第316話 歪んだ生態系
「説明してもらえますか、メロディさん?」
受け止めた剣を握り締めながら、研一がメロディを睨む。
そこには不意打ちでポヨポヨビーストを殺そうとしたメロディへの、明確な嫌悪と敵意が滲み出ていた。
「……そうね。どうせ邪魔されるだろうから、せめて一体だけでも先に倒そうなんて考えが甘かったわ」
そして、怒りを覚えているのは研一だけではない。
センもミュジカも突然の凶行に怒りを隠せない様子でメロディを睨んでおり、メロディは観念したように武器を下ろして、説明を始める。
「ここ最近、ソヌス国がビックリするほど不作続きだって事は覚えてる? 外から来たやみのん達には、大した事じゃないかもしれないけどさ」
「覚えてる」
人間が飢え死にするなんて、教科書や物語の中でしか研一は知らない。
それ程までに裕福な時代の日本に生まれたから、明日の食事にさえ困るような状況と言われてもピンとは来ていないだろう。
だからって忘れてしまう事なんて出来ない。
飢饉が何万人どころではない死者を作り出してしまう、危険な状態である事くらいは知識としてでも知っているのだから。
「だからポヨポヨビースト達を倒して食糧不足を解決した代わりに、ミュジカを連れて行くって話だったけど、それに関しては、ここで正式に断らせてもらうよ。俺には、コイツ等を食糧にする為だけに倒すなんて出来ない」
「それじゃあ何? ミュジカは仲間にしないって事?」
「代わりに救世主として他の国の党首と交渉して、ソヌス国へ食糧支援してくれるように頼むよ。これでも結構他の党首にはスキルの事とかバレてて、話聞いてくれるところもあるから、何となると思う」
ポヨポヨビースト達は殺せないが、それはそれとしてソヌス国の状態は放っておけない。
いくつか食糧の支援が出来そうな国には心当たりがあるし、代わりに何か頼みでも聞けば、そこまで難しい話ではない筈。
「食糧問題は、これで解決。そりゃあこれだと食糧と引き換えにミュジカを俺に売り払ったみたいで聞こえは悪いかもしれないが、それでも俺にはコイツ等を殺してまで、守らなきゃならない外聞には思えない。これで納得してくれないか?」
街の者達を飢えの心配から解放したいだけなら。
どうかこの提案で引いてほしいという想いで、祈るように研一はメロディに語り掛けていく。
だが――
「不作の原因が、コイツ等ポヨポヨビーストだって言ったら、私がやろうとした事も理解してくれる?」
「なんだって?」
次に告げられたメロディの言葉には、動揺を隠せない。
思わず周囲を見渡してポヨポヨビースト達の姿を確認してしまうが――
「ポヨ! ポヨ!」
自分達は、そんな事はしていないとばかりに、首でも振るように必死で身体を揺らしている。
そんな大量虐殺に繋がるような事を企んでいたなら白を切ってもおかしくないが、どうにも嘘を吐いているようには見えない。
「そいつ等に聞いても無駄だって。自覚なんて全くないんだからさ」
「どういう事だって――」
狙ってもないのに偶然だけで、そんな事態を引き起こせるのかと思った研一の頭の中に、ソヌス国に来てからの記憶が走馬灯のように駆け抜けていく。
ここ近年で見掛けるようになった新種の魔獣である、ポヨポヨビースト。
可愛らしい見た目に反して、生態系の頂点に君臨する強さ。
そして、ケンスのような犠牲者を産まない為、周辺の警備に力を入れ始めた事。
「気付いたみたいじゃん。そうだよ。コイツ等が熱心に魔獣を追い払い続けたから、ソヌス国の大地は枯れていってるの!」
メロディ自身、違和感はあったのだ。
悪天候に襲われたり、害虫が大量に発生したり、獲物や農作物の間に病気でも流行ったのなら飢饉に陥る事だって理解出来る。
だが、そんな話題を一回も出していない事から解かるように、何の前触れもなく急に収穫が落ち始めたのだ。
「解かる、やみのん? うち等が狩る筈だった獲物が居なくなっただけの話じゃないの。ポヨポヨビースト達が魔獣を追い払い続けたせいで、外の植物達にも影響を与えているの」
その元凶こそがポヨポヨビースト。
本来ならソヌス国の周囲を行き来する魔獣達に種や花粉等が付いて回ったり、歩き回って地面に刺激などを与える事で少なからず土壌に良い影響を与えていた部分があったのだろう。
だが、ポヨポヨビーストはその全ての魔獣を追い払ってしまった。
「確かにさ、うち等の土地は痩せてたよ。他の国も欲しがらないくらいにさ。でもね、ここまで酷くはなかった……」
その結果、自然の循環が狂ってしまった。
ただでさえ荒れていた土はひび割れ乾いて、もはや街の外は草すら生えない不毛の大地に成り下がってしまったのである。
「畑から獲れる物だけで生活していける訳じゃない。このままじゃ近い内に、ウチ等は干上がって全滅だよ……」
「だったら、コイツ等にもう見回りなんてしなくていいって伝えれば……」
反論しようとする研一であるが、そんな単純な話でない事くらい解かっており、言葉尻がドンドン萎んでいく。
今からポヨポヨビースト達が見回りを止めたからと言って、乾いた大地が潤いを取り戻してくれる訳でもないし――
「それで解決するなら、ウチだってこんな事したくない! けど、コイツ等は強過ぎるの。コイツ等の魔力が少しでも残っている限り、普通の魔獣は恐れて戻ってこれないの……」
ポヨポヨビースト達は、頑張り過ぎてしまった。
ソヌス国周辺が全てポヨポヨビースト達の縄張りだと思われてしまう程に。
(米蔵の猫とネズミみたいなもんか……)
地球にある農家が、猫を飼う事が多いという話を知っているだろうか。
これは米蔵を荒らすネズミを猫が追い払ってくれるからなのだが、そこで面白い話がある。
あまりにも酷いネズミ被害に悩まされていた農家が、街にいた野良猫を引き取り、米蔵で飼う事にしたのだが――
最初こそ大量に居たネズミが、ある日を境に全く出現しなくなったのだ。
(別に猫に全部食われたとか退治されたって話じゃない。猫が自分達の天敵だと思い知らされ、猫の臭いが染み付いた米蔵に近寄らなくなったんだ……)
これと全く同じ現象が、ソヌス国周辺に起きてしまっている。
もはや魔獣達は、ポヨポヨビースト達を圧倒的な強者だと覚えてしまった。
絶対に自分達が叶わない相手であり、見掛けたら襲ってくると認識した以上、少しでもポヨポヨビースト達の気配を感じれば、近寄ってなど来ないだろう。
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書籍化して絵が付いているところが見たい。
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