第382話 雷の国の真実
「最近で私が聞いた中だと、雷の国だったかな? 本当の意味で魔人の落とし子って言える存在が確認されたのって」
楓の言葉に、研一の頭に一人のメイドの姿が浮かぶ。
雷の国マキーナ国において、ある意味では党首であるマキよりも有名な、人類最強の戦力と謡われ、雷帝の異名で呼ばれていたプロディだ。
「蛮族国家とか呼ばれるだけあって、そこの姫も強い者が大好きな人だったらしくてね」
(マキさんの姉に当たる人か……)
随分と年齢が離れていると思う研一だが、これには訳がある。
マキの姉は凄まじい魔力を持ち、確実に次期党首になると思われていたが、魔族との戦いから帰って来なかった。
そこで新しい党首候補として、急遽、儲けられた子どもがマキなのだが――
今は強い者が大好きな、蛮族系の姉の話である。
「国一番の強さを持っていたその姫は、自分よりも強い魔族に恋に落ちたそうよ」
次期党首と期待されており、プロディの親なだけあって、マキの姉は凄まじく強かった。
だからこそ、自分より弱い男には一切興味を持てなかったらしく――
初めて心が躍った異性は、まさかの自国を襲ってきた魔族だったのである。
「それで魔族の方も人間とは思えないくらい強い姫を気に入って、国に連れ帰ったそうよ。そこで姫は魔族の世界を知り、お互い仲良くなれるんじゃないかと夢を見た」
力至上主義で蛮族国家なんて呼ばれる国で育った蛮族姫には、想像以上に魔族の社会は肌に合った。
そこで蛮族姫は考えた。
別に人間も魔族も、無駄に喧嘩なんてする必要ないんじゃない、と。
「きっと仲良くなれるって、人間と魔族が手と手を取り合う事を祈って、命を賭けて子どもを作ったの。平和の懸け橋になれるようにね」
「……」
研一は楓の言葉に黙り込むしかない。
だって、知っている。
この物語の先は、決して姫の望むような仲良しこよしのハッピーエンドになんて、なっていない事を。
「けど、それなのに雷の国は何をしたと思う! 事情を説明する為に向かった魔族を殺した上、姫は魔族に囚われて無理やり妊娠させられて死んだなんて、大嘘を世界中に流したの!」
この殺された魔族こそ、蛮族嫁の夫に当たる魔族だ。
子作りの影響で大きく力を落としてしまった状態では、下手すれば帰れない事なんて理解していただろうに。
同意の上だったとはいえ、娘を死なせてしまった自分に説明の責任があるなんて言い残し、周囲の反対を押し切って雷の国に向かい――
そのまま殺されてしまったのだ。
「しかも平和の懸け橋になる筈だった子どもに、『プロディ・トラシオ』! この世界で裏切りを意味する『プロディティオー』をもじった名前を付けたのよ!」
人と魔族の友好の象徴になる筈だった子どもに付けられたのは、蛮族姫が人類を裏切ったなんていう悪意の込められた名前。
いくら魔族が力至上主義で情とかに薄い者が多いとはいえ、この鬼か悪魔のような所業を知った時には怒りに燃え、確実に雷の国を滅ぼそうと精鋭達が自主的に集まった程であった。
「どうして、魔族は雷の国を滅ぼさなかったんだ?」
魔族側が襲撃しようとして事すら知らない研一でさえ、そんなのは滅ぼされて当然だろうとしか思えない。
どうして今もマキーナ国が存続しているのか、不思議としか思えないくらいに。
「魔族側が手を下す前に、そのプロディって人が、前の王様を殺して国を乗っ取ったからって聞いてる。何かさすがは魔人の落とし子だって、その日は魔族の社会だと祭日になってて、毎年お祭りのように祝われてるみたい……」
そこで魔族側が手を引いた理由は、至って単純。
自分達が手を下すよりも、痛快な形で諸悪の根源扱いされていた前の党首が倒されたからだ。
「でも、そのプロディって人を人間の世界に置いておくのもどうかって話も出てたらしくて、魔族側から何度も魔族の国に来ないかって誘いを掛けたり、連れ出そうって話は何度も出てたみたいだね」
とはいえ、そんな信用出来ない人間世界に、同胞が命を賭けて遺した魔人の落とし子を置いておく訳にもいかないと思う勢力もあり。
そこ等辺をプロディが色々と利用した結果が、あのマキーナ国で起きた事件だったのだろう。
「私がこの世界の人間を嫌いな理由は、これで伝わった?」
勿論、こんなのは醜悪な事件の一部でしかなくて。
もはや怒りすら通り越して、呆れるしかなくなった果てに、この世界飲ん人間を見限る事しか、楓には出来なかったのだろう。
「どうする、ケン? ケンが望むなら、それでも私は魔族なんて裏切ってもいいよ」
だが、それでも楓は言う。
研一さえ望むなら、そんな人間達の為に魔族を全部、滅ぼしてしまってもいいのだ、と。
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