第335話 エラーの不信
「えー、嘘!?」
やはり、こんな話をしても信じてもらえない。
メロディの声にエラーは故郷に居た頃に何度も味わった失望を抱くが、その感情は一瞬で掻き消される事になる。
「マジで良い奴じゃん! そんな何か企んでそうな暗い顔してないで、もっと自信持ちなよ!」
「え、え?」
全く疑ってない様子で、メロディが嬉しそうにエラーの両手を握ってきたからだ。
ぶんぶんと掴んだ手を振り回して喜びを露わにする姿に疑いなんて微塵も感じられず、逆にエラーの方が戸惑う始末だ。
(さすがテレレ様! 今、一番来てほしかった人じゃん!)
とはいえ、普通ならメロディだって立場があり、無条件で信じてやる事は出来ない。
だが、嘘を見抜くと言われ、心詠みの巫女の異名をで有名なテレレが連れてきたのだ。
疑う必要なんてある訳もないし。
「さすがにわざとあんな情報流したとはいえ、禄でもない連中しか来なくてうんざりしてたの」
メロディがここまで喜んだ事には、理由がある。
そもそもこの世界にはテレビもネットもない以上、情報なんて出回らない。
ましてや大国でもないソヌスの国なんて、魔獣の群れに襲われて滅んで消えたところで、気付かれる事さえないだろう。
ソヌスの街が魔獣に襲われた、という情報が出回っている事自体、メロディ達の仕込みであり、今日までいくつもの盗賊団が街に来ていたのだ。
「どうして、わざわざそんな噂を?」
合言葉や入り口を念入りに隠している辺り、極秘裏に動いている筈だ。
それなのにあえて盗賊達が来るような噂を流し、しかもポヨポヨビースト達に待ち伏せさせるなんて、悪趣味としかエラーには思えない。
「ウチもこんな事したくなかったんだけどさ。建国するに当たって、最初の印象って相当に大事だってテレレ様――」
「テレレ」
「テ、テレレが教えてくれてね」
テレレに呼び捨てにするように軽く睨まれて。
慌てて呼び方を変えつつ、メロディは説明を続けていく。
「ほら、あの子達って凄く強いでしょ?」
「ミュジカさんの事ですか?」
「違う違う。ミュジカは確かに鬼強だけど、そっちじゃなくてポヨポヨビースト達。あのポヨポヨ鳴いている丸っこい子達」
「は、はあ。確かに物凄い魔力量でしたが……」
メロディの言葉に、エラーは戸惑いを覚えずには居られなかった。
アレだけの力を持つポヨポヨビースト達を、まるで何の脅威もない愛玩魔獣か何かのように呼んでいる。
エラーには、とてもじゃないが出来そうにない。
「それで街に来た盗賊だかを返り討ちにしていって、あの子達の脅威を周囲に知らしめた後で、あの子達を仲間にしたウチ等が大々的に名乗りを上げる。そういう予定だった訳」
「なるほど……」
確かにインパクトは大きいだろう。
エラー自身、ポヨポヨビースト達を従える姿に何度も驚かされており、建国時に話題になる事は想像し易かった。
だが――
(ここでも利益が全てという訳ですか)
今までの話で、エラーには、メロディへの不信が募っていた。
話題作りの為に盗賊達を呼び寄せた事にだって、納得がいかないし。
「まだ知られている音魔法の国でなく、古代に失われたとされる声魔法の国として建国しようというのも、その印象操作の一環という事ですか?」
建国時の利益だけを求め、詐欺染みた行為をする気なら協力なんて出来る訳がない。
声魔法なんて伝承に残っているだけで、音魔法との差が解からないからって民衆を騙そうとしている連中の片棒なんて担げないと思い――
ここで殺される事になろうと、意志に殉じる覚悟を決める。
「あー、いや。それはちょっと違うというか……」
そこでメロディが口籠もる。
やはり後ろめたい事があるのかと、落胆するエラーであったが、それに気付いたテレレが口を開く。
「盗賊達を呼び寄せた件は放っておけば他の街を狙うだけだし、どこからでも湧いてくる。前から捕まえる為の機会を待ってて、都合が良かっただけ」
「……それは確かに、そうかもしれませんが」
確かに話題作りに使ったのは事実なのだろうが、それと同時に他の場所が守られる。
一挙両得の作戦だったと言われれば、文句は言い難い。
それでも声魔法なんて、もはや伝説になった失われた魔法の名前を使って、民衆を騙そうとしている連中に協力なんてしたくないと、歯切れの悪い言い方をするエラーであったが――
そのわだかまりにすら気付いているとばかりに、テレレが更に口を開く。
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