第349話 魔族と魔族軍
「研一さん、その、大丈夫ですか?」
心配そうなセンの声が研一の耳に届く。
プルケルとの話を終えた研一は、用意された家でセンと二人で過ごしており。
クエストは研一とは別の家に、一人で滞在する事になっていた。
「大丈夫、とは言い難いかも。ちょっと予想以上にショック受けてる……」
「ですよね……」
いくら研一でも、センの前で無理に平静を装えないくらいには、驚きを隠せなかった。
魔族は人を喰らう化け物で。
どう頑張っても人間とは相容れない存在だから、滅ぼさないといけない。
そんな大前提が今回の話で、一気に崩れ去ってしまったのだから。
「あの後に聞かされた話も衝撃的だった……」
そもそもサラマンドラ国が魔族に狙われていた理由だって、奴隷狩りなんてしていた事が原因であり。
怒りを覚えた魔族が集まって、攻撃しようとしていたという感じらしい。
――そこに救世主である研一が来た事を知り、正規軍が追加で加わったというのが、最初の戦いの実態だそうだ。
(まあ、サーラの親が死んだ件に関しては別らしいけれど……)
とはいえ、だからって魔族を受け入れられるかってなると話は別。
最初の研一の魔族軍との戦については、色々と考えさせられる部分はある。
だが、サーラの親が死んだ方の戦に関しては、炎の魔力を手に入れる為に魔族の正規軍が攻め込んできた完全な侵略戦争だったらしく。
サーラの両親や重臣達といった、有力な炎使いは、その時に攻めてきた魔族が全員食べてしまったらしい。
(イカンイカン。頭を切り替えよう)
まずは魔族が全て、魔族軍のようなモノだという考えを変えていこう、と研一は意識する事から始めていく。
プルケルの話が事実なら、サキュバスは人を食べるでもなく、ただ美しく男を気持ち良くする術に長けていたから狙われた、可哀想な被害者だ。
それが限界にきて魔が差して正規軍を呼び込んで国を壊滅を目論んだところで、どうしても研一には責める気には、なれない。
(なんて。人間を守る為に召喚された救世主としては、間違ってるんだろうけど……)
きっと立場や功績値の事を考えるなら、話なんて聞かずに全員殺すのが正しい。
ルクシリアの願いを聞き届け、センまで保護していたのに、魔族軍を差し向けられらたという部分まで考えれば、研一を責められる者なんて居ないだろう。
(何でかな。ちょっとだけ、ほっとしている)
それでも魔族を全員、殺さなくてもいいかもしれない。
もしかしたら、ある程度は解かり合って共に過ごせるかもしれない。
そんな可能性が垣間見え、研一は心が軽くなるのを感じていた。
本来は戦いなんて好まない性根の話だけではない。
「えっと、研一さん。そんな風に見詰めてもらえるのは嬉しいんですけど――」
魔族を排他し続ければ、その先に目が向けられるのは魔族との混血である魔人達である事は確実。
そうしたらセンを含めた、自分の知っている魔人達が暮らしていくには、辛い世界になるだろう。
それよりは、甘いと言われても出来るだけ仲良く暮らしていける道を探りたかった。
(何とか上手くやって、最初の懸け橋になれればいいけど――)
とはいえ、戦いならともかく。
結婚相手を探せみたいな事は初めてで、何から始めていけばいいか解からない。
(まずはプルケルさん達に、更に細かい条件とかを聞いて。いや、暫くここで暮らすか?)
男探しの話だけではない。
まずはプルケル達が本当に信頼出来る相手か。
そして、このサキュバスの隠れ里がどういう場所か。
(そこを知らないと、どんな男だって呼べやしない)
その後でサラマンドラ国に戻って、ベッカ辺りに事情を話して相談するしかないだろう。
何せ、研一には男の知り合いがほとんど居ない。
これは別に選り好みしていた訳ではなくこの世界では魔力の高い者は女が多い為、戦闘要員の多くは女性であり――
救世主といっても実質は魔族軍との戦闘要員でしかない研一が知り合う機会も女性ばかりだっただけの話だ。
「け、研一さん? さっきから、私の方ばかり、そんな熱心に見て……」
そこで人と魔族の双方に関わっていく内容だからだろう。
無意識にセンを見詰め続けてしまっていた研一に、声が掛かる。
「ねえ、センちゃん。センちゃんはさ、どういう男の人と番いっていうヤツになれたら、嬉しい?」
別の事を色々と考え込んでいたせいで、あまりにも頭が働いていなかった。
人とサキュバスの混血であるセンに聞くのが、丁度いいだろうとばかりに、あまりにも脳死過ぎる質問をしてしまう。
少し考えれば、そんな事を言われたセンがどんな反応をするかなんて、想像出来た筈なのに。
「研一さん。あんな熱っぽい目で見詰められて、そんな事言われたら、私――」
「……えっと、センちゃん」
「我慢出来なく――」
「センちゃん!?」
「そんなの、いっぱいちゅーして、大好きだって言って抱き締めてくれる、研一さん以外に居ません!」
「そんな研一さんは、この世界には居ない!」
我慢出来ないとばかりにキスをしようと、センが襲い掛かってくる。
それを必死で交わしながら、サキュバスの隠れ里での最初の夜は過ぎていくのだった。
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