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憎まれ救世主 ~異世界転移したら不遇なスキルを授かったので、悪役キャラを演じていたら、裏でモテモテハーレムになっていた~  作者: お米うまい
第一章 サキュバス達の住む場所

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第374話 仮初の身体

『この声、ケン?』


 たった一言、楓と短く名前を呼んだだけ。


 それだけで向こうにも誰の声なのか伝わったらしく、まるで当たり前の事を確認するような自然さで研一の愛称が響いてくる。


「ああ、うん。その、俺だ。元気にしてるか?」


(馬鹿か。魔王なんかになってるんだ、俺なんかより、よっぽど上手くこっちの世界で生きてるに決まってるだろ!)


 声だけとはいえ久しぶりの再会だというのに、研一の口から出てきたのは、あまりにもどうでもいい言葉だけだった。


 あまりにも酷過ぎて、自らで突っ込みを入れてしまう程に。


『ケンが思ってるより、ずっとずっと元気だよ。むしろ私よりさ。ケンの方が、もっと体調に気を遣った方がいいんじゃない?』


 おそらく楓の方も、呆れているのだろう。


 プルケルに見せていた優しさも少し影を潜め、言葉には僅かに棘があるようだった。


「心配なんてしなくてもスキルのお陰で怪我だってすぐ治るし、病気にだってなった事――」


『そっちじゃないよ。こっちの世界じゃなくて、地球にある研一の本物の身体の話』


「え?」


 だが、楓の言葉が厳しい理由は、恋人の再会だというのに甘い言葉も言えない研一の態度だけではなかった。


 驚く研一の声など気にも留めず。


 何でも知っているとばかりに迷いのない声で、楓は言葉を紡いでいく。


『ケンは、さ。私と違って、まだ地球では死んでないんでしょ? だから勇者としての功績値を使って地球にある自分の身体を維持しないといけない。そうだよね?』


「そうだけど……」


 勇者ではなく救世主という細部に間違いはあるものの、楓の言葉は概ね事実だ。


 もう随分と前の事過ぎて、ほとんど意識していなかったが、この異世界で動いている研一の身体は仮初の物でしかなく――


 本物の身体は自棄酒の影響で死に掛けており、功績値を使って延命しなければならない。


『それなのに全く自分の身体に功績値使ってないよね? どうせ人助けに使ってるんだろうけど、駄目だよ。そうやって自分をないがしろにするの、本当に悪い癖』


「な、何で楓がその事を知って――」


『知ってるに決まってるよ。誰が功績値を使って、地球にあるケンの身体を死なないようにしてると思ってるの?』


「待っ――」


 この先の言葉は、絶対に聞く必要がある。


 それでも覚悟を決めるだけの時間がほしいとばかりに、楓の言葉を遮ろうとする研一であったが――


『そんなの私以外に居ないじゃない。それとも私達以外に、神様に選ばれた人にでも会った?』


 楓は微塵も止まらない。


 遮ろうとした研一の声を押し潰さんばかりに、逆に声を大きくしたかと思うと、その言葉を口にした。


「どうして……」


 楓の言葉に声を上げたのは、研一ではなかった。


 突然の出来事に様子を見守る事しか出来てなかったサーラが、怒りすら滲ませて遥か遠くに居る楓に届きそうな激情と共に叫ぶ。


「どうして研一がこの世界に居る事を知っていたのなら、会いに来なかったのです! どんな想いで、研一が戦い続けたと思って――」


『ねえ、何? その女』


 けれど、サーラは最後まで言い切る事が出来なかった。


 まるで刃物で貫かれたと錯覚させるような短くも鋭い敵意を持った声が、サーラの言葉を貫いたからだ。


『私のせいで死んじゃって。それなのに私の為に地球を捨ててでも、世界を渡ってくれたって聞いてたのに、ケンは私じゃない女と仲良くしてるんだ……』


「いや、サーラさんは別にそういう相手じゃ――」


 部屋中が急に冷やされたかのように、研一達の身体に寒気が走る。


 魔族との戦を経験して死線を乗り越えた筈の二人すら、声だけで震えさせるほどの磨き抜かれた殺意に、思わず研一が言い訳のように言葉を絞り出すが――


『ふふ、なんてね。ケンの優しさに勘違いした女の一人とか、そういうのでしょ? どうせこっちの世界でも、無闇矢鱈に誰かれ構わず優しくしてるんでしょ?』


 どうやら本気で怒っている訳では、ないらしい。


 研一は異世界に来ても変わってないなあ、と言わんばかりに懐かしむように口ずさんで、楓は言葉を紡いでいく。


『前も言ったけど、そういう所だけは、やっぱり嫌い。私だけに優しくしてほしいって思うのは、恋人でも許されない我儘かな?』


「別に、俺は優しくなんか――」


『ケンより私の方が優しい、とか言うんでしょ? そんな事ないよ。私みたいな優しくなろうとしているだけの人間なんかより、ケンの方がずっと優しい』


「けど、俺は――」


 楓を守る事も出来ず。


 正しく寄り添ってやる事も出来なかった自分に、そんな賛辞をもらえる資格なんてないとばかりに研一は否定しようとするが――


『ごめんね。死んじゃってさ』


 自分自身を傷付けるのは、それ以上許さないとばかりに、楓は自らの死を謝る。


 それを告げられれば、もう研一は何も言えなくなると知っていて。

面白かった、続きが見たい。

書籍化して絵が付いているところが見たい。

何かしら感じてくれた方は、是非とも高評価してくれると嬉しいです。


また気楽にリアクションなどして頂ければ嬉しいです。



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