第331話 消えたソヌスの国
「ポヨ?」
かつては家だった残骸の下から、どこか間の抜けた声と共に丸っこい魔獣が現れる。
ポヨポヨビーストだ。
身体を平べったくして倒壊した建物の下で何か作業をしていたようだが、エラーの声を聞いて表に出てきたらしい。
(まさか、これが街を壊滅させた魔獣というのですか?)
いきなり現れたポヨポヨビーストに、エラーは戸惑いを隠せなかった。
潰れた家の下から出てきたとは思えない大きさではあり、そこにも驚いたが、それ以上に何というか、凶悪な魔獣特有の威圧感がない。
「ポヨッヨーポヨポヨ?」
おまけに襲い掛かってくる雰囲気もなく、まるで何かを尋ねるように鳴いている姿には、むしろ愛嬌さえ感じられる程たが――
上っ面だけで油断して警戒を解く程、エラーも間抜けではなかった。
「ポヨッヨーポヨポヨ?」
(変わった鳴き声ですが、ここは刺激しないように慎重に距離を取って……)
状況的に考えれば、十中八九、この目の前の丸っこい物体こそが、街の壊滅の原因だとエラーは判断した。
それならば今、大人しそうなのは単に機嫌がいいだけ。
怒れば街を破壊する程の力と共謀性を発揮するだろうと推測し、ゆっくりと逃げようとする。
しかし、そこでエラーが全く予想していない事態が起きた。
「ポヨーー!!」
(な、何です!? この膨大な魔力は!?)
先程までの無害そうな雰囲気は、どこへ行ったのやら。
急に怒ったように叫び声を上げたかと、小型のドラゴンに匹敵する程の魔力を全身から放ち始めたのだ。
「ぼ、ボス……」
「こりゃあマズイぜ……」
そこで後を追うように、街に入っていた部下達から怯えた声が響く。
これ以上、何かあるのかと振り返ったエラーは、現れた光景に死を覚悟するしかなかった。
「ポヨ!」
「ポヨポヨ!」
いつの間にか十体以上のポヨポヨビースト達に、取り囲まれていた。
しかも、全員が丸っこい姿に似合わないキリリとした表情をして、全身から魔力を迸らせており、今すぐにでも襲ってきそうな雰囲気である。
「魔獣の皆さん、私と取引をしませんか!」
マトモに戦えば勝ち目はなく、逃げられるような隙も無い。
そこでエラーは、自らが持つ商売魔法を発動させる。
「外に置いてある食糧や荷物を全て差し上げます。街の復興の為に用意していた物ですので、相当な量があります。これ等と引き換えに、私達を見逃して頂けませんか?」
それは言語等の壁を無視して、取引を持ち掛ける事が出来るという、商売魔法で一番最初に覚える基本魔法でありながら、同時に最も重要とされる魔法。
飢えていている獣にすら効果があり、食糧を求めているだけの相手ならば、かなり高い確率で切り抜ける事が出来る。
だが――
「ポヨ?」
(失敗、ですか……)
あくまで取引を持ち掛ける事で出来るだけであり、相手が応じてくれるかは別問題。
取引が成立した時には、使用者には成功の手応えが返ってくるのだが、何の反応もない事にエラーは絶望する。
「ボス。俺達が突撃して退路を開くっす」
「せめてボスだけでも、生き延びてくだせえ……」
長年の付き合いと雰囲気からエラーの魔法が失敗してしまった事に、気付いたのだろう。
覚悟を決めたように部下が構えるが、色々な国を渡り、何度も死地から逃げてきた彼等には解っていた。
あまりにも力の差があり過ぎる。
ポヨポヨビースト一体で、自分達の戦力を大きく凌駕している上に、取り囲まれていては、どうしようもない。
命懸けで活路を切り開こうとしたところで、無駄死にして終わりだろう。
それでも何もしなければ本当に蹂躙されるだけだと、部下達が突撃しようとした瞬間だった。
「悪党共! 例え世界が見逃しても、俺がお前等を懲らしめてやるぞ!」
「ポヨ! ポヨ!」
どこからともなく、芝居掛かった少女の声が響いてきたかと思うと。
まるでその台詞に反応するかのように、待っていましたとばかりに周囲に居るポヨポヨビースト達が、合いの手でも入れるように声を上げる。
そして――
「とうっ!」
短い掛け声と共に、ポヨポヨビースト達の後方から何者かが飛び上がったかと思うと、くるくると回転しながらエラー達の前に降ってきた。
そして、華麗に着地する。
(え? 何です? 何が起きてるんです!?)
あまりの急展開に、理解が追い付いていないのだろう。
どう反応すればいいか解からないエラーの反応なんて気にも留めず、突如として現れた少女が声高らかに自らの正体を告げる。
「ヴォイス国、初代党首にして、永久名誉党首! ミュジカ・ヴォイス、見参!」
歌と音楽の国、ソヌス改め。
声とポヨポヨの国、ヴォイス国の先代党首にして。
今まで失われていた古代魔法、声魔法『ヴォイス』の名を冠する唯一人の声魔法の使い手であり――
「建国準備の為に整地中の街を荒らす盗掘者共め! 俺のスーパーミュジカソニックパンチをお見舞いしてやるぞ!」
建国が成立するまでは、内密に事を進めよういう方針を全く守れない上に、机の前に五分と座ってられないという、あまりにも書類仕事に向いてない気性から。
たった一日という異例の速さでメロディと党首交代になり、今では警備隊長を努めている少女だ。
そして――
「……そんなだから、すぐに党首交代させられるのよ」
今まさに機密事項を垂れ流しまくったミュジカに、呆れたような声が届く。
周囲を取り囲んでいたポヨポヨビースト達から、道を譲られるようにして悠然と歩いてきたのは――
小柄ではあるものの、それを感じさせない、どこか神秘的な雰囲気を持った女性であった。
「適材適所ってヤツだ! テレレ!」
「はあ……。これはメロディも苦労する」
新しく現れた女性の名は、テレレ・ドリュアス。
乾いた土地を蘇らせる為に研一に頼まれ、『秘密裏』に援助に来た筈なのに、即行で名前をバラされてしまった、薬で有名な国の党首様だ。
「建国? それにドリュアス国の党首? 一体何がどうなって……」
「それより俺達、助かるんっすか?」
あまりにも突然の事態の連続に。
エラー達が戸惑いの声を上げるが、既に運命は決まっていた。
「……秘密を知られたからには、協力してもらう。拒否権は、ない」
逆らえばどうなるか、解ってるよね。
なんて言わんばかりの態度で微笑むテレレに、エラー達が出来る事なんて、何もないのだから。
面白かった、続きが見たい。
書籍化して絵が付いているところが見たい。
何かしら感じてくれた方は、是非とも高評価してくれると嬉しいです。
また気楽にリアクションなどして頂ければ嬉しいです。




