第369話 ようやく告げられた言葉
「――では、そのような形で、我が国からは暫く物資の援助をさせて頂きます」
その後、話し合い自体は円滑に進んだ。
というのも、サーラは自分達の国がサキュバス達に迷惑を掛け続けていた事を遺憾に思っており、その気持ちは全てプルケルに伝わったからだ。
(結局、俺の取り越し苦労ってヤツだったみたいだね……)
そして、会談中、プルケルの方にも特に怪しい心の動きは無かったらしい。
センから特に合図のようなモノもなく、何の問題も起きる事無く、援助が決まってしまったのだ。
「その、研一。いえ、その、救世主様。少し話したい事があるのですが、時間を頂いても、よろしいでしょうか?」
とはいえ、全てが丸く収まったかというと、そうとも言えない。
新しい問題が発生してしまったからだ。
「はい、大丈夫です。それと今まで通り、研一で大丈夫なので……」
「で、ですが。異世界から来て、身を削って戦って下さっている方を、そんな気安く呼ぶ訳には――」
「無理にとは言わないよ。サーラが言い易い方でいいからさ」
「そ、それでは。研一、と呼ばせて頂きたいと思います。どうぞ、こちらへ……」
いつからサーラに悪党の振りをしていたのが、バレていたのか。
そして、どのくらいの事情を知っているのあ、把握しないといけない。
促されるまま、サーラの私室へと研一は向かう。
「え、何故そうなるのです? 研一様を心から想う者が二人居るのならば、二人で研一様へ想いをぶつけ合い、より愛された者こそが真の番いの座を――」
「ああ、もう! プルケルさんは、こっち!」
どうもプルケルの中では、恋愛とは奪い合いらしい。
だからこそ、恋心を秘めたまま伝えようともしなかったサーラの気持ちが解からず、悪気なく暴露してしまったようだが――
さすがに人間社会で過ごしてきたセンとしては理解し難い風習に、慌ててプルケルを止める。
(ありがとう、センちゃん……)
こんな調子のプルケルが居たら、話せる事も話せなくなる。
止めてくれたセンに心の中で礼を告げ、研一はサーラの部屋に入った。
「け、研一。その、飲み物の用意でもしましょうか?」
「お構いなく。それよりも聞いていいですか? 俺が演技してるって、いつから知ってたんですか?」
挙動不審なサーラの姿に、申し訳ないと思いつつ。
まずは状況を把握しなければ、どう対応していいかも解からず、早速訊ねていく。
「……マニュアルちゃんを顕現させた時です。城の中から物凄い光が発生したのを見て、魔族が城にでも侵入したのではないかと思い駆け付けて、そこで話を聞いてしまいました……」
「あの時、か……」
「……はい、申し訳ありません。あの頃から全て存じ上げておりました」
今となっては、随分と昔に感じる話。
かつて研一が自己嫌悪の極みに達した瞬間、研一が女神から授けられた『悪意を向けられる程に強くなるスキル』の説明書とも言うべき存在が、マニュアルちゃんと名乗る少女の姿となって現れた事がある。
そして、マニュアルちゃんは自分が顕現した時に、スキルの詳細が解かるような話だけでなく、研一が異世界に来た理由さえ話してしまっており。
その時に話を聞いてしまったサーラは、悪党の演技をしている理由どころか。
研一が恋人を生き返らせる為だけに、この世界に来て、その為ならこの世界の人間なんてどうでもいいと思っていた事さえ知られていたのだ。
「はは。その、さ。幻滅しただろ。想像以上の悪党でさ」
結局は自分が恋人と会う為に人の心を踏み躙るだけの人間で、救世主なんて呼んでもらえる大層な人間じゃない。
そりゃあサーラも悪党と思っていた頃から、態度が変わらないどころか悪くなる訳だ、なんて。
後ろめたさから、愛想笑いとも言えない乾いた声を漏らす研一であったが――
「トンデモありません! 研一は私が想像していたよりも、ずっと立派で優しい人でした!」
傷付いた研一の見ていられないとばかりに、サーラは鬱屈とした空気を吹き飛ばすように全力で声を上げた。
かと思うと、研一の両手を取り、包み込むように握り締める。
「貴方は優し過ぎます。もし私が全てを知っていると気付いたら、気を遣って余計に疲れてしまうだけだと思って、貴方を嫌っている振りをしていたんです」
そのまま包み込んでいる研一の手に、祈るように額を寄せていく。
貴方に傷付けられた事なんてない。
だから自分を責めないでほしい、という願いを込めて。
「けれど、誓って言います。私は貴方の事を嫌った事なんて、一度だってありません」
自分を見てくれない事に嫉妬した事はある。
どうして普通の男女として出会う事は出来なかったと嘆いた事もある。
けれど、それ等は決して嫌いだからじゃない。
「ずっとずっと貴方を愛していました。貴方の苦しみを少しでも癒してあげられる存在になれたら、それだけを願い続けていたんです」
誰かの為に傷付き続ける研一を、癒せる存在になれない事が苦しかっただけ。
いつだって自分は研一の事を愛していたのだ、とサーラは告げる。
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