第347話 今更の接触の訳
「……やはり。貴方様が、あの優しい救世主様だったのですね」
「その呼び名は!」
「はい。ルクシリア様の、あの方の終わりを我々は大まかにではありますが、知っています」
けれど、研一の嘘はプルケルに確信をもたらしただけだった。
救世主は決して乱暴な悪党でもなければ、女と見れば目の色を変える好色漢でもない。
自身が悪評を背負う事になっても、誰かを守ろうとする強さと優しさを持った人物なのだと。
「実はルクシリア様は、最期の時に私達に伝えてくれました。もし何か困った事があれば、まず初めに救世主である貴方様を頼るべきだ、と」
センの母親であったルクシリアは、己が死ぬ間際。
娘であるセンを研一に託すと同時に、念話でプルケル達に今後の方針を伝えていた。
しかし――
「それじゃあ、何で今になって話し掛けてきたんです?」
あまりにも時間が経ち過ぎている。
センと出会ったのは異世界に来て本当に一番最初の時期であり、もう一年近く前の事であり、あまりにも今更過ぎる。
「……監禁され衰弱していたルクシリア様に、もう力は残されていなかったのでしょう。私達に伝ったのは『心優しき救世主様』という人間が、信用に足るという情報だけだったのです」
疑問の答えは簡単だ。
もうボロボロだったルクシリアの力では、詳細や映像まで送る事は出来なかった。
そこでプルケル達は、救世主の情報を自らの力で集めようとしたのだ。
下手にサラマンドラ国に近付けば、奴隷にされるかもしれないし、それを抜きにしても魔族として襲われて戦いになるかもしない。
だが、サキュバスであり心を読む力を持っていうプルケル達なら、非常に大きい思念――
例えば、国中で噂になるほどの女好きの変態救世主くらいに規模になってくれれば、隠れ里に居ながらでも、何とか読み取る事くらいは出来た。
「けれど、調べた印象では、どう考えてもあの時サラマンドラ国に居た噂の救世主様とやらは、我々が頼れるような人物ではありませんでした」
「……だろうね」
当時の研一は今と同じく女好きの変態と思われようとしていたし。
実際に、国中から女を無理やり集めたりもしていた。
これで信用しろという方が無理な話だ。
「そこで我々は『噂の女好きの救世主』とルクシリア様が伝えてくれた『心優しき救世主様』は別の人間だと考え、我々が救いを求めるべき救世主様は、サラマンドラ国に見切りを付け、離れてしまったと思っていたのです」
人間の味方として召喚されたにも拘わらず、魔族であるルクシリアの最期を看取り。
その娘であるセンを引き取ってくれるような、優しい人。
それならば何もしてない魔族を捕まえ、監禁して売り捌いているような国に呆れて、別の国に向かったのだと考えていたのだ。
「ですが、最近になって知ったのです。その噂の女好きの救世主様の傍には、心を読む奴隷が控えているという事を」
だが、プルケル達の予想を覆す情報が最近になって出てきた。
研一が好んで連れ回すお気に入りの奴隷が居て、その奴隷は人間と魔族の混血である魔人であり、相当な力を持っているという。
「間違いなくルクシリア様の子だと思いました。そして、サキュバスの事情を知らない貴方様に更に付け加えて説明させて頂くと、サキュバスは愛する者の傍に居なければ、大きな力を発揮する事なんて、どうしても出来ないのです」
どれだけ雑に扱っているように装ったとしても、本当に虐げているなら、センが噂になる程の力を持っている筈がない。
むしろ、衰弱して死んでしまっているだろう。
「噂とは違い、セン様を大切に扱って下さっている。この方こそがルクシリア様から伝えられていた、心優しき救世主様本人である。我々はそんな風に推測しました」
「だから今になって、俺と接触しようと思ったって事か……」
「はい。これで疑問にお答え出来たでしょうか?」
わざわざ研一を名指しで指名した理由も。
随分前にルクシリアに言われたにも拘わらず、今更助けを求めに来た理由も筋は通っているように聞こえる。
だが――
「私の言葉は信じられませんか?」
「言い分自体は特に矛盾は感じてないよ。でも、センちゃんのお母さんが俺に君達を託したって話が、どうにも納得出来なくてね」
プルケルの話自体には、疑問はない。
問題は、センの母親であるルクシリアが、研一にプルケル達を託したという部分だ。
(確かサラマンドラ国の戦いで魔族軍の精鋭が来た理由って、センの母親のルクシリアさんが俺の事を魔族軍に伝えたからじゃなかったか?)
もう随分前の話になるが、それでも研一は覚えている。
サラマンドラ国周辺に本来は精鋭の魔族は居らず、救世主を倒す為に遠征してきたと魔族軍の部隊長のような男が話しており。
自分のせいで多くの人を死なせてしまったと後悔しており、どれだけ時間が経っても忘れる事なんて出来ないのだから。
「……私は貴方様。そして、サラマンドラ国に謝罪しなければならない事があります」
悩む研一の様子から、プルケルは覚悟を決める。
自分が過去に犯してしまった大罪を、研一に伝える覚悟を。
「長く地下に監禁され、消耗していたルクシリア様に、魔族軍まで念話を届けるような力は残っていませんでした。魔族軍に貴方様の事を伝えたのは、私です」
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