抱え込み、後ろに飛び退く。
その瞬間、研一とセンが居た地点の地面が、見えない何かの力によって鋭く切り裂かれた。
(問答無用で襲ってくるって聞いたけど、本当に警告も何も無しなのか!)
いくら閉鎖的な種族とはいえ、あまりにも物騒過ぎる。
確かに『触らずの山』なんて名付けられ、近付く事さえ忌避されるのも頷ける剣呑さだ。
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書籍化して絵が付いているところが見たい。
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