第318話 研一VSメロディ
「解ってるの、やみのん! このままじゃ魔獣の寄り付かなくなったこの土地は、渇いて朽ち果てて滅びていくだけなんだよ!」
勢いよく殴り掛かってきた研一を上手く交わしながら、メロディが叫ぶ。
身体能力に任せて直線的に突っ込むだけの研一では、どうしてもメロディに攻撃を当てる事が出来ずに居た。
(くそ! 思ってる以上に力が出ない!)
それでも普段の研一ならば、何とか出来ただろう。
だが、百人くらいしか住人が居ないソヌス国という場所。
それに加えて、今の研一は街を襲ってきたポヨポヨビースト達を退治しようとしている立場であり、恨まれるような状態でもない。
自ら狩りに出向いて、国を守り続けてきた百戦錬磨のメロディを圧倒するような身体能力なんて発揮出来る訳がなかった。
(魔力さえ使えれば、一撃なのに!)
それでも今まで多くの国を回り、悪党ぶってきた甲斐もあって、本気で魔力を放てばメロディを気絶させる事くらい簡単なのだろうが――
魔力無効化を使っている範囲内では、研一の魔力だって掻き消される。
かと言って無効化を解けば、そこでポヨポヨビースト達は自殺していくだろうし。
仮にポヨポヨビースト達が自殺しなかったとしても、メロディが避ける隙間もないくらいの魔力なんて放てば、ポヨポヨビースト達だって纏めて吹き飛んでしまう。
結局、決め手に欠ける素手で戦うしかないのだ。
「そりゃあ、やみのんはコイツ等を救えれば、それで満足かもしれない。コイツ等救うだけ救って、それで終わりって別の国に行くだけでいいもんね」
攻めあぐねる研一に、メロディが語り掛けてくる。
確かに体術や戦闘経験ではメロディが圧倒しているが、それでもスキルの力で強化されている研一の身体能力は脅威的であった。
回避に専念しなければ倒される可能性は十分あり、このままでは目的を果たせない。
「けどさ。ウチ等は、そうじゃないの。やみのんが別の国に行った後も、この土地で生きていく。アンタの自己満足でソヌス国の連中、全員殺す気? ウチには国の党首として、国民を守る責任があるの」
それならば研一の心を圧し折る。
まだ少しの付き合いしかないけれど、それでもメロディは研一が誠実で優しい人間なのだと確信していた。
責任を感じさせ、民衆の安全を盾にすれば、諦めてくれる筈だと、静かに語り掛けるようにして言葉をぶつけていく。
けれど――
「この土地じゃあ生きていけないって言うんなら、俺が悪党らしく無理言ってでも、他の国で生きられるようにしてやる。どうしてもこの土地じゃなきゃ駄目だってんなら、枯れた乾いた土地だって豊かにしてやるし、魔獣だって引っ張ってきてやるさ」
そのくらいの事で研一の心は、絶対に折れない。
自分が死ぬ事で全てを終わらせようとしている者を見過ごすなんて、研一には出来ないのだから。
「生きてたら、何とかなる道が見付かるかもしれないだろ! それなのに、何でそんな短絡的な方法を取るんだよ!」
研一の恋人だった女性は、かつて事件に巻き込まれた事が原因で命を絶っている。
かつて大事だった人を救えなった後悔が、メロディの言葉を跳ね除け、研一を奮い立たせていた。
「そりゃあウチだって出来れば、この子達を助けたい! 一緒に生きていけたら、それが一番いいと思うし!」
「なら――」
「けど、この子達は強過ぎるの! もし気が変わって、殺されるくらいなら人間達を滅ぼそうってなったら、ウチじゃどうしようもない! 大人しく言う事を聞いてくれている今くらいしか、ウチには止める手段がないの!」
「そんな来るかどうかも解からない悪い想像に怯えて、コイツ等を殺すってのか!」
到底、研一には納得出来ない。
そんなのは事故に巻き込まれるのが嫌だから、外に出ないと言い出す事と変わらない暴論にしか思えないが――
「やみのんは異世界の人だから知らないよね。遥か昔、ドラゴンの子どもを育てていた国があったらしいの。けどね、子どもの頃は大人しく従順だったけど、大人になって暫くした頃、何かの拍子に癇癪を起こして国を滅ぼしてしまったという話があるわ」
この世界では、むしろメロディの言葉の方が一般的な考えだ。
強過ぎる魔獣に迂闊に心を許したり、その強過ぎる力を利用しようとした結果、痛い目を見た国なんて、いくらでもあるのだから。
「他にも大量の機械兵を携えて栄えた国があった。けど、何の前触れもなく機械が命令を聞かなくなって、滅びかけたなんて話もある。この子は、私達と生きるには、あまりにも強く賢過ぎるわ」
「けど、協力して生きていければ、それが一番だって思ってるんだろ!」
安全策を取るのなら、言う事を聞いてくれる物分かりの良い子しか居ない内に、始末するしかないのは確かかもしれない。
だが、これからもずっとポヨポヨビースト達が人懐っこくて優しい存在である事に賭け、共に歩む道を模索していく事だって、決して間違いではない筈だ。
「ウチだって魔獣を追い出した件さえなければ、そうしたかった! けど、もう一緒に生きていく方に賭けるには、リスクの方が大き過ぎるの!」
そんな事はメロディだって解っている。
それでも天秤に掛けた結果、どうしても党首としてのメロディには、ポヨポヨビースト達との共存する道を選べなかったのだ。
「やみんのが枯れた土地を豊かにしてくれたとするじゃん。そうなったら、もうソヌス国は魅力のない痩せた国じゃない。すぐに他の国に乗っ取られるだけ……」
生きていく程度の国力しかなかったからこそ、ソヌス国は放置されていたのだ。
もし土地に旨みが出てきたのなら、大した兵もなければ他の国の後ろ盾もないソヌス国なんて、あっという間に侵略されて終わり。
「この子達の魔力に怯えないような強い魔獣なんて引っ張って来られたって、うち等じゃ倒せない。その魔獣達が街を襲ってきた時点で崩壊……」
ポヨポヨビースト達の魔力がある限り、引っ張ってきたところで居着く魔獣は強い者に限られてしまうだろう。
そうじゃなければ、今でも他の魔獣達が居てくれた筈。
そして、そんな強い魔獣達と戦えるような力は、ソヌス国にはない。
「綺麗事じゃなくて、ウチが納得出来る具体的な方法を言って納得させてよ!」
本当はメロディだって、ポヨポヨビースト達を殺したくなんてないのだ。
それでも国を背負う者として。
国民の安全を守る為に苦渋の道を選んだだけであり、解決策を示してくれるなら、それこそ喜んで倒されてくれるだろう。
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