第389話 それは元凶と呼ぶには、あまりにも――
「ええっと、楓? 一旦落ち着こう?」
サーラ達が息も出来なくなる程の魔力の圧を受けても、研一は気にする事もなく、自然体で話し掛ける。
例えどれだけ力が強くなろうと、研一にとって楓は楓。
ずっと助けたかった相手でしかなく、どこにも恐れる意味なんてなくて。
「ほら、無意識に薬の効果の強化とか出来るならさ、意識してさっきの薬を毒だと思えば、きっと薬の無効化だって――」
だから別に楓とそういう事をするだけなら、研一だって吝かでもないのだが――
時と場合にも拠る。
こんな寝室でも何でもない場所な上に周囲に人が居る状況で、するような趣味はない。
「無理だよ……。どう頑張ってもケンへのこの感情を、悪いモノって思う事なんて私には出来ないもん……」
だが、楓は違った。
研一の言葉通り、その気になれば薬の無効化は出来たのかもしれないが、それを試す気にならないくらい我慢出来なかった。
「ケンが悪いんだよ。サーラさんみたいなエッチな恰好した美人に、センさんみたいな可愛い女の子。ベッカさんみたいなアメリカのモデルみたいな美女も居るかと思えば、クエストさんみたいな変態入った格好のお姉さんまで、選り取り見取りに侍らせて――」
何故なら、久しぶりに再会した恋人が、多種多様の美女に取り囲まれているのだ。
これで焦るなという方が無理な話。
とはいえ、楓だって本当は何も言う気なんてなかった。
研一の事を信じられず、先走って死んでしまった自分に何も言う権利なんてないと思っていたからだが――
薬の影響で理性のタガが外れてきている楓には、もう我慢なんて出来ない。
秘めようとしていた気持ちが、次々に楓の口から溢れ出していく。
「別に侍らせては――」
「ケンは地球に居た頃から、そう。だって困ってたしって言って、厄介事に首突っ込んで、それでケンの事を好きになった子って、どれくらい居たと思う?」
「そんな事はないだろ」
楓の言葉に当然のように、研一は否定の声を返していく。
別にサーラ達は侍らせてないし。
何の自慢にもならないが、研一は楓が初の恋人であり、地球に居た頃に告白してくれた女性も楓だけ。
モテた記憶なんてない。
「当たり前みたいに誰でも助けてたから、皆、ケンの優しさを当然みたいに思ってただけ!」
それも仕方ないのかもしれない。
困り事がある時に助けてと頼みさえすれば、例えほとんど話した事無い相手がタチの悪いストーカーに付き纏われているから助けてと言われても。
必死で守ったりしていたのが、地球に居た頃の研一という人間であり――
誰にでもそんな態度なモノだから、研一が助けてくれる事なんて、当たり前のように大体の人間が思ってしまっていた。
「ケンが私と恋人になって、私を優先してくれるようになってからは、本当に色々と凄かったんだから!」
だが、楓と付き合い始めてから研一は変わった。
あまりにも大変そうな事でもなければ、楓と過ごす時間を優先するようになり。
それでも本当に困っている相手は見過ごせず、時間が許す限り手伝ったりこそするものの、困り事が解決するなり、少し照れ臭そうに様子で言って、急いで帰ってしまうのだ。
それじゃあ楓を待たせているから、と。
そこに来て、ようやく研一が当たり前に自分の事を助けてくれる存在じゃないと気付いて、恋心のようなモノを抱いたり、あるいは既に抱いていた恋心に気付いたりするのだが――
既に手遅れ。
研一の特別な場所には、楓が居るという状態に陥る女性が相次いだのである。
「ケンの隣に居るのは自分が相応しいって皆に思い知らせる為に、私がどれだけ頑張ってきたか解からないよね!」
そして、研一という人間を知っている者からすれば、下手に浮気とか迫ったり、楓の方を悪く言ったところで、研一の反感を買うだけなのは、火を見るよりも明らか。
そこで、それとなくアピールする事になるのだが――
研一が鈍いのもあったが、それ以上に必死で牽制し続けていたからこそ、研一は他の女性の好意に気付かなかったのだ。
「私の優しさなんて、全部ケンの恋人に相応しい人ならこうするだろうなっていう、打算でしかないんだよ!」
薬で抑えの利かなくなった楓の口は、どこまでも止まらない。
絶対に秘めておこうと思っていた筈の言葉さえ、口にしてしまう。
「あの時だってそう! 道案内なんて、本当は面倒臭かった。けど、ケンなら絶対に見過ごさないだろうなって思ったから、仕方なく手伝ったら、あんな事になって――」
それは、問題の事件の日。
もう記憶を弄って体験としては理解出来ないけれど、記録としては全て知っている、忌まわしい時の事。
楓が死のうと決めた本心。
「誰よりもケンに相応しい人になりたかったのに、それなのにもう触れてももらえなくなって。私の頑張りも何もかも全部無駄だって思ったら、どうでもよく――」
「楓が死んだのは、全部俺のせい?」
そこでポツリと漏れ出た研一の声に、止め処なく続けられていた楓の言葉が止まる。
その絶望に彩られた音の響きは、薬の影響で茹だっていた頭を、一瞬で冷やしていく。
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