第360話 突然の豪勢な朝食
「これは――」
「何か凄い、ですね」
翌朝。
食事場となっている大広場に赴いた研一達は、予想外の光景に驚きを隠せなかった。
「そろそろ起きる頃じゃないかと思っていたよ。食事の用意は出来ているから、席に着いてくれるかい?」
昨日までは食事と言えば、魔獣を焼いたようにしか見えない物しかなかった。
何かの魔獣の肉の塊に。
サソリの死体にしか見えない物がゴロゴロと机に並べられている姿は、サソリを食べ慣れていない研一からすれば、少し引いてしまうモノがあったが――
折角用意してくれたのだしと恐る恐る食べてみたら、ワシャワシャした歯応えがスナック菓子のようで意外と美味しく、研一としては満足していた。
けれど――
(急にどうしたんだ?)
現在、机に並べられているのは、宮廷料理か何かと思う程の作り込まれた料理ばかり。
昨日までは切って焼かれていたようにしか見えない肉は、食べやすいように切られて盛り付けられている上に、何か刻まれた香草のような物が掛かっているし。
サソリの方は切られておらず見た目こそ死体が置いてあるようにしか見えないが、何かしらの調味が施されているらしく、香しい匂いがしている。
「悪いね。サソリも美味しそうな見た目にしてやりたかったんだが、どうしても切ってしまうと、触感が失われて、どうも美味しくなくてね。こうするしかなかったんだ」
戸惑って立ち尽くす研一達の態度を、料理の説明をしてくれとという事だとクエストは解釈したらしい。
まずは一番、自信がない物に対する釈明を始めた。
「朝だからね。いくら君達が若く健康とはいえ、重た過ぎるのはキツイかもしれないだろう? 薬草で身体に優しく、サッパリ味に仕上げてあるよ」
申し訳ないが、植物性の物で人間が食べられそうな物は近辺では発見出来なかったから、自前の薬草を使わせてもらった。
なんて付け加えて、更にクエストの説明は続く。
「ああ、それとも私が料理が出来る事に驚いたのかい? 実験も料理も行程自体は似ているからね。決められた素材を正しい順番とタイミングで正確に動かしていく」
それさえ出来れば安定した結果を出せる。
あるいは料理も実験の一つと言ってもいいのかもしれない、なんてクエストは言いながら、心配する必要はない。
なんて、クエストは味の心配はしなくても大丈夫だとばかりに言葉を連ねていく。
「いや、料理に文句があるとかじゃなくてですね――」
用意してくれるだけで十分だし、昨日の豪快な料理でも満足だった。
それなのに、急に手の込んだ料理を作ってきたから驚いただけ。
「昨日言っただろう? 魔族達には調理の過程からを教えていくって。彼女達の目的を考えるなら、男の胃袋を掴めるモノを教えないと意味がないだろう?」
「あ、ああ。なるほど……」
「それでどうだい? 若く健康な男である君は、こういう料理を女性に出されたら喜んで、好印象を抱いたりするかな?」
どうやらクエストなりに、プルケル達の目的から考えて合理的に判断した結果らしい。
これはある種の実験のようなモノで、こういう事をされたら男としては嬉しくなるかどうかの調査という事だろう。
「そう、ですね。確かにこうやって料理上手なところを見せられたら惹かれる男は多いと思いますし、身体にまで気を遣ってくれてるってなると嬉しいんじゃないかって思います」
「男は、か。それでは君自身には何の効果もないという事かい?」
「俺? 俺ですか?」
(サキュバスの人達にこんな感じで迫られたら、落ちるのかって話かな……)
客観的な意見よりも、数ある男の一人としてのサンプル意見が欲しいのかもしれない。
そう考えた研一は真剣に考え、答えていく事にする。
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