第384話 魔王戦と言えば四対一
「それじゃあ俺も人間側の救世主として、抵抗させてもらおうかな?」
力任せに無理やり連れて行かれるのは好きじゃない。
魔族の国が見たいなら、自分の意志で向かう。
攫われて仕方なくなんて形で行きたくは、なかった。
「よく言うよ。最初から私と戦う為に時間稼ぎしてた癖にさ」
「ああ、バレてたんだ」
それ以前に。
楓が魔王だと知った時から、おそらく戦いになる事自体は予想しており、話に付き合っていたのも半分は時間稼ぎ。
「それじゃあ、もう隠れてなくてもいいですよ。ベッカさん」
「いくらバレてるからって、わざわざ言わなくてもいいだろうに……」
研一の言葉に呼応するように、気配を殺して隠れ潜んでいたベッカが姿を現す。
プルケルに眠らされてしまったベッカだが、実はセンの治療を受けて回復しており、密かに部屋に入って楓の隙を窺っていたのだ。
――センが僅かに部屋に来るのが遅れていたのは、ベッカの治療をしていたからだ。
「……ケンってさ。真面目で馬鹿正直に見えて、意外と強かというか、結構ズルイトコあるよね」
だが、楓はベッカに僅かに視線を向けただけで、すぐに研一の方に向き直る。
ベッカなんて眼中にもないとばかりに。
「もう一人居るでしょ? そっちが奇襲の本命かな」
「おやおや。薬で姿も匂いも消しているのに、それでも解かるものなのか。いいね、魔王の力も実に興味深いじゃないか!」
そこで研一の後ろに隠れていた者が姿を現す。
魔力を使って薬を精製出来る研究者、クエストだ。
相も変わらず全裸の上に大きめの白衣を羽織っているだけという、あまりに危ない恰好で佇んでいた。
「……これもバレてるのか」
研一は諦めたように声を漏らす。
あえてベッカの存在を楓に伝えたのは、更に潜んでいた最後の一人であるクエストを隠すためであり。
楓との戦いにおいて、切り札となってくれる筈だったのだが――
折角センに頼んで、隠れ里から急いできてもらうように念話で呼び出し、作戦だって伝えていたのに、全て知られていては台無し。
僅かな勝機も完全に摘み取られてしまったと言っても、過言ではないだろう。
「ケンだって人間の神様からスキル貰ったから知ってるでしょ? 私に意識を向けてくる以上、不意打ちなんて通用しないよ」
「人間の神?」
さて、どうしたものかと悩む研一の耳に、違和感のある単語が聞こえてくる。
研一がスキルを授かったのは魔族の神であり、本来は魔王に与えられる筈だったスキルを変質させたモノ。
人間の神なんて、会った事もない。
「もう! その初めて聞いたみたいな無駄に上手い演技、やめてよ。研一も貰ったんでしょ? 魔族に恐れられ、人間に知られる程強くなる、『勇者のスキル』をさ」
「……ああ。なるほど、ね。そういう事か」
どうやら楓を転生させたのは人間の神で、持っているのも勇者としてのスキルらしい。
魔王のスキルを持つ者が救世主をやっていて、勇者のスキルを持つ者が魔王。
随分と皮肉の利いた話だと、研一は冷ややかな笑みが口に浮かべて。
「一応言っておくけど、別に楓と話していたのは、時間稼ぎの為だけじゃないよ。会えて嬉しかったのは本当だし、状況さえ許してくれるなら、もっともっと話していたかった」
聞きたい事も知りたい事も山のようにあれば。
そんな事を抜きにしても、積もる話だってあるし、ちゃんとそこに居るんだと安心出来るまで、触れていたかった。
「大丈夫、解かってるよ。そこを疑うようならさ、ケンの為に魔族を滅ぼしてもいいなんて、口が裂けても言えないもの」
時間稼ぎの為だけに会話していたと誤解される事を恐れる研一に、楓は柔らかく笑って答える。
自分の好きになった人は、そんな打算的で冷酷な人じゃない。
強かで自分の目的の為ならば、意外なくらいに小狡い事だってするけれど――
本当の意味で人を傷付ける事なんて絶対に出来ない、真面目で優しい人なんだ、と。
「そっちの子も含めて四対一、か。ふふ、まるでケンが好きなRPGみたいな状況だね」
そこで密かに臨戦態勢を取っているセンの姿に気付いた楓は、楽しそうに笑って告げる。
パズルゲーとかの方が好きな楓ではあったが、それでも研一がRPGで四苦八苦している姿を横から見るのは嫌いじゃなくて。
その時に一番印象に残っていた事を思い出して、懐かしくて。
「負けイベだっけ? ごめんね、アレ嫌いって言ってたのに悪いけど、実際に味わわせる事になっちゃって」
四人掛かりだろうと、魔力の差は歴然。
単純な力ならば、象と蟻以上の開きがあるだろう。
絶対に負ける訳がないという確信を持った楓の声と共に、戦いが始まった。
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書籍化して絵が付いているところが見たい。
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