第380話 力の果ての存在
「この世界の人間が……嫌い?」
研一は何を言っているか解からないとばかりに、楓の言葉を繰り返す。
今まで出会った人達は日本に居た頃よりも良い人が多くて、本当に同じ世界の人間の話をしているか解からなかったからだ。
けれど――
「さっきの人、えっと、サーラさんだっけ? この世界で、ああいう人ばっかり見てきたのなら、それは出会いに恵まれ過ぎてるだけだよ」
偶然にも研一が優しい人にばかり会っただけ。
神様にさえ見放されるような世界の人間なんて、どうしようもない屑ばかりなのだと言わんばかりに、楓は嫌悪を隠しもしない。
「研一はさ、その子みたいな存在。魔人の落とし子の事って、どのくらい知ってる?」
話を続けながら、センに視線を向ける。
それこそが、この世界の人間のどうしようもなさを証明出来る、一番解かり易い証拠だとばかりに。
「どのくらいって――」
そこでチラリと研一も、センの方に視線を向けてしまう。
(人間と魔族の混血の子どもの事で、魔人の落とし子って呼ばれていて――)
長くて呼び難いから大体の人は、最初の部分だけ取って魔人と呼んでおり、母体が人間である場合は、出産時に魔力を吸い尽くされて死んでしまう。
だから人間の世界では忌み嫌われており、奴隷扱いになっている事が多く。
実際に魔人の落とし子と呼ばれる存在であるセンの前で説明するには、憚られる内容だったからだ。
「ありがとう、ケン。その反応で大体解かった」
「え?」
「ケンが嘘っぱちの出鱈目を、差も本当の事のように信じ込まされているんだって事がさ」
言い難そうな研一の態度だけで、楓には十分だった。
その言い難そうな姿を見れば、人間側の都合の良い妄想だけを聞かされていると確信するに容易かったからだ。
「嘘っぱちの出鱈目、だって?」
「そうだよ。魔族との子どもを身籠った不幸な女の人なんて、そもそも居ないんだからさ」
「居ないって、どういう――」
「うん。今から説明するよ」
そこで楓は宣言通り、研一の聞かされている話が嘘である理由を話していく。
まず面倒臭いのが、全てが嘘ではないという事。
人間の女性が魔族の子を身籠れば、相当な奇跡でも起きない限り、まず助かる事はない。
一番重要に思えるその部分の認識は、間違ってないらしい。
「ただね。魔族って、あんまり子どもを残す事とかに興味もないのよ。魔力さえあれば無限に生きられるし、新しい魔族も魔力が濃く溜まっている場所から、勝手に生まれてくるから、繁殖の必要がそもそもないからね」
だが、そもそも魔族に性交渉をする理由が、ないのだ。
魔力さえあれば生き続けられる以上、わざわざ子どもを作る必要性がないし、魔力さえあれば勝手に増えるのだから、ある意味では当然だろう。
「だからこそ快楽の為に後腐れもない人間を襲っているんじゃないかって話になるのかもしれないけど、その可能性もほとんどないの。魔族って基本的には力主義だから、弱い相手って興味ないというか、恋愛対象とか、そういう行為の対象にならないの」
「……」
研一は反論する事もせず、ただ静かに話に耳を傾ける。
それは話の途中で腰を折っては、話が進まないと思う部分もあったが、どこかで納得もしていたからだ。
(俺も魔族と戦っている内に、ちょっと違和感はあったんだ……)
侵略戦争を仕掛けてきた時だって、宣戦布告してから侵攻してくるし、民間人にも基本的には手を出して来ない。
人間を食べたりする部分や、強さこそ絶対みたいな価値観に相容れないモノを所々に感じるものの――
それでも異世界に来た最初期。
魔人の落とし子の話を聞かされた時に想像したような、卑劣な集団という印象はない。
「それで恋愛対象とかの相手になった場合、魔族ってその、エッチとかするんじゃなくてね。相手を食べて、自分の力にするのよ。相手の技や魔力と共に永遠に生き続ける。それが魔族の基本的な求愛行動の果てなのよね」
嫌がる女を無理やり襲うような魔族なんて居ないとばかりに。
研一の印象は何も間違ってないと肯定するかのように、楓の説明が続いていく。
「それでも子どもを作るケースが偶にあるんだけど、それも基本的には、より強い存在を生み出す為なの。というのも、ね。出産時に子どもが魔力を吸い尽くすって言うけど、それだけだと本当は半分なの」
そこで楓は、言い難そうにしながら説明する。
魔族の男の方も子どもを作るとなれば、より強い子を生み出す為に、自分の精子に魔力を注ぎ込む事になる。
だから男の方も十から百年に一度、子どもを儲けるのが限界であり――
父体からも母体からも魔力を吸い出した果てに生まれるのが、魔人の落とし子という存在なのだ。
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