第328話 一つの死体と共に戦いは終わった
「クケー!!」
だが、長く空の覇者として君臨してきたエコーバードは気付いていた。
体力を削り合っていくジリ貧の展開になれば、そんな微弱な強化の違いが、次第に大きな差を生んでいく事に。
時間を掛ければ負けるだけなら、もうここで決着を付けるしかない。
横薙ぎに攻撃を続けていては、いつまで経ってもポヨポヨビースト達に致命傷を与えられないのなら、横ではなく縦。
空から地面に向けた攻撃で致命傷を穿つべく、空高くへと舞い上がる。
もはや視認する事すら叶わぬ高度。
音速を超える速さを持ってしても必中は難しく、外せば地面に嘴が突き刺さり、大きな隙を生んでしまうだろう。
それでも、最大火力で短期決戦に出る以外に、勝機はないとばかりにエコーバードは覚悟を決める。
「ポヨ!」
空気の変化にポヨポヨビースト達も捨て身の攻撃が来る事を確信して、身構えた。
いくら痛みが薄れてきているとはいえ、体力も魔力も十分じゃない。
エコーバードの決死の攻撃が直撃すれば耐えられないだろうし、今の状態では避ける事も難しい。
このまま特攻が始まれば、数に勝るエコーバードに軍配が上がる。
エコーバードが三十体死ぬ代わりに、ポヨポヨビーストも三十体倒され、二十体のエコーバードが残る単純な引き算になってしまう。
ただし、このまま行けば、の話だ。
「ウチの国で、随分と好き勝手やってくれたみたいじゃん……」
エコーバードは知らなかった。
ポヨポヨビーストが研一に殴り飛ばされて飛び始めた時よりも僅かに早く、全力疾走でメロディが街に向かっていた事を。
とはいえ、気付いたところで気にも留めなかっただろう。
メロディの力はエコーバードの群れからすれば些細という程に微力だったし。
いくらメロディの足が魔力で強化され相当に早い方だとはいえ、それでも研一に殴り飛ばされて数分で移動する事に比べれば、あまりに遅過ぎた。
まだ街に着くには、一時間以上掛かってしまう。
それだけの時間があれば、ポヨポヨビーストとエコーバードの戦いは終わってしまう。
「ここまで時間稼ぎしてくれたら、十分じゃん」
だが、そもそもそんな戦い。
最初からなかったのかもしれない。
この戦はソヌスの街を守れれば勝利であり、どちらが現状では強いかかなんて、誰も競ってなんていなかったのだから。
「これで狙えるよね、やみのん、ミュジカ」
この距離まで近付けば、ミュジカには劣っているメロディの力でも、レーダーの役割をする事くらい出来る。
そして、位置が正確に解かり、空高く飛び上がって街に被害が出ない、遠距離から全力で狙い撃ってもいい状況。
この千載一遇の好機を作る為に、ポヨポヨビースト達は追い詰められるまでは相打ちを狙おうとせず、ただ必死で耐え続けていたのだ。
そして――
『おう。バッチリだぜ、メロディ』
ポヨポヨビースト達を街に飛ばし終え、メロディに遅れる形で研一と共に街に向かっていたミュジカが、音魔法で声を伝える。
メロディよりは街より遠い場所だが、それでも山の頂上よりは遥かに街に近い位置。
この距離にメロディから照準の指示にセンの補助もあれば、研一やミュジカからすれば十分に有効射程。
当てるどころか、一網打尽にする事さえ不可能じゃない。
「いくぜ、相棒!」
「ああ、解ってるよな?」
「勿論!」
二人の全力の攻撃がソヌスの空に放たれる。
音の衝撃波が触れる物全てを砕き、大気すら捻じ曲げて空を駆け――
触れるだけで全てを消滅させると思える程の莫大な魔力の奔流が、雲さえ吹き飛ばしていく。
そして――
「クケ……」
何体かのエコーバードが音の渦に巻き込まれて全身を砕かれて墜落し、やはり何体かのエコーバードが魔力の波に呑み込まれて姿を消した。
あまりにも突然の出来事に、エコーバード達は空に浮かんだまま動けなかった。
自分達は今から、あの丸っこい奴等に決死の攻撃を仕掛ける筈だったのに、何が起きたのか解からなくて。
だが、倒されたのは十体程度。
しかもあまりに突然過ぎて何が起きたか解かっておらず、竜巻か何かのような自然災害でも巻き込まれたのだろう、と考えたエコーバードは――
まだポヨポヨビースト達よりも数は上だし、気を取り直して突撃しようとする。
その瞬間だった。
『余計な事すんじゃねえよ。次は全滅させるぞ』
エコーバードの全身に、死を確信させる音が響いた。
それは幻聴でなく確かにエコーバード全員の心臓を一瞬だけ締め上げ、慌ててエコーバードはソヌスの街から離れていく。
それが最後の警告であり、これ以上ソヌスの街に何かをするなら、容赦はしないという警告だと正しく受け取り。
そして――
「ポヨヨ!」
「ポッヨッヨー!」
脅威が去っていく事を感じたポヨポヨビースト達が、嬉しそうに飛び跳ねて弾むような声を上げる。
もう大丈夫だよ、安心して。
まるで戦いを応援していた人間達に、そんな言葉を伝えるように。
「逃げた、のか?」
「アイツ等も喜んでるみたいだし、そうなんじゃないか?」
空高く飛び上がったまま、いつまでも戻ってこないエコーバード。
何よりも戦っていた時と違い、無邪気に跳ね回るポヨポヨビースト達の姿に勝利を確信して。
「やったぞー!」
「俺達は救われたんだー!!」
隠れていた建物の影から飛び出し、喜びを分かち合う。
ある者は歌い、ある者は叫び。
「お前等のお陰だ!」
「ありがとう! ありがとう!」
ある者は熱情に身を任せるように、ポヨポヨビーストに抱き着いた。
それは乱暴で無遠慮で、かつてポヨポヨビースト達が夢見ていたような優しさに溢れた抱擁とは程遠い、勢い任せのモノであったのだが――
「ポヨ! ポヨ!」
誰も自分達を恐れていない。
仲間だと認めてくれたような扱いは、望んでいた光景よりも遥かに幸せに溢れていて。
「ポヨー!!」
喜びのあまり。
この人達に食べてもらいたいという想いが爆発して、一体のポヨポヨビーストが突然叫んだかと思うと、満面の笑顔を浮かべて死んでいった。
「きゃああ! 急に死んだわよ!」
「きっと鳥達の戦いで限界だったんだ!」
「癒しの歌だ! 残っている体力と魔力、全部を急いでコイツ等に注げ!」
まさか自死したなんて想像出来る訳もなく、慌てて街の人間達が治癒効果のある歌を歌い始める。
見当外れに放たれる治癒の歌声。
「ポッヨポッヨ!」
そして、そんな街の人達に自分達は大丈夫だから心配しないで。
なんて必死で伝えようとしながら、それでもどこか嬉しそうに響くポヨポヨビーストの声に包まれながら。
戦いは終わりを迎えたのであった。
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