第393話 掟破りの反則技
「けど!」
信じられないとばかりに、研一は反射的に否定の声を上げる。
感情が高ぶり過ぎて短くしか言葉を吐けなかったが、それでも無理やり呼吸を整えて、必死で言葉を絞り出していく。
「楓が俺一人置いて、逝く訳がないんだ!」
確かに楓は過去に自殺してしまった事がある。
けれど、それは凄惨な事件のショック等による混乱があったから。
落ち着いた精神状態なら、絶対にそんな馬鹿な事をするような人じゃないとばかりに、縋るように研一は叫んでいく。
「安全に俺を止める方法があったなら、絶対にそっちを選ぶ! それが後味の悪いやり方なら、後で謝ってくるけど、確実に成功する方法を選ぶタイプで――」
ただの感情論だけではない。
どうしても、研一の知っている楓と行動が一致しない。
「俺のせいで楓が死んだって知ったら、俺がどう思うかなんて、誰よりも解ってる! それなのに、そんな無茶な事する訳ないんだ!」
楓本人の感情よりも、研一が傷付くかどうかを気遣ってしまう。
そういう人だ。
他に方法がなかったというならともかく、安全な方法があるのに楓自身を犠牲にするなんて、研一の知っている楓では有り得ない。
(けど――)
そんな感情とは別に、今まで多くの魔族や魔獣を倒してきた感覚が告げている。
確かに自分の魔力が何かを消滅させてしまったような、手応えのようなモノが残っているし。
かつてない程に膨大な功績値が手に入っていた。
どんな願いでも叶えられそうな程に馬鹿げた量であり、こんなトンデモナイ量の功績値は、最強の魔族である魔王でも倒さないと手に入らないだろう。
これ等の事実が感情や推測なんか吹き飛ばして、研一に語り掛けてくるのだ。
お前が暴走して、楓を殺してしまったのだ、と。
「…………」
研一が絶望に囚われそうになった瞬間だった。
不意に脳裏を駆け巡る声があった。
――今でも世界を越えてもいいくらい、私の事、好きだと嬉しいな。
半ば意識を失っている状態で呟かれた楓の声。
けれど、独り言として片付けてしまうには、期待するような、悪戯でもするように語り掛けていたような気がして。
「はは。なるほどなるほど! そう来たかあ!」
楓の言葉に秘められた意味に気付いた瞬間、研一は声を上げて笑う。
笑うしかなかった。
「け、研一様? 一体どうし――」
楓を殺してしまったショックで、おかしくなってしまったのではないか。
それならば鎮静効果のある魔法を放とうと、プルケルが身構える。
――今回の事態を引き起こしてしまった責任は自分にあると思い、何かあれば自分がまずは命を賭けると懇願したからこそ、プルケルは一人で研一の目覚めを待っていたのだ。
「ああ、ごめんごめん。こんなの普通気付かない、と思ってね」
別におかしくなった訳じゃないよ、とでも言いたげにプルケルを安心させるように笑って。
研一は説明を始める。
「多分だけどさ。暴走した俺の力って、プルケルさんが思った以上に強かったんだと思う。楓の力でも、安全に確実に止める方法なんて、ないくらいにね」
この研一の推測は正しい。
楓は別に、感傷で自分の身を犠牲にした訳ではないのだ。
暴走した研一の力は楓に拮抗しており、力任せに挑めば相打ちになる可能性すらあった。
それならば下手に力で抑えようとせず、研一の心に語り掛ける道を選んだ。
自分の言葉なら研一に届くと信じて。
そして――
「耐え切ったなら、それで良し。無理なら次は俺に託してくれたんだ」
研一の暴走自体は、命に代えても必ず止める。
けれど、それで終わりじゃない。
最後の策を残していたのだ。
(楓の方が俺よりも、功績値とかに詳しそうだったもんな……)
今の研一には、ラスボスとも言うべき魔王を倒した莫大な功績値が手元にある。
それは世界を越え、元の地球に戻る事も可能なら――
例え魔王であったとしても、まだ死んで間もないなら、生き返らせる事さえ出来る程に膨大な量だ。
「あの、研一様。何をする気で――」
「俺と楓しか使えない、反則技みたいなモノがあってね。まあ見ていてよ」
神様だの功績値だのという、細かい説明を一々プルケルにしても仕方ない。
百聞は一見に如かずとばかりに、研一は手に入れた莫大な功績値を一気に使い切る。
「な、何です! この神々しい力は!」
魔力に似ているが、どこか違う。
尋常でない力と光が部屋中を満たしていく。
はたして――
「ただいま、ケン」
まるで散歩から帰ってきたかのような気楽さで。
研一なら絶対に生き返らせてくれるという信頼と共に、楓が舞い戻る。
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