第354話 引っ付きクエスト
「あの、クエストさん? 何か用ですか?」
研一は非常に困っていた。
周辺の調査を終えて帰ってきたクエストに、ずっと付き纏われているからだ。
「ああ、気にしないでくれたまえ。君の魔法は私の最大の研究対象だからね。面白い事でも起きて、見逃したら勿体ないだろう?」
「いや、でも――」
クエストは気にするなと言うが、それは無理な話だ。
穴でも開きそうなくらいに見られ続けているだけでも気になるというのに、距離だって今にもぶつかりそうなくらいに近い。
「む、ちょっと顔色が悪い気がするな。体調を崩す前兆かもしれない。脈を確かめよう」
おまけに何かある度に、それっぽい理由を付けてベタベタと身体に触れてくる。
これだけでも気になって集中出来ないが――
「うー……」
「つ、番いでもないのになんて破廉恥な事を! これが人間の異性同士の距離感だというのですか……」
「キャー! 引っ付いてるわ!」
そんな研一達を見てセンは何か唸っているし。
プルケルや他のサキュバス達に関しては、両手で顔を覆いながらも、しっかりと指の隙間から一部始終を覗き見ている。
どうも番いだけを愛し、番いと生涯を共にするサキュバスの価値観からすれば、今の研一とクエストの距離は、見ていて恥ずかしく。
同時に羨ましくて興味深い状態のようだ。
「その、これじゃあ食事も出来ないですし――」
「それなら私が食べさせよう。安心してくれ。実験には精密な作業が必要な事もあるから、手先は器用な方だし、対象を観察してタイミング良く餌を与えるのにも慣れている」
そして、せめて人目を避けようにも今から食事なのだ。
人間の食事というものを知らないプルケル達には、実際に見せるのが一番解かり易いと思っていて、これから一緒に食事をしようと研一から声を掛けてしまっており。
だからこそ他のサキュバス達も集まっており、今から逃げる事も難しい。
「ああ、いや。そうだね。これは気付かなくて悪かった。君が怒るのも無理はない」
「え?」
恥ずかしい事をしていると気付いて、離れてくれるのだろうか。
クエストの言葉にそんな期待をする研一だが、そんな事を気にするクエストではなかった。
「人間達の食べる物を知りたいという話だったのだから、魔獣を麻痺毒か何かで捕まえてきて、目の前で解体から調理の部分まで全て見せるべきだったね。これは失念していたよ」
「そこは確かにそうしてくれたら有難くはありますが、それは次の機会にしてくれれば十分なので、今はですね――」
「そうだね。過ぎた事を嘆いていても仕方ない。今は食事に集中しようじゃないか」
クエストは当たり前のように研一の隣に座ったかと思うと、身を寄せてくる。
そして、机に並べられている料理の一つ。
おそらく魔獣の肉の丸焼きに見える物体の骨部分を掴むと、研一の口元へと運んでいく。
「ほら、口を開けてくれ。食事の時間だ」
「自分で食べれますので……」
「気にするな。この方が君をよく観察出来る」
まるでバカップルのような距離感ではあるのだが、クエストの目に色呆けた光はない。
実験経過でも観察しているかのように。
少しの変化でも見逃して堪るかとばかりに、真剣に見詰める視線だけがそこにはあった。
「これが人間の異性同士の食事風景……。随分と人間というのは、その――」
「違います! こんなのが普通の食事風景な訳――」
「ではこれが、想い合っている二人の――」
「絶対違います!」
何かトンデモナイ勘違いをし始めているプルケルに、センが突っ込む姿を尻目に。
研一は意を決して、クエストに告げる。
「あの、救世主の魔力の研究をしたいなら後で時間を取って協力するので、今は――」
「協力してくれるというなら、有難く受け入れさせてもらうよ」
「だったら――」
「ただ今は救世主の魔法じゃない。君に興味があるんだ」
まるで愛の告白とも取れるクエストの言葉に。
プルケル達を含むサキュバス達から黄色い歓声が上がり。センが手に持っていた食器を一つ、握り潰す。
「君はドリュアスでどんな風に過ごしてたんだい?」
だが、当然クエストの言葉は愛を伝えるモノではない。
自分が敵わなかった偉大なドリュアスの党首である、テレレ。
そのテレレと研一の間に何があったのかという興味しかなく、そこに情愛の欠片は微塵も存在していない。
「え、ドリュアスですか?」
「そうだ。より具体的には党首だったテレレと、どのような日々を過ごしていたのか、出来るだけ詳細に伝えてくれると、非常に嬉しいね」
じっと研一を見詰め、テレレの事を尋ねるクエストの姿。
それは嫉妬や独占欲を剥き出しにして、自分以外の女との関係を問い詰めている姿にしか見えなくて。
プルケル達は固唾を呑んで見守り。
「くあー!」
このクエストの行動が自分が発端だと、気付いているからだろう。
研一への申し訳なさ。
そして、見たくもない光景を延々と見せられながらも、自分が原因なだけに、どうすればいいか解からない苛立ちにセンが奇声を上げる。
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