第373話 ムッツリというか、ガッツリ姫
「研一様! 至急お伝えしたい事、が?」
センとベッカを振り切ったプルケルは、迷う事無くサーラの部屋に入る。
ノックの一つもしなかったのは、この吉報を何よりも早く研一に伝えたいという想いが溢れてしまっていたからであり、他意なんてなかったのだが――
それがちょっとした悲劇を生む。
「研一。貴方に心に決めた方が居るのは解かっています。ですが一度だけ、一度だけでいいんです。思い出を頂けませんか?」
「いやいや、サーラさん! 言葉と行動が違い過ぎませんかっていうか、党首だけあって本気だとメッチャ力強いですね!?」
もう想いを隠さなくていいと解かって、タガが外れてしまったのだろう。
ベッドの上でサーラが研一を押し倒すような形で覆い被さり、口付けでもせがむように顔を近付けていた。
――そして研一が腕を震わせながら、必死でサーラを押し返そうと抵抗している。
「な、何て破廉恥な事を! 止めなさい!」
「ぷ、プルケル!? 何故ここに!?」
恋愛至上主義のプルケルからしたら、無理やりキスを迫るなんて絶対に許せる訳がない。
慌ててサーラを研一から引き離す。
「ありがとう。助かった……」
さすがに二人掛かりだった上に、プルケルに見られている状態で強硬する程、サーラも肉食系ではなかったというか――
さすがに第三者が来たお陰で、色々と冷静になってきたらしい。
「わ、私は何という事を……」
先程までの態度は、どこへ行ってしまったのやら。
トンデモナイ事をしてしまったとばかりに、顔に後悔の色を浮かべて研一から離れる。
「はしたない! あまりにも、はしたないですよ! サーラ様!」
「解かってます! ただもうバレてしまったんだと思ったら、自分でも訳が解からなくなってしまって――」
プルケルからの言葉に反射的に言い返していたサーラであったが――
当たり前のような顔で部屋に居て注意してくるプルケルの姿に、違和感を覚えたように固まって、言葉が途中で止まる。
「どうして貴女は、勝手に国の党首の部屋に入って来てるんです! 大問題ですよ!」
かと思えば、先程の破廉恥な行為なんて忘れたように正論で怒鳴り付ける。
いくら研一の客人とはいえ、完全に敵対種族と言ってもいい魔族が、人間の国の代表の私室に入り込むなんて、殺されても仕方ない狼藉行為なのだから。
「お叱りは後程いくらでも、お受けいたします。処刑して下さって構いません。ですが至急、研一様に伝えなければいけない情報がありまして」
「え、俺に?」
だが、プルケルは自らの命なんて気にもしてないとばかりに、堂々たる態度で研一の方に向き直ったかと思うと――
いきなりの事に戸惑う研一を置き去りに、その情報を伝えた。
「貴方の想い人、鏡谷楓は、この世界に居られます」
端的で誤解の余地もない言葉。
きっとこれ以上に解かり易い言い方なんて、プルケルには出来なかっただろう。
「え、いや、何を言って……」
けれど、突然の事過ぎて研一の頭が追い付かない。
もう死んでしまって。
生き返らせる為には異世界で魔族達を倒さないといけないと言われたから、地球を捨て、憎まれても必死でスキルを鍛えて、魔族と戦ってきた筈なのに。
この世界で生きているなんて急に言われても、受け容れられる訳がない。
「そもそも何でプルケルさんが、俺と楓の事を知って――」
「私の不躾な言葉に、セン様が思わず漏らしてしまったのです。研一様は、楓という名前の亡くなった恋人の為に生きていて、自分になんて振り向いてくれない、と」
「…………」
本当はセンが漏らした言葉は違うモノだが、意味としては変わらないだろう。
センの諦めや悲しみを感じさせる言葉に、何も言えずに黙り込んでしまう研一に僅かに目を細めると、更にプルケルは言葉を紡いでいく。
「楓様は私にとって大恩ある御方です。そして、我々サキュバスと番いとの架け橋になってくれようとしてくれている貴方にとっても大事な方であるとなれば、何を置いても伝えるべきだろうと考え、こうして無礼を承知で伺いました」
そこまで言ったところで、プルケルの身体から魔力が膨れ上がる。
いきなりの展開と想像以上の魔力の大きさに、奇襲や不意打ちを警戒して研一とサーラが慌てて身構えるが――
そこで、二人が全く想定していなかった事態が起きる。
『え、これは……プルケルさんの魔法? 何、どうしたの!?』
プルケルから、この場に居ない筈の者の声が聞こえてきたのだ。
サキュバスの得意魔法である念話の応用で、自分を中継地点にする事で、遥か遠くに居る者と会話出来るようにしているのである。
『大丈夫!? 人間にでも襲われた!? どうにか行けるようにするから、私が行くまで逃げて!』
突然、回線を繋がれただろうに。
怒りの一つも見せずに、プルケルを励ますように必死で言葉を紡いでいく声。
「楓……」
懐かしい優しさを感じさせるその声色を聞けば、顔なんて見なくても、研一にはそれで十分だった。
ずっと会いたかった人が、この世界で生きている。
それを強く感じていた。
面白かった、続きが見たい。
書籍化して絵が付いているところが見たい。
何かしら感じてくれた方は、是非とも高評価してくれると嬉しいです。
また気楽にリアクションなどして頂ければ嬉しいです。




