第383話 二択でしかないのなら――
「…………」
楓の話に嘘はないだろう。
研一もこの世界で人間の国の駄目な場所は見てきた。
植物の国であるドリュアスでは、誰よりも頑張っていた党首が国の風習でどうしようもないゴミクズのような男と結婚させられそうになっていたし。
水の国ウンディーネでは、研一が来た頃には是正させられていたが、権力者が国を守る為だった筈の生贄制度を悪用して好き勝手やってたり。
確かに嫌だと思う事も多かった。
「楓の話が間違ってるとは言わない。でもさ。俺はそこまで、この世界の人間達がどうしようもない人達ばかりだとも思えないんだ」
けれど、それだけじゃない事も研一は知っている。
人間だから全部を助けるとか、全部を滅ぼすなんて話なら、受け容れる事なんて出来ない。
そして――
「それは魔族だってそうだ。俺も前までは魔族とは相容れないし、全部滅ぼすしかないと思っていたけど、良い人達だって居た」
少しの間とはいえ、サキュバス達と過ごしてみたり、自分達の為に命を賭けてくれたプルケルを見て思い知らされた。
種族だけで簡単に白黒分けられる事なんて、この世にはない。
人間にも良い奴が居れば悪い奴もいるように、種族という大きい括りで一緒くたにして安易に判断しようとすれば――
きっと助けたいと思うような良い相手を傷付け、許せないと思うような相手を助けないといけなくなるのだろう。
「だからごめん。人間か魔族を選べって、そういう話なら俺は楓の手は取れない」
それならば、一番大事な人の手すら跳ね除けてしまう。
どんな大事な人の為であっても、何の罪もない優しい人を犠牲にしてしまう可能性があるのなら、突き進む事が出来ない。
「人間だろうと魔族だろうと、俺は俺の守りたい相手の為に動いて、嫌いな奴は殴れる立場でありたいから」
それが研一という人間の強さであり――
同時に、どうしようもない弱さでもあった。
「ふふ、ありがとう。やっぱりケンは、そうじゃないとね」
全てを捨てでも貴方の為に生きてあげる。
そんな言葉に等しい誘いを断られたにも拘らず、楓は嬉しそうに笑う。
だって本当に嬉しかった。
死ぬような目に遭い、世界を超え、上手く使えば何でも思い通りに出来る程の凄い力を与えられても。
好きな人は、変わらず好きな人のままだった。
これで喜ばない方が、どうかしている。
「ふふ、それじゃあ人類の切り札とも言える救世主様に、寝返りを断られてしまった魔族を率いる王様として。それなりの対応をさせてもらおうかな?」
とはいえ、わざわざ魔王である楓が来たのだ。
それで終わりで済む程、甘くはない。
楓は棒立ちに近い状態ではあるものの、それでも魔力を剥き出しにして、研一に対峙する。
「……えっと、どうする気だ?」
「人間の国の事は色々回って知ったよね? それなら今度は魔族の世界の事でも知ってもらおうと思って」
「だったら、その物騒な魔力は――」
「私の誘いを受けて魔族の国に来た事が他の人にバレたら、研一って人間側からしたら裏切り者になるでしょ? それなら無理やり攫われたって事にして上げないと駄目かなって……」
はっきり言って楓の魔力量は異常だ。
今の研一の力では手も足も出ないだろうし、仮に過去最大級の魔力を出せたとしても、それでも届かない。
半ば詰んでいるという状態なのもあるし。
(確かに魔族の世界に興味が無いでもない……)
楓の言うとおり。
魔族の事を知っておくのも悪くはない。
このまま攫われるというのも、選択肢としては悪くはないだろう。
だが――
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