第397話 優しさというには、強過ぎる信用
「だから言ったじゃないですか。サーラさんなら何をしてでも引き留めてくるって……」
その後、部屋に戻った研一を待っていたのは呆れた顔をしたセンだった。
人と魔族の混血で、この世界では珍しい黒髪黒目が特徴的な可愛らしい少女なのだが、普段は研一には愛らしい笑顔を見せる事が多いのに――
今は随分と渋い表情をしており、折角の可愛さも半減していると言っていいだろう。
「全く。貴様は姫様の事を何も解っていない……」
そこでセンと共に部屋に居た、高身長の金髪美女が話し掛けてくる。
サラマンドラ国で警備隊長を任されている、女騎士のベッカだ。
こちらもセンと同じように呆れたような表情をしているが、可愛い系の顔立ちをしたセンと違い、綺麗系の顔立ちをしている上に身長の高さも相まって――
不満そうな顔で佇んでいると、少しばかり迫力がある。
「あの方が自分の身を犠牲にするような優しさを、放っておける訳がないだろう。無駄にお手を煩わせてしまうだけだから、あまり余計な事なぞ、してくれるな……」
「そうですよ。もう帰って来れないかもしれないから別れの挨拶をしておけとか、研一さんは余計な心配し過ぎなんです」
どうも二人とも、サーラの反応は、大体予測出来ていたらしい。
サーラの反応次第では、すぐにでもサラマンドラ国を立つ可能性もあると考えており、わざわざ別行動して、二人に別れの時間を作った研一だったが――
どうやら完全に杞憂だったようだ。
「いや、でもだよ? 下手すれば人間側から見たら最悪の裏切り者を呼んだみたいな展開になり兼ねないし、出来るだけ早く離れた方がいいと思って……」
これでも研一としては、全力でサーラの事を考えた結果なのだ。
それなのに見当外れも甚だしいという二人の態度に、どうしても言い訳の言葉が口から漏れ出してしまう。
「サーラさんが優しい人なのは俺だって知っている。だからこそ迷惑を掛けたくなくて――」
「それが姫様の事を何も解ってないと言うんだ」
けれど、ベッカは研一の言葉を遮るように再び繰り返す。
サーラが研一に協力してくれているのは、ただ優しさや恋慕の情だけではないのだ、と。
「あの方が貴様に協力する理由は、それだけではない。どちらかと言えば、貴様の人柄への信用の方が大きい」
「人柄への信用、ですか?」
「ああ、そうだ。姫様からすればな。別に貴様が人間を裏切ると決めたなら、それならそれで別に構わないのさ。そうなっても、姫様も変わらず協力する気だからな」
「どういう事です?」
サーラは人間の国の党首を務めており。
言ってしまえば、人間側を守る代表者の一人だ。
(立場を抜きにしても責任感が強い人だし、自分の役目を放り出して俺と共に魔族側に寝返るなんて思えないけど……)
もし研一が魔族側に就いたとしたら、本人の気持ちを抜きにして、党首として戦う筈。
それが研一の想像しているサーラという人間であり、だからこそ研一は取り返しの付かない迷惑を掛ける前に離れようとしたのだが――
どうやら、そのサーラの解釈では間違っているらしい。
「貴様は男になんて興味のなかった私でも、惚れてしまう良い男だ。自分の身を犠牲にする事になっても、無辜の民を助けずに居られない善良さがある」
「え、ええと、その……」
急に告白めいた事を言われて、研一は返事に窮す。
だが、ベッカは事実を言っているだけだとばかりに、気にする事もせず、更に説明を続けていく。
「そんな優しく善良な貴様が。魔族に就いて人間を滅ぼそうと考えたのなら、きっと滅ぼされるだけの理由が人間にあったのだろう、と姫様も私も考える」
研一にそこまでの選択をさせた時点で、サーラもベッカも人間側の方を信用しない。
もし研一が共に魔族側に就けと言うのなら、就くかもしれないし。
人類存続を賭けて殺し合おうと告げたのならば、きっとそれだけの理由があるのだろうと諦めて、きっと戦うだろう。
――俺の目的の為に死んでくれ、とか言い出す研一は、どうしてもベッカには想像出来なかった。
「貴様が思っているほど、姫様は甘い人ではないよ」
ただ善良な相手を見捨てられない、優しさだけではない。
自分の命や運命を預けてもいいと思えるくらいに研一の事を信用する、その心根の強さこそがサーラの本質なのだと、ベッカは語る。
「どうして、そこまで俺なんかの事、信じられるんです?」
自分より遥かにサーラの事を知っているであろう、ベッカの言葉を否定する気は、研一には全くない。
ベッカが言うのなら、その強さが確かにサーラの中にあるのだろう。
けれど――
「俺なんか、この世界に来る前は本当にただの凡人で。この世界に来た後だって、凄い力貰った割に、大した事も出来てない駄目な奴でしかないですよ?」
だが、自分自身の評価の高さは信じられない。
特にサーラやベッカみたいな凄い人に、そこまで言ってもらえる理由なんてない筈だとばかりに、思わず否定するような言葉が口から飛び出してしまう。
面白かった、続きが見たい。
書籍化して絵が付いているところが見たい。
何かしら感じてくれた方は、是非とも高評価してくれると嬉しいです。
また気楽にリアクションなどして頂ければ嬉しいです。




