第362話 クエストは社交的?
「ちょっとこれは予想外だな……」
食事の後、プルケル達を連れ、隠れ里の外に出向いた研一は戸惑わざるを得なかった。
漫画でもゲームでもサキュバスと言えば比較的強い印象があるし、センも強いからプルケル達も魔族の中では弱いと言っても、それなりには戦えると思っていたのだが――
「えい、えい!」
「この! せめて傷くらい付いてよ!」
寝ているサソリ型の魔獣一匹、マトモに倒せていない。
この世界で出会った者達の中で、ダントツの弱さと言っていいだろう。
(いや、待てよ? もしかしたら俺が知らないだけで、実はこの小さい魔獣が凄い強さの魔獣で、常人じゃ倒すのは難しいのか?)
そこで研一は自分が出会ってきたのが、国の最終兵器扱いである党首、あるいは魔族と最前線で戦う軍人等の戦闘を生業としている者達ばっかりだった事を思い出す。
自分もスキルの影響で強くなっているから麻痺しているだけで、サソリ魔獣自体が実は相当に高位で強い魔獣の可能性だって十分ある。
それならば、ここでプルケル達を弱いと思ってしまうのは、あまりに失礼だ。
「……男から精気を摂ってないサキュバス達とは、こんなに貧弱なのか。なるほど、隠れ住むしかない訳だ」
そんな研一の推測を裏切るように。
クエストは納得した声で呟くと、バケツのような物にサソリ達を纏めて放り込み、手から液体を出して上から掛けていく。
ジュッという、まるで火で焙ったような音がして、サキュバス達の力で眠っていたサソリが死亡する。
「酸ですか?」
「いや、ただの水だよ。この辺に生息している魔獣は水に弱いからね。水を掛ければ弱い魔獣なら死ぬんだ」
「やっぱりこのサソリ、弱いんだ……」
「毒もあるし、油断していたら命の危険もあるからあまり褒められた話ではないが、子どもがオヤツ代わりに捕まえる事もある程度には弱いね」
「……子どものオヤツ」
(だったら、それすらマトモに倒せないプルケルさん達って、どんだけ弱いんだよ……)
しかも、美人揃いで無意識に男に魅了の魔法を放ってしまうらしい。
確かにこれじゃあ隠れてないと、マトモに生きていく事は難しいだろう。
「クエスト様。やはりこのくらい簡単に捕まえられないと、殿方に好きになって頂く事は難しいでしょうか?」
そこでプルケルがクエストに声を掛ける。
どうやら魔獣を倒すのが想像以上に難しかったらしく、何とか避ける事は出来ないかと相談したいらしい。
「魔獣を捕まえられるかは、そこまで影響しないとは思うけど、人間は食べないと生きていけないからね。男の確保が出来るまでは、最低限の食糧くらい自分達で獲れるようになっていないと、男を捕まえるどころの話じゃないだろう」
「あ、ああ。そうでしたね。人は魔力だけでは、生きられないのでした……」
(いつの間にか、随分と仲良くなってるな)
研一が気になったのは、プルケルが研一ではなくクエストの方に声を掛けた事だ。
朝食が豪勢だったのも研一への謝罪だけが理由でなく、サキュバス達に何度も調理を教えていたから量が増えていったという面もあったらしい。
(意外と社交的な人なのかな?)
実験とか研究以外に興味がないと思っていただけに。
こんなにも親身になってプルケル達の世話を焼いてくれるとは思っておらず、良い意味で期待を裏切られていた。
「研一さん。随分とクエストさんの事、熱心に見てますね……」
どうやら驚き過ぎて、じっとクエストを見詰め過ぎていたらしい。
センが責めている事を隠しもしない様子で声を掛けてくる。
「ああ、いや、その――」
「何だい? 研一君は私に興味があるのかい?」
研一が誤魔化しの言葉を見付けて口にするよりも早く。
耳聡く研一達の会話に気付いたクエストが、近寄ってきていた。
「いいよ。何でも聞いてくれたまえ! 煙たがられる事はあっても、誰かに興味を持たれた記憶なんてないからね! 実に新鮮な体験だよ!」
(なんて悲しい事を明るく言うんだ……)
これでは少し気になる事があって見ていただけ、なんて誤魔化して逃げる事は憚られる。
かといって、研究しか興味なさそうなのに、プルケル達と打ち解けているようで驚いたと真っ直ぐ言うのも失礼な気がして心情的に口にし難い。
「あの、ちょっと気になったんですけど、いつの間にあんなにプルケルさん達と仲良くなったんですか?」
言葉が出てこなかった研一と違い、真っ直ぐセンが尋ねる。
どうもセンもクエストがプルケル達と急速に親密になったように見えて、気になっていたらしい。
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