第341話 クエスト戦、決着
たーなーばーたー、たーらたらー
「何だ。意外に動けるじゃないか」
そこで煙に紛れて何も見えてない筈の研一が、あっさりとクエストの腕を掴む。
別に煙の中を見通す能力なんて持ってない。
悪意を力に変える研一には、見えなくても自分に敵意を向けている者の方向を感じ取る力が備わっており、それでクエストの位置を把握したのだ。
(やれやれ。ようやく居場所が解かった……)
だが、少し前まではクエストに救世主への知的探求心しかなく、どこに居るか解からず、少し困っており。
痛い目を見せてやろうと僅かに悪意めいたモノを抱いてくれたお陰で、ギリギリで場所が解かったのである。
「しかも結構ヒリヒリするぜ。中々凄えじゃねえか」
クエストの腕掴んだ手が溶解性の液に触れ、僅かではあるが溶け、まるで棘でも刺さっているような痛みを与えてくる。
それだけ聞くと大した事のないようなダメージに感じるだろうが――
今の研一の防御力は相当なモノがあり、仮に溶ける程に熱された鉄を握り込んでも、火傷どころか熱さを感じる事さえない。
こう聞けば、クエストの非凡な破壊力が想像出来るだろう。
(戦力だけを見れば、一緒に来てくれたら嬉しくはあるけれど……)
気怠そうな雰囲気とは違って相当に戦い慣れているようだし、攻撃力も期待以上。
応用性の高そうな魔法は、戦闘面以外でも冒険に役立ってくれそうで、能力的には申し分ないと言っていいだろう。
けれど、それだけで仲間に迎え入れる事は出来ない。
「それでテメェは確か俺の魔力を直接受けて研究したいとか、ほざいてやがったが、俺の力なんざ調べてどうする気だ? 俺と同じ魔力でも使えるようになって、新しい救世主にでもなるつもりか?」
研一は腕を掴んだまま、魔力を高めてクエストを睨み付ける。
それだけで殺気立った軍隊の群れを前にした以上の圧力が発生し、並みの者ならその空気に当てられただけで、意識を失い――
クエストの頭にも、返答次第で殺されるという予感が走った筈だ。
「そこに知らない現象がある! それを解き明かす事に、どんな理由が必要だと言うのだね!」
だが、クエストは迷う事無く己の欲望のままに、言葉を紡いでいく。
理由なんてない。
ただ不思議な出来事があって、気になって仕方ない。
だから調べてみたいだけなのだ、と。
「はっ、随分と欲望に忠実な答えじゃないか。そういうの嫌いじゃないぜ」
クエストの探求心や好奇心を疑う気は、研一にはない。
それくらい単純で真っ直ぐな考え方だからこそ、いきなり子作りしようなんて喚き出すんだろうし、好き勝手に研究した果てに国際規模の指名手配犯になるのだろうと思うから。
「それじゃあ俺の魔力を調べてみて、何も解からなかったとしようじゃねえか。それで魔族の力を借りれば解き明かせるとすれば、どうする? 俺の情報を魔族に売るか?」
けれど、倫理観に置いては、微塵も信用していない。
その探求心の果てに、研一の情報を魔族に売り渡す程度なら、それは仲間に引き入れた研一の責任。
後で見付けてぶちのめすとして、大した問題とも思わない。
(ただ、ここで平然と頷くようなら――)
それは自分の知的好奇心を満たす為ならば、仲間を裏切る事なんて、どうでもいいと言う事と同義であり――
裏切られる仲間が研一とも限らないのだ。
そんな奴と共には戦えない。
研一自らの手で完全に叩きのめして、サーラに引き渡すと決め、魔力を高めていく。
果たして。
「馬鹿な事言うもんじゃないよ。誰かの手を借りて謎を解き明かしたって、何も楽しくないだろう」
クエストの返答は、研一の想像を超えるものだった。
謎が解かれば何でもいい、という話ではない。
自分自身の手で紐解いていかなければ気が済まないという、ある種の独占欲すら感じさせる鮮烈な答え。
『センちゃん』
そこで研一は、少し離れた場所で、黙ったまま戦いを見ていたセンに念を送る。
心を読めるセンに、クエストの真意を確かめてもらう心積もりであった。
『……信じていい、と私は思います』
僅かな迷いの感じられる返答。
おそらくだが、クエストの言葉自体は本音ではあるものの、それが全てではないという感じだろう。
(人間だ。そのくらいは普通だろう)
大き過ぎる探求心だけじゃない。
時には、その探求心すら揺らぐ何かを秘めているのだろうが、それくらいの方が人間らしい。
「解かった。俺様は寛大だからな。仮採用って事にしといてやるよ」
何より、心を読むなんてカンニングだけで全てを判断するのも、姑息というモノ。
魔族の手先やら不届き者でないと解かれば、それで十分。
後は実際に一緒に居て、判断していけばいい。
「それで俺の魔力を直接味わってみたいって話だったな。思った以上に楽しませてくれた礼に選ばせてやる」
悩む時間は終わりだとばかりに、研一は魔力を高め、攻撃の準備をする。
次の一撃が放たれれば、おそらく戦いは終わるだろう。
未だ腕を掴まれたままのクエストに、逃げる事どころか防御すら出来ない筈だ。
「何を選ばせてくれるって言うんだい?」
だというのに、まるで新しいおもちゃを買ってもらえる子どものように。
期待に目を輝かせ、クエストは研一の言葉の意味を期待と共に確認していく。
「手加減してほしいか? それとも全力で、ぶっ飛ばしてほしいか?」
「勿論、全力で来てくれたまえ! ああ、けど出来れば首から下に攻撃してくれると助かるよ。多少、身体が欠けたところで回復出来る自信はあるが、頭が飛んだら、さすがの私も死ぬだろうからね」
そして、これから殴り飛ばされるなんて想像出来ない喜色に満ちた目で、研一の攻撃を余す事無く受け止めようと――
クエストも自身の身体に、魔力を漲らせて受け止める態勢を取る。
ようやく待ち侘びた瞬間が来たとばかりに。
「……そうかい。それじゃあ受け取れ! これが俺の全力だ!」
「くはぁっ!」
研一は手を離すと同時に、渾身の魔力を込めた拳をクエストの身体に叩き込んだ。
上から振り下ろすような一撃。
クエストの身体が地面に叩き付けられたかと思うと、ボールのように高く跳ね上がり、地面に激突する。
「…………」
そのまま、壊れてしまった人形のように、ピクリとも動かない。
どう見ても死んだようにしか見えないだろう。
だが――
「お望み通りの一撃だ。俺に感謝して、咽び泣くといいぜ!」
研一は無事を確認する事もせず、そんな事を告げて高笑いすると――
これで仕事は終わったとばかりに、背を向けて歩き出す。
知っていたのだ。
クエストが怪我一つしていない事を。
(確かに、詳しく調べたくなる力ではあるよね……)
研一の持つ救世主の力は、魔に連なる者を倒す事に特化しており、人間に対しては、著しく殺傷力が低下する。
だから、痛みや衝撃だけはクエストの身体に伝わった筈だが、クエストの身体には傷一つ付いてないだろう。
「それじゃあ、お姫様。後は任せたぜ」
とはいえ、さすがに気絶したまま放置はマズイだろう。
サーラに介抱を期待しつつ、練兵場を後にし。
研一に付き従うように、センもこの場を去った。
これでクエストの戦闘能力を見る試験は、終わりを迎えたのだった。
面白かった、続きが見たい。
書籍化して絵が付いているところが見たい。
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