第395話 別れは再会の決意と共に
「俺もさ。もう日本に気持ちは残ってないよ」
楓を安心させるように、研一も意志を伝えていく。
そもそもが楓を生き返らせる為だけに、女神の手を取ったのだ。
この世界に楓が居て元気に過ごしているのなら、地球に戻る理由なんてどこにもないとばかりに。
けれど――
「それは私の事だけが理由じゃないよね?」
まるで全て知っているとばかりに、楓は少し寂しそうに告げる。
おそらくだが研一がこの世界に来た瞬間に楓と出会っていたとしても、この世界に留まる道を選んでいただろう。
そして、楓と共に魔族側に就いて、人間と戦っていた筈だ。
「……うん。楓は違うみたいだけどさ。俺、この世界の人達の事を、全員は嫌いになれない」
でも、研一もこの世界で色んな出会いを経験した。
たった一人で誰にも理解されずに戦い続けるしかないと思った中、ずっと隣で支え続けてくれたセンを筆頭に――
どうしても見捨てられない、裏切れない人達が出来てしまった。
「滅ぼすって言われたら、全力で邪魔するのを止められないくらいには、さ」
「それはさ。私と敵対する事になっても駄目?」
「……ごめん」
楓の問い掛けに短いけれど、はっきりとした拒絶を返す。
むしろ、楓がセンやサーラを殺すところなんて見たくないからこそ、自分は楓と共に歩く事なんて出来なかったから。
「ううん、いいよ。ケンが人間の救世主として召喚された時から、覚悟はしていたから」
ここで繋がりを持った相手を見捨てられないような人だと解っていた上で、楓は研一の事を好きになったのだ。
その優しさ全てを独り占め出来たらいいし、その気持ち全てを捨てでもいいくらいに自分を愛してくれるなら素敵だなとは思うが――
研一らしさとも言うべき一番大事な部分が自分のせいで歪んだり、変質する事まで楓は望んでいない。
「ありがとう。世界を越えて、凄い力を持っても、ケンは変わらずケンのままで居てくれて」
「俺は――」
「謝罪も言い訳も無し。私はケンのそういう所が好きなんだからさ」
「わぷっ」
楓は力任せに、研一の身体を自分の胸に押し付ける。
暴走していない今の研一の力では抗える訳もなく、物理的に何も言えなくなってしまう。
「でもね、ケン、覚えておいて。この世界で私を殺せるのは、多分ケンだけ。ケンが私を滅ぼせない以上、人間に勝ちはないよ」
「それは――」
恋人同士を思わせる甘い体勢とは裏腹に。
絶対的な力を持つ魔王である自分を倒せない限り、いつかは人間の敗北で戦いは終わるだろうなんて。
冷や水でも掛けるように、楓は事実を告げていく。
「なあ、楓。楓はどうしてそこまで――」
確かに禄でもない人間は、この世界にもたくさん居た。
確かにサキュバスを奴隷にしようとした挙句に、魔族に関して人間達の都合の良い嘘八百の出まかせを流していたり。
他にも回ってきた国々で色々あったし。
研一ですら許せないと思える事も多々あったが、それでも人間全員滅ぼさないといけないと思うまでの事かという疑問が尽きない。
「……サキュバスとか雷の国の事なんてさ。この世界の人間の一部でしかないよ。私もね、サーラさん達みたいな人しか居ないのなら、もっと別の道を探したと思うから」
あえて楓は何も口にしない。
言葉なんてモノはいくらでも嘘を吐けるし、見る側の視点次第でいくらでも変わるモノだと知っているから。
「だからさ、ケン。もっと色んな場所を渡り歩いて、人間も魔族も、この世界の事をもっと理解して」
自分の目で見て、心で判断してほしい。
そうして研一自身の意志で選択する事こそ、大事だとばかりに楓は告げて――
「それでも人間の味方をしたいなら、さ。その時は、私に伝えてくれると嬉しいな」
優しいが何の迷いもない声で、はっきりと自分の意志を伝える。
自分は魔王なんて呼ばれる立場ではあるが、決して、魔族の味方ではないのだ、と。
「最初に会った時に言ったけどさ。ケンが望むなら人間の味方して魔族を全て滅ぼしてもいいし、私の命だって、ケンになら上げてもいいんだから」
研一が望んでくれるのなら、他の何を踏み躙って裏切っても構わない。
自分の命を捧げる事さえ、喜びでしかないのだとばかりに、本当に幸せそうに笑って。
「かえ――」
死んでもいいなんて言うななんて文句を言おうと顔を上げようとした研一だったが――
その動きを予想していたように楓は、触れるだけのキスをして、何も言わせない。
「次はその、ゆっくり、ベッドの上で続きしようね」
機先を制され動けない研一を置き去りに。
顔を赤くして誘惑の言葉を残したかと思うと、楓の身体から魔力が溢れ出す。
「ああ。その時はその、色々よろしく」
それが転移の魔法だと気付いた研一が、慌てて返事を送ると同時に周囲が眩い光に包まれて。
既に楓の姿は、そこになく。
「またな、楓……」
聞こえる筈なんてないと解かっていながら。
研一は、それでも再会の言葉を口にし――
「はわぁー……」
二人の濃い想いに当てられたプルケルは、恍惚とした表情で気絶したのであった。
これにて第八部終了です。
明日から引き続き第九部が始まりますので、お付き合いして頂ければ嬉しいです。
最近はPVも多くなってきているので、そろそろ書籍化の打診が来てほしいので、是非ともブックマークと高評価、レビューして頂ければ嬉しいです。
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