第368話 消えてなくなりたいってこういう事
「……研一。子ども同士の約束ではないのですから、もっと早くに連絡し、許可を取ってから来て頂かないと困ります」
研一は隠れ里への援助の相談をする為に、サラマンドラ国に来ていた。
勝手に援助の約束を取り付けておいて、後で駄目だったと解かっても困るので、先に援助などが出来るかどうかの確認に来たのである。
「しかもそちらの方は、件の隠れ里に住むサキュバスなのでしょう? こちらとしても街や城に魔族を入れる以上、色々と準備というものが……」
(ごめん。その準備ってヤツを、お互いにさせたくなかったんだ……)
そしてクエストには何かあった時の為に隠れ里に待機してもらっているが、センとプルケルを連れてきていた。
これは隠れ里への援助の話をするならば、本人も連れてきた方がいいだろう、というのが表向きの理由。
(センちゃん。頼んだよ……)
本命はプルケルの心を読み、裏が無いかを完全に確かめる事。
念話が封じられていた隠れ里と違い、このサラマンドラ国には念話を封じるような仕掛けは施されていない。
(幸い、俺は魔力無効化で念話を弾けるし、センちゃんも魔力が圧倒的に上だから、油断してない限りは、プルケルさんに心を読まれる心配はないらしい)
逆に研一達は対策済み。
これでプルケルの本音も知る事が出来るし。
サーラがサキュバス達の事を、どう思っているのかも探れる。
(助けたいとか償いたいって思っていてほしいってのは、俺の我儘かな……)
サキュバス達は最低でも百年は、サラマンドラ国の者から奴隷として狙われ続けていた。
その仕打ちを考えれば、どうしても研一としてはサキュバス側に寄り添いたくなってしまう。
「全く。他の国でやったら大問題になるところですよ。私だから良かったもののって、聞いていますか、研一?」
研一がそんな事を考えているなんて、露知らず。
自分が党首をしている国以外では、こんな我儘な事はしていけませんよ、なんて語り続けているサーラ。
「ぐちぐちうるせえお姫様だなあ。それが魔族軍から国を救ってやった、偉大な偉大な救世主様に対する態度か? 俺様が物を頼めば、何も訊かず二つ返事で頷くのが義理ってもんじゃねえのか? あ?」
申し訳ないと思いつつ。
研一が悪態を返したところで、予想外の者が口火を切った。
「あの、サラマンドラ国の党首様。一つ、お聞きしてよろしいでしょうか?」
プルケルだ。
今までの態度的に、かしこまった場では相手側から話を振られない限り、話し出さないとばかり思っていたが、唐突に口を開く。
「待って、プルケルさん。それは駄目――」
「構いません。知らなかったとはいえ、この国が長く隠れ里に住む者達に迷惑を掛け続けてきたのは事実。聞きたい事があるならば答えましょう。それよりプルケルと言いましたか。ここには我々しか居ませんし、私の事はサーラで結構です」
慌てて止めようとするセンの言葉をサーラは遮り、プルケルに続きを話すように促す。
国を預かる党首として、自国の民が起こし続けてきた不祥事なんて言葉では片付けられない、あまりに悍ましい事件への憎悪全てを受け止める覚悟で。
けれど、プルケルが次に放つ質問は、サーラの決意全てを持ってしても耐えられるような事ではなかった。
「では、お言葉に甘えて。サーラ様――」
「はい、何でしょうか?」
「どうして研一様に、先程のような態度を? 人は念話で心と心を繋ぐ事は出来ないのでしょう? ちゃんと思っている事を口にしないと、正しく気持ちは伝わらないと思うのです」
センと同じく、心を読めるプルケルにはサーラの研一に対する想いが全て伝わっている。
しかもプルケルはセンに比べて魔力量が少なく、あまり自らの意志で心を読む魔法を使わないので――
相当に強い気持ちを抱いていない限り、心の声なんて聞こえてこない。
そして。
そんな強く激しい恋慕の念が想い人に届く事もなく、捻じ曲げられたまま消えていく事を黙って見るなんて、どうしたってプルケルには出来なかったのだ。
「は、え、何を言って――」
「だって先程から、ずっと研一様の事を思っていらっしゃるではありませんか。『こういう無理を言ってくれるのは、信頼してもらえているみたいで嬉しいですね。ですが、いくら憎まれる必要があるとはいえ、こんな事を他の国にすれば大問題になってしまいます。ここは心を鬼にして、私が注意して差し上げねば!』、と」
「わ、私はそんな事を考えてなんて!」
「どうしてお隠しになるのです? そのまま伝えた方が研一様だって、嬉しい筈です。こんなに想われて嬉しくない殿方なんて、居ないでしょうし」
「い、いえ。ですから、その、私はそんな事は考えてなくて、ですね――」
「『はあ、悪ぶっている姿も素敵。けれど本当は、とてもお優しい方なのに、これでは疲れてしまわないか心配です。今日はどのくらい、サラマンドラ国に滞在して――』」
「待って! 待って! 全て認めますから! お願いです、それ以上言わないで……」
突然、研一への赤裸々な想いの全てを暴露されたサーラに出来る事なんて。
赤くなり熱を持っていく顔を両手で覆うように隠し、膝から崩れ落ちる事くらいであり。
「えーと、その……」
サーラに告白された事があるものの。
とっくの昔に嫌われてしまったと思っていたのに、あまりに甘く熱烈な想いを急に聞かされた研一に出来る事も、気まずそうに目を逸らすくらいしかなくて。
「な、何です、この雰囲気は!? 私は何か悪い事をしてしまいましたか?」
「……うん。かなりね」
諸悪の根源にも拘らず、戸惑っているプルケルに。
センは呆れたように短く呟き、どこから説明したらいいのだろうと頭を抱え込むのであった。
面白かった、続きが見たい。
書籍化して絵が付いているところが見たい。
何かしら感じてくれた方は、是非とも高評価してくれると嬉しいです。
また気楽にリアクションなどして頂ければ嬉しいです。




