第385話 魔王の力
「へえ、結構やるんだね」
楓の圧勝で終わるかに思われた戦いだが、意外にも戦況は膠着していた。
別に戦力差は何一つ変わっていない。
楓は腕を振り下ろすだけで距離に関係なく研一達を気絶させる程の一撃を放ってきているし、逆に研一達の攻撃は何千発当てたとしても、蚊に刺された程の痛手も与えられない。
力の差は蟻と象以上のままだろう。
「さすがケンに協力してくれる仲間ってトコなのかな」
だが、一番魔力が低いベッカを集中的に狙い続けているというのに、楓は未だベッカを倒せていなかった。
驚くべき回避能力であった。
「姫様を倒したところを隠れて見させてもらったからな! 攻撃動作さえ解っているなら、避けるくらいは出来るさ!」
サラマンドラ国一の戦士であるベッカは、攻撃魔法が使えないという大きな弱点を抱えている代わりに、その魔力全てを身体強化に使う事が出来る。
矢すら追い越す速さで部屋中を縦横無尽に飛び回れる上に――
国とサーラを守る為、常に戦いに身を置いてきた戦闘経験が加われば、視線や肩の動きから攻撃を予測して、避けるくらいは何とか出来ていた。
「そっちの露出狂みたいな人も、結構凄いね……」
かといってベッカを後回しにして、クエストに狙いを定めても、こちらも当たらない。
動き回って狙い難いベッカと違って、攻撃が当たる直前にギリギリの所で避けてしまうのだ。
「ふふ。出来れば直接喰らってみて、魔王とやらの魔法を解析してみたいところではあるのだが、研一君には色々と迷惑を掛けてしまったからね。今回は真面目に戦わせてもらうとしようかな!」
魔力を使って薬物を精製出来るクエストは、薬を使って身体能力を強化する事が出来る。
動体視力や反射神経等を極限まで上げる事により、攻撃の動作を見てから最小限の動きで避け続けていく。
そして――
「そっちの子も当たらない。何か仕掛けでもあるのかな?」
ベッカとクエストを狙うと見せ掛けて、センに不意打ちを仕掛けても、これまた当たらない。
二人に比べれば不格好で危なっかしい動きではあるものの、それでも辛くも攻撃を交わし続けていく。
「……どうかな? 貴女には教えてあげない」
当然、種も仕掛けもある。
センの持つ魔法でベッカやクエストと思考を共有する事で、二人から攻撃が来るタイミングを教えてもらっているのだ。
本当なら楓から直接読めれば一番確実なのだが、どうも魔力差があり過ぎるからか。
それとも対策されているのか。
楓の思考が一切読み取れない為、このような迂遠な手段を取るしかなかったのである。
「ふふ、いいね。頼りになる仲間が、いっぱいだ」
だが、楓の顔に焦りの色は一つもなかった。
当然だろう。
「……振り下ろす攻撃しかしないのは、サーラさんの部屋を必要以上に壊さない為か?」
「うん。優しい人みたいだしね。自室が滅茶苦茶になったら可哀相じゃない」
研一の言葉を平然と肯定した事から解かるように、そもそも楓は本気でも何でもない。
必要以上に相手と部屋を傷付けない為に、丁寧に攻撃しているだけ。
極端な話、部屋ごと吹き飛ばしてしまえば、研一達は避ける隙間もなく、一撃で倒されるしかないのだろうが――
「こうも力の差があるとね。全員を丁度良く気絶させるってのは、難しくてさ」
この中で研一の次に魔力を持っているセンを倒せるだけの威力で攻撃して、間違ってベッカに当たってしまえば、確実にベッカは死ぬ。
必要以上には傷付けず、穏便に研一を連れて帰る。
その為に力を抑えているからこそ、膠着状態になっているだけでしかないのだから。
「そうやって余裕ぶってると、足元を掬われるぞ!」
いくら何でも油断し過ぎだとばかりに、研一が魔力を飛ばして攻撃する。
他の人達へ攻撃した直後の、避けるのも防ぐのも難しいタイミング。
そこに魔族の部隊長級なら、防御もせず直撃すれば一撃で吹き飛ぶ程の膨大な魔力の込めて攻撃を放った。
(ごめん、皆。いくら魔力に差があると言っても、俺にはこれが限界……)
さすがに顔や身体を狙うのは気が引けて。
足に向けて放たれた魔力の奔流が、吸い込まれるようにして楓に直撃する。
けれど――
「ケン。それってよくある誤用だよ。足元を疎かにしていると、足を掬われる、だよ」
楓は攻撃された事など気にも留めず、軽口を返す。
確かに足に攻撃が当たったにも拘わらず、傷どころか痛みさえ感じていないようだった。
面白かった、続きが見たい。
書籍化して絵が付いているところが見たい。
何かしら感じてくれた方は、是非とも高評価してくれると嬉しいです。
また気楽にリアクションなどして頂ければ嬉しいです。




