第366話 夢魔の生態
「……もしや研一様どころか、セン様も自覚がない?」
だが、研一の決意にも似た想いを込めた言葉を受けたプルケルは、呆気に取られたとばかりに戸惑う。
あまりにもおかしい事を言われたとばかりに。
「自覚? 一体何の話をして――」
「ええとですね。確かに貴方様の仰る通りではあると私も思います。二人の関係は二人だけのモノ。私が口を挟むなんて烏滸がましい。黙っていろと言われても当然なのですが――」
「解かりました。怒らないので、ちゃんと説明して下さい」
言い難そうに前置きを連ねていくプルケルの姿に、研一は何となく理解した。
これは聞いておかなければマズイ話であり、ただの恋バナ好きの下世話な邪推や押し付けとは違う何かなのだ、と。
「はい。その、どこまで知っているか解からないので、本当に最初から語らせて頂くのですが、夢魔やサキュバスと言われる我々が、異性の体液から魔力を接種出来るという話は、知ってますよね?」
「はい、解かります」
その辺の話はアニメやゲームで出てくる、サキュバスの設定でお馴染みだ。
だから新しく覚えるまでもなく、ここはゲームとかと同じなんだなと素直に受け入れて気にも留めていない。
問題は、この先だ。
「ですが異性の体液なら誰でもいいという訳でなく、心を許した相手の物でないと、魔力を補給するどころか、拒絶反応を起こして逆に消耗するのですが――」
(ここ等辺から俺が知っているサキュバスとは違うんだよな……)
研一がゲーム等の印象で知っている夢魔とかそういう感じのキャラは、大体が男と見れば見境なく襲い掛かって、死ぬまで精気を搾り取るような印象だ。
それで逆に淫らな事が苦手なキャラを、ギャップ萌えみたいに扱うくらいだろう。
「我々は最初に心通じ合い、体液を頂いて魔力を補充させてもらった方以外の体液は、全て受け付けない身体になってしまうのです」
「それは――」
既に研一はセンに唾液という名の体液を与え、魔力を補充させてしまった。
つまり意志とか感情的な話ではない。
もはやセンの身体は研一専用に作り変わってしまっている、という事だ。
「だからこそ、とは言いたくありませんが。我々が一人の方だけを愛し、一生を共にする事には、そういう事情もあるのです。番いの方が居なければ、もう禄に魔力補充も出来ず、死を待つだけになりますから」
きっとプルケルの気持ち的には、サキュバスの体質的に仕方なく共に過ごす訳でなく、愛ゆえに共に居続けるのだと言いたいのだろう。
だが、そんな私情を抜きにして、ちゃんとシステム的な事を教えてくれる。
研一とセンの事だけを考えて。
「なるほど……」
その姿に納得と共に好意を抱く。
と同時に頭の中に疑問が湧いてきた。
「それじゃあどうして番いが居ないプルケルさん達は、あんまり衰弱とかしてないんですか?」
そこまで言った研一は、慌てて言葉を付け加えていく。
これでは何でプルケル達は生きているのか、と非難しているように聞こえ兼ねない。
「あ、別に責めたいとか疑っているって訳じゃなくてですね、その辺の事が解かればセンちゃんの体調とか、色々気を付けられると思って……」
「魔力の消耗量は、強さに依存するからですよ。魔力が強い者は存在しているだけで大きく魔力を消耗しますが、逆に我々くらいに弱いなら、普段の魔力の消耗なんて合ってないようなモノでしかないです」
とはいえ、それでも消耗はしていくので、番いを見付けられないなら、いつかは死にます。
なんてプルケルは付け加える。
「なるほど……」
(番い無しでの弱さも含めて、この世界でのサキュバスの生態って事か……)
基本的には強い魔力を持つ者を食べる事で強くなっていく魔族という種族にあって、体液を摂取するだけで、どこまでも成長していけるという破格の特性を持つが――
同時に、縛りや制限もキツイという事だろう。
「その辺りの事情を教える前に、ルクシリア様は亡くなられてしまったのでしょう。ですから、事情も知らず番いにさせられてしまった研一様に、セン様だけを大事に思って生きて欲しいと言うべきではないというのは、解ってはいるのですが――」
「番いに、させられた?」
ようやくサキュバスの生態を大体把握出来た研一の耳に、プルケルの声が響いて。
気になる言葉に、研一は思わず聞き返す。
「ええ。番いの居ないサキュバスは、無意識に異性を誘惑してしまいますが、意中の相手が居れば、その魅了の魔法は、意中の相手に集中します。必要以上に可愛いと感じたり、あるいは傷付いている時に癒されたり。それで流されて番いにされてしまったのでしょう?」
「…………」
「ですが、それでももうセン様は研一様無しには生きられない身体になってしまっているのです。魔法で誑かされて無理やり番いにされてしまい、不快になるのは解かるのですが、どうか気に掛けて頂けないでしょうか?」
情に訴えるのは卑怯だと理解していながら。
それでもセンにはもう研一しかいないからどうかお願いしますとばかりに、プルケルは願い縋ろうとする。
けれど――
「ふざけた事言うなよ……」
プルケルの言葉に、研一は怒りを抑え切れず。
全身から魔力が溢れ出ていくのを止める事も出来ずに、視線だけで殺し兼ねない勢いで睨み付けた。
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