第346話 プルケル達の目的
「先程は大変失礼しました。まさか私の魔力が効いてないとは思わず……」
サキュバスの隠れ里内にある、小さな家。
そこに招かれた研一達は、プルケルに頭を下げられていた。
――ちなみにクエストは気絶したままであり、部屋の隅に丁寧に寝かされている。
「はっ。テメェ等のセコイ魔力が俺様に通じるとか、この救世主様の力を舐め過ぎにも程があるんじゃねえの?」
「はい。まさに仰る通りで、反論のしようもありません……」
既に出会いの時のプルケル達の行動理由は説明されており、納得はしている。
だからこの態度自体は、いつもの悪党演技であり、プルケル達への怒りは全くないが――
(クエストさんは、もっとこう、あっただろ!)
それはそれとして。
いきなりズボンの中に手を突っ込んで触ってきたクエストに関しては、許していない。
起きても暫くは、ぞんざいに扱おうと心に決めていた。
「それで、わざわざテメェ等が俺を呼び出した理由は何だ? こっちも暇じゃねえんだ。内容次第じゃ、ただで済ませる気はねえぞ」
とはいえ、今重要なのはクエストの事ではない。
プルケル達がわざわざ研一を名指しした理由、そして何をさせようとしているかの把握こそが最重要案件だった。
「その事なのですが、実は我々サキュバスは絶滅寸前で、確認されている限りでは、この里に残っている十五名で全てなのです」
「ほう? それで何だ? まさか女好きで知られる俺様に、テメェ等全員を孕ませろとでも、おねだりしてきたのか?」
プルケルの言葉に、冗談のつもりで研一は答える。
出会った時の怯えた姿から見るに、その可能性は薄いだろうという思ったからこそ言えた言葉であったが、その予想はすぐに裏切られる事になる。
「……それも選択肢の一つだとは思っています」
プルケルは研一の言葉を否定してくれなかった。
僅かに唇を噛み締め、どうしようもないならその道を選ぶのも仕方ないとばかりの態度で、浅く頷いて説明していく。
「我々としては何よりも生涯を共にし、永遠に愛せる相手を見付ける事こそが好ましくはあります。ですが、状況がそれを許してくれません」
「状況ねえ」
「はい。我等サキュバスの生態にあまり詳しくなかったようですが、その、自ら説明するのは傲慢に聞こえると思いますが、我等は総じて見た目が整っている上に、誰に教わるでもなく、男を悦ばせる技術を本能的に持っています」
(まあ、うん。確かに凄かった)
プルケルの言葉に、研一はセンに口付けをされた時の事を思い出す。
ただ唇を合わせ、舌をぶつけられているだけだというのに、あまりの快楽に何も考えられない程だった。
おそらくサキュバスなら、誰でも似たような事が出来るのだろう。
「ですが、それ故に我々を捕まえようと狙う者も多いのです。そこで我々を守ってくれる、次代の担い手、新しい女王ともいうべき存在を求めています」
研一が余計な事も思い出している間も、プルケルの説明は続いていく。
「そこで我々としましては、信頼の出来る男を貴方に紹介して頂きたい、と思っているのです」
(ああ、なるほど。だから選択肢の一つ、か……)
救世主であり他の追随を許さない絶大な魔力を持つ研一との子どもなら、強い魔力を持つ子が生まれる可能性が高いが――
プルケルとしては、悪人の研一を番いになんてしたくない。
だからこそ番いの候補には入れつつも、受け入れ難いという事だろうと研一は推測する。
「……何で、わざわざ俺を指名した?」
だが、それならば逆に引っ掛かる事がある。
魔力の高い相手なら誰でもいい、というなら高い魔力を持っている上に、女好きの変態野郎という噂を持つ研一に頼みに来るのは、道理に合っている。
しかし、プルケルの態度や番いだけを愛するサキュバスの性質を考えれば、どう考えても研一を名指しするべきではない。
見境なくサキュバス達を襲いまくった挙句に、飽きたら責任も取らず逃げていく。
それこそが噂から想像出来る、研一の姿の筈だから。
「ルクシリア、という女性をご存じでしょうか?」
「ああん? 知らねえ名前だな。どっかの党首か有名人か?」
この世界に来てから多くの出会いと別れを経験してきた研一だが、それでもその名前には心当たりがない。
忘れているのかと思って訊ね返した研一に、プルケルはある種の覚悟と共に口を開く。
「……セン様の母君、と言えば解かるでしょうか?」
「っ! ああ、アイツか。何だ、そんな名前だったのか」
サキュバス達の隠れ里であると気付いた時点で、どこかで彼女の話が出てくる事の覚悟はしていた。
それでも動揺を全て抑え切る事は出来ず、僅かに言葉に詰まる。
「はっ、もう随分と懐かしい話だな。良い女が居るって聞いてたから、俺様が抱いてやろうって思ったのに、番いでもない相手に身体を許す気なんてないとか喚きやがるから躾けようとしたら、つい力加減を間違って殺しちまったんだよな」
いやあ、勿体ない事をした。
なんて研一は、真実とは掛け離れた出鱈目な話を並べ立てた。
(新しい女王って言葉と話の流れ的に、多分、センちゃんの母親が前の女王みたいな存在だったんだろうな……)
どこか憧れや敬意の込められたプルケルの言葉に、それだけでルクシリアが大事な存在だった事は伝わった。
それならば、あんな悲しい結末なんて知らなくていい。
悪党に踏み躙られこそしたが、地下に捕らえられてセンを人質に捕らえられても尚。
最後の最期まで誇り高く生き抜いた、という事にしたかったのだ。
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