第340話 研一VSクエスト
「ふふ、救世主とやらの魔力は、どういう系統なのだろうね。今から楽しみだよ」
どうやら最初から研一と戦う気だったらしい。
だからこそ、個室や謁見の間といった場所ではなく、練兵場なんて戦い向きの場所に呼びだしたのだろう。
(実際に強さが解かるし、こちらとしては有難いけれど――)
クエストも言っていたが、戦力になるかどうか判断するなら、戦ってみるのが一番手っ取り早い。
幸いといっていいのか、このサラマンドラ国で研一の評判は最悪だ。
研一が近々サラマンドラ国に帰ってくるとサーラが密かに国民達に伝えてくれていたのもあり、悪意は十分に供給されている。
研一の方は、戦う準備万端と言ってもいい。
「そのままでいいのか?」
だが、やる気満々な態度と違い、クエストの方は裸のままだ。
そんな恰好で戦えるのかと、心配になる研一であったが――
「君も知っているだろう? 人は大気中の魔力を吸収し、それを自分の属性に変換する事で、魔法を繰り出している。そして、多くの衣類は魔力の吸収効率を妨げる。裸こそが何よりも戦いに適した姿なのだよ!」
「そうかい。じゃあ遠慮は要らねえぜ。来いよ?」
恰好すら含めて、どうやらクエストの戦闘態勢は整っているという事らしい。
それならば、いつまでも裸を見せ付けられ続けるのは、ちょっと勘弁してもらいたい。
出来るだけ早く決着を付けようと、掛かって来いとばかりに手招きする。
「おいおい、そりゃあないよ! 私は救世主の魔力っていうのを、全身で感じて解析してみたいんだよ!」
だが、どうやらクエストの方も、研一の攻撃待ちの予定だったらしい。
手加減無しで撃ってこいとばかりに、研一に吠え立てる。
「俺が攻撃したら一瞬で終わっちまうだろうが。それじゃあテメェの力を何も見れねえだろ」
「私は大丈夫さ! 全力で、かましてくれたまえよ!」
「だったら証明してみろ。俺に攻撃されても耐えられる強さってヤツを」
とはいえ、誘いに乗る訳には、いかない。
今の研一の力なら、国の党首であるサーラでさえ、直撃すれば一撃で気絶させる事が出来る。
いくらクエストが自信満々の態度を見せようが、まだ何の力も見せてもらっていないのに、戦闘不能になる可能性がある以上、動く訳には、いかなかった。
「仕方ない。それじゃあ、その気にさせるとしようか」
そして、仲間に引き入れるかどうかの判断をするのは研一であり、主導権が自分にない事くらい、クエストだって理解している。
それならば仕方ないとばかりに、クエストが腕を軽く振った。
(水魔法使いだったのか? 攻撃って割には、速度も何もないけど……)
炎や雷といった形のない物ではない。
何か液体のような物が振るった腕から飛び散っており、裸で何かを隠せるような状態でもなかったから、おそらくこの液体こそがクエストの魔法なのだろうが――
(こんな水飛沫じゃ威力も何もないだろうに。俺に攻撃してもらう為に、手加減でもしてるのか?)
水魔法のような物質的な攻撃は、基本的に量や速度が威力に直結している。
これでは多少身体が濡れる程度で、大したダメージなんてないだろうと思いつつ、それでも威力を確かめようと、あえて触れに行こうとする。
その瞬間だった。
「何!?」
ただの水飛沫だと思っていた液体が、目の前で爆発した。
水のように見えていたが、どうやら魔力で作り出した爆薬のような物体だったらしい。
受けに行こうとして事もあり、避ける事もままならず、直撃してしまう。
(ふふ、油断したね! 速い攻撃なら防御するなり回避するなりしただろうけど、攻撃にも見えない緩い物体なら当たってくれると思ったよ!)
そして、爆発と同時に紫色の煙が周囲に吹き荒れ視界を遮る。
攻撃と同時に目眩ましを兼ねていたのだ。
(戦闘力を見せろという話だからね。動けるところも見せておかないと――)
爆発の煙に紛れて、クエストが動き出す。
どうやら党首級の魔力を持っているというサーラの話に嘘はないらしく、魔力で強化された動きは、だらしない雰囲気からは想像出来ないくらいに速く鋭い。
正面から攻撃すれば見えていなくても反撃される可能性があると考え、素早く横に回り込む。
(それにしても、さすが伝承に出てくる救世主だね。相当な威力にした筈だし、防御も出来なかっただろうに、怪我の一つもないみたいじゃないか。これは研究のし甲斐がある!)
煙に紛れて研一の姿は見えないが、クエストの鼻は特別だ。
匂いだけで相手の居場所を完璧に把握するだけでなく、血の香りが増えてない事から負傷してないと確信して、追撃に向かったのだ。
そして――
(爆発には強いようだね。では、溶解ならどうかな!)
クエストの魔法は、爆発物を生み出して飛ばすという形式ではない。
魔力を使って薬物を精製する魔法。
魔力調整によって自由自在に濃度を変換出来る薬を作れるという、薬魔法とも言うべき魔法体系だ。
とはいえ、実際の薬品とは色々と違う部分が多い。
魔力で作られた物質なので、魔力が切れると同時に気化でもするように消えてしまい保存する事は出来ないのだ。
だから一々、使う瞬間に精製しなけえればいけないという、難点があるが――
(さっきの爆発が私の本気だと思って、戦力にならないと思われても困る。ここは全力でいかせてもらうとしようか!)
込める魔力次第で効能の調節も自在なら、クエストが接種して解析出来た薬物なら、魔力さえ足りるなら瞬時に精製出来る。
そこでクエストは、かつて戦った事がある魔獣の溶解液を攻撃に選んだ。
(ふふ、少々痛いだろうが、恨むなら私の力を侮った君自身を恨みたまえ!)
鋼鉄さえ溶かす脅威の液体であったが、クエストが全力で魔力を注いで濃度を上げれば、純金さえも簡単に溶かし尽くす脅威の液体となる。
その溶解液塗れの手を、研一の身体に触れようと伸ばす。
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