第333話 子どもに大人気な救世主様
(何というか、入口の物々しさの割には……)
テレレ達に案内されるままに、洞窟の奥へと進むエラーは更に戸惑う事になる。
道すがらに見えていた光景が、あまりにも想像とは掛け離れていたからだ。
「悪いんだけど、この資材。向こうの倉庫まで運んでもらっていいかな?」
「ポヨ!」
大人達がポヨポヨビーストと共に、何か作業をしている。
あれ程の力を持つ魔獣が、党首でも何でもない一般人の命令に従っているという、神話でしか聞いた事のないような光景が広がっているかと思えば――
「僕は悪の救世主、研一様だぞ! 女は皆、僕の奴隷になるのだ!」
「次は俺! 俺が救世主の役!」
「こら、アンタ達! 救世主様ごっこは、したら駄目だって言ってるでしょ!」
「うわー。皆、逃げろ逃げろ」
子ども達があまり良くなさそうな遊びに興じて、大人達に怒られている。
普通の街に来たのかと錯覚してしまう程に、ほのぼのとした風景まであるのだ。
「というか、どうしてあんな悪い噂だらけの救世主が、こんなに子どもに人気なんです……」
あまりにも訳が解からなさ過ぎたからだろう。
一番どうでもいい疑問が、思わずエラーの口の中から漏れ出てしまう。
ほとんど独り言であり、答えなんて全く求めていなかったが、予想外に反応した者がいた。
「ふふ、知りたいか! 知りたいだろう!」
ミュジカだ。
話したくて仕方ないとばかりの様子で声を上げたかと思うと、エラーの返事も待たずに話し始めてしまう。
「相棒は本当は凄く良い奴なんだけど、良い奴だって事を隠さないと駄目でな。けど、俺の為に街の奴等に良い奴だってバラしちまったんだ」
「は、はあ……」
あまりに説明になってないミュジカの言葉に、エラーは生返事しか出来ない。
事情を何も知らないエラーからすれば、そもそも相棒って誰だという話なのだが――
(あの人らしい話……)
事情を全て知っているテレレは、ミュジカの拙い話から、伝え聞いた話を思い出して軽く笑う。
それはエコーバードを研一とミュジカが追い払った時の事だ。
ミュジカが街に戻る勇気を持てなかった際、研一がミュジカとの会話を街の住人に流す事で、街に受け入れやすい流れを作ったのだが――
(会話を全部聞かせといて。悪党だなんて説得力ないものね)
当然、会話相手である研一の声だって、街の住人に聞こえていたのである。
その結果、研一の性格や優しさも街の人にバレてしまったのだが――
「相棒は本当に凄いんだぞ! あんな事したら自分が弱くなるなんて最初から解ってて、それでも俺の為に迷わずやってくれたんだ!」
どうするのがミュジカにとって一番いい結果になるか。
ただそれだけしか考えておらず、今後、ずっとソヌスの住人達からスキル強化の恩恵を受け入れられなくなる事なんて、全て折込済みで行動していたのだ。
そんな事、ミュジカの幸せに比べれば、研一にとっては些細な事だったのだから。
――その行動がヒーローみたいで格好いい、と子ども達に人気になっているのだが。
大人としては、悪党の演技をしていた頃の悪い言葉ばかり真似されて、手を焼いているという訳だ。
(本当。ダーリンは、出会った頃から変わらない……)
相棒はチョー凄くて優しいんだぞ、なんて尚も嬉しそうに語り続けるミュジカに共感と愛しさを覚えつつ。
テレレは目的地である洞窟の最深部。
ヴォイス国の現党首であるメロディの居る部屋へと歩を進めていく。
そして――
「メロディ、お客様よ。きっと貴女の役に立ってくれるし、話を聞いてもらえないかしら?」
目的地である部屋に着くなり、ノックして部屋の扉越しに話し掛ける。
さすがにまだ建国が成立していないとはいえ、このまま事が進めば、ヴォイス国は大国と呼ばれる国になるだろう。
同格の党首として、テレレは扱おうとする。
「て、テレレ様! ちょ、ちょっとお待ちを! すぐにでも準備するので!」
だが、部屋の中に居るメロディとしては、どうしても気後れするものがあるらしい。
バタバタと部屋の中で、支度の音がする。
(この辺りも、建国までに準備しないと駄目ね……)
客が居ると伝えたのに、国の代表ともあろう者が、この態度は頂けない。
確かに国とは名ばかりの転移陣の設置もされてなければ、世界地図にも載ってないような国の党首だった者が、世界有数の国の党首を相手にすれば仕方ないのかもしれないが――
それでもテレレは、甘く見る気はなかった。
(ダーリンに恥を掻かせる訳には、いかないもの……)
この建国計画の最初の立案者は、研一だとテレレはメロディ達から聞いている。
それならば絶対に成功させないといけないという使命感があった。
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