第332話 大国の予感
「反響の山に連れて来られた時は、口封じに鳥の餌にされるのかと思いましたが……」
「エコーバード達の鳴き声はするっすけど、襲ってこないっすね……」
エラー達は怯えた様子で、案内されるままにミュジカ達の後に続いてた。
無理もないだろう。
空の覇者と呼ばれたエコーバードは好戦的な上に人を喰らう事で知られており、その住処である反響の山に近付く事は、自殺と変わらないと言われている。
――それでも反響の山に近付く人間は、魔武具や薬に使われるエコーバードの素材を手に入れたい、一攫千金狙いの命知らずだけだと言われている。
「ポッヨポッヨ」
そんな場所に連れて来られた上に、凄まじい力を持つ魔獣であるポヨポヨビーストが、周囲に四体。
生きた心地がしないのも当然だろう。
(今なら逃げられるのでは?)
だが、街で取り囲まれた時に比べれば、まだ隙があるように見える。
このまま山の奥地に連れ込まれてどうしようもなくなる前に、一か八か逃げ出した方がいいのではと目論むエラーであったが――
「逃げたいならお好きに。ただ、私達が居るから鳥は来ないだけよ」
「そうそう。俺達から離れたらお前等なんて、すぐ食われるぞ」
脱走を考えた瞬間に掛けられたテレレからの言葉に、逃走なんて無駄だと悟る。
エコーバードが人間を見掛けても襲ってこない時点で異常事態であり、二人の言葉を疑う気なんてない。
(心を読まれた? やはり本物のドリュアス国の党首という事でしょうか? それに新しい国とは一体……)
もはや逃げ道なんてないと悟ったエラーの頭は、少しでも生存確率を上げようと状況分析に動いていこうとするが――
落ち着いて考える時間は、ないらしい。
「ただ私としては、貴方には自主的に協力してほしいと思ってる」
「それはどういう意味で――」
テレレが急に話し掛けてきたかと思うと、山に登ろうともせず、麓にあった植物の生い茂った坂の前で立ち止まったかと思うと――
「開け」
短い言葉と共に魔法を発動させる。
その途端、生い茂っていた植物達が動き出し、隠されていた洞窟が姿を現した。
「ひっ!?」
だが、エラー達はその仕掛けに感心している暇もなかった。
洞窟の入り口を守るように、十体以上ものポヨポヨビースト達が、今すぐにでも戦えると言わんばかりのキリっとした表情で控えていたからだ。
「ポヨッヨーポヨポヨ?」
「ダーリン、いえ、研一の未来の妻よ。後ろの人達は、協力者候補。警備お疲れ様」
そこでポヨポヨビーストに声を掛けられたテレレが臆面もなく、そんな言葉を口にしたかと思うとポヨポヨビースト達の身体を撫でていく。
「ポヨ~」
撫でられて嬉しいのか。
先程までのキリっとした表情はどこへやら。
ポヨポヨビースト達は嬉しそうに表情を崩した。
「毎回毎回、合言葉で確認する必要って本当にあるのか? コイツ等だって、もう俺達の音くらい覚えてるだろ?」
「こういうのは知り合いだろうと、キッチリしておくものなの。貴女は、あまりに適当過ぎる」
今のテレレとミュジカのやり取りから解かるように、先程のポヨポヨビーストの変わった鳴き声は、関係者ならば合言葉を言えという意味であり――
自分は研一の何なのか、と答える事で関係者と見なされる。
街でエラー達が取り囲まれた理由は、合言葉を言えというポヨポヨビーストの問いを、エラーが無視して逃げようとしたからだ。
(これ程の魔獣を、何十体も完璧に従えているというのですか?)
そして、一連のやり取りを見て、エラーは半信半疑だった事実を認めざるを得なかった。
魔獣を家畜として飼っている国自体は、別に珍しくはない。
だが、小型のドラゴンに匹敵する程の魔力を持つ魔獣をこれ程の数、従えている国なんて、もはや神話の時代に滅びた、御伽噺の国の話だ。
(そんな国が私如きに何を協力しろと……)
話から察するに、まだ建国自体は出来ていないようだが、相当な大国になる事は想像に難くない。
単純な軍事力だけなら、人類最強と言われた雷の国さえ超えてもおかしくない。
そんな国相手に、自分の店を構える事も出来ず、フラフラと旅をする事しか出来ない商人未満の自分の力なんて必要ないだろう。
なんてエラーが自嘲した瞬間だった。
「ポヨポヨ」
「ひっ!」
入り口を守っていたポヨポヨビーストが、大きな身体を縮めて、近寄ってきた。
魔力差から考えれば、口を開けたドラゴンが口を開けて襲ってきたに等しい状態であり、エラーは思わず短く悲鳴を上げるが――
「ポヨ……」
エラーの怯えた態度に、ポヨポヨビーストは悪い事をしてしまったとばかりに、しょんぼりした声を出したかと思うと。
何もせず、すごすごと離れていった。
「あー! 何コイツ等虐めてんだ! ぶん殴るぞ!」
「虐めてって……。むしろ急に向こうが襲い掛かってきて――」
「警備を頑張っているご褒美に、貴方に頭を撫でてほしかっただけよ。怖がるなって方が無理だと思うから、気にしないで」
「は、はあ……」
(さっきから何が何やら……)
一体、自分は何に巻き込まれてしまったのか。
魔獣の群れに襲われた街の再興が出来ればと思って、資材を持ってきただけなのに、なんてエラーは途方に暮れるのであった。
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