第363話 第一印象だけが全てではない
「ああ。実は研一君を傷付けてしまった件で、プルケル達には相談に乗ってもらってね」
クエストは躊躇う事無く、センの質問に答えていく。
隠す事や後ろめたい事なんて一切ないという堂々たる振舞いに、やっぱり思っていたよりも社交的な人だったのかなんて。
研一達が申し訳なさと共にクエストの評価を改めようとしたのだが――
「何でもサキュバスには心の痛みや苦しみを取り除いたり、その原因となった記憶を抜き取ったりする事が出来るから、魔法を受けないかと提案してくれたんだが――」
「えっ?」
(それって心とか記憶を魔法で弄ったって事か?)
気になる話が出てきて、思わず研一の口から疑問の声が漏れてしまう。
もしクエストが、元々は想像していた通りのデリカシーの欠片もない傍若無人が具現化したような人間で、それがプルケル達の魔法で変わってしまったのだとしたら。
(それは、何か嫌だな……)
上手く言葉に出来ないが、モヤモヤとしたモノを研一は感じる。
別に傍若無人で研究以外には何の興味もなさそうなクエストの方が、今の謝ってくれたり、プルケル達に世話を焼くクエストより好きだとか、そういう事ではない。
前みたいに無遠慮に傷を抉るような事を言ってきたら、きっと今度こそ完全に縁を切り関わり合いにならないだろうし。
今の方が付き合いやすいとは思う。
(ただ本人の同意がある以上、外野がどうこう言う事じゃないんだろうけど……)
それでも言葉には出来ないが、クエストの心がサキュバスの魔法で弄られたら嫌だなという想いを研一は抱く。
だが、その研一の不満に似た気持ちは、全て杞憂に終わる。
「私に傷付けられた研一君が痛みを取り除く為に魔法の恩恵を受けるならともかく、傷付けた私が自分の罪悪感から逃れる為に魔法を受けるのは違うと思ってね。断ったんだ」
「え、断った?」
そもそもクエストは、魔法で心を弄られている訳ではなかった。
つまり急に様子が変わったと思ったのは魔法の影響でも何でもなく、第一印象からは見えていなかったクエストの別の側面というだけらしい。
「ああ、そうだ。断ってしまったんだよ。落ち込んでいる私を心配して、わざわざ話し掛けてくれて、善意の提案までしてくれたのにね」
「あ、ああ。それで申し訳ないからプルケルさん達の事を気に掛けてるとか、そういう感じです?」
「概ねそんな感じだね。そりゃあ滅多に研究出来ない魔族として興味もあるが、自分を気遣ってくれる相手を気に掛けるくらいの感情程度は、私だって持ち合わせているさ」
どうせ自分は、そんな気遣いさえ持ち合わせていない冷血女と思っていたんだろう。
拗ねたように付け加えながら、研一達への不満の意志を示す。
「えーと、その、ごめんなさい」
「別にいいさ。そんな殊勝な感情なんて持ち合わせていない女だと、思われるような態度を取ってきたのは私だからね。君が謝るような事じゃあない」
だが、怒る程の事ではないのだろう。
慣れているから気にするな、と言うような態度でクエストが話を終わらせようとする。
「謝るような事ですよ」
だが、研一は話を終わらせない。
慣れていようが何だろうが、拗ねたくなるくらいには嫌な事を言ってしまったのだ。
「第一印象とかで決め付けて本当にスミマセンでした。お詫びになるか解かりませんが、約束した以上に魔法の研究とかも手伝いたいと思いますので――」
それならば傷付けた分の償いは、しなければならない。
クエストが研一にしてくれたように。
だが――
「いいのかい! それじゃあどのくらいまで、試していいんだい!?」
自発的に研究を手伝うという提案は、ちょっとクエストには刺激が強過ぎたのかもしれない。
クエストは先程までの拗ねたような表情から一転、目をキラキラと輝かせたかと思うと、研一の手を握って告げる。
「指とか腕の切断は許容範囲かい! ああ、安心してくれたまえ! 取り返しの付かない怪我はさせないさ! 私の魔力が残っている状態なら、四肢の欠如程度の回復なら可能だからね!」
「え、いや。それはさすがに――」
「じゃあ体液の接種は? 異世界人である救世主と私の間に子どもが生まれるのか。魔法が受け継がれるかの検証は!」
「それも無理というか――」
「アレも駄目、これも駄目! だったら何だったら手伝ってくれるって言うんだい!?」
(やっぱクエストさんは、何かこっちの方がらしいよなあ……)
あまりにも無茶な事ばかり並べ立てるクエストの姿に。
本当に心とか弄られてないんだなあ、とか妙な納得感と安心感を覚えたところで。
「研一さんから手を離して下さい! この狂気の変態研究者!」
手を握ったまま、ドンドン研一に詰め寄ってくるクエストの姿に業を煮やしたのか。
センは無理やりクエストを引き剥がすと、まるで研一を守るように抱き締め、睨み付けて威嚇する。
「しゅ、修羅場!」
「これが人間達の恋愛模様! なんて激しいの!」
そんな二人の姿に何を勘違いしたのか。
プルケル達の盛り上がる声が、どこか虚しく辺りに響いていた。
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