第281話 描かれなかった戦い
「ここは……」
気絶していたセレスが目を覚ます。
見慣れた光景に自分の部屋である事に気付き、意識を失う前に何をしていたか思い出そうとするが――
魔族との戦いの最中だった事を思い出すと同時に、身体を起こして状況を確認しようする。
「そうです! 魔族との戦いは、一体どうなって――」
「無理しないで下さい! 三日も寝てたんです。どうか、気を落ち着けて……」
その瞬間、傍で控えていたエルがセレスの身体を支えた。
そして、なだめるように背中を擦りながら、静かな声で語り始めていく。
「戦いは終わりました。魔族軍は全員、倒されるか撤退して、国には残っていません。街への被害も避難が済んでいた一角で戦いがあっただけです」
「そんな奇跡みたいな事、ある訳が……」
だが、エルの報告を聞いても、セレスはすぐには受け入れられなかった。
だって戦力差から考えても、街がほとんど無傷で終わりなんて事は有り得ない。
壊滅した果てに運よく見逃された者だけが、かろうじて生き残れる程度の結果でさえ、希望的観測と言える状況だったのだから。
「全て救世主様達の、お陰です。あの方々が居なければ、私も貴女も、こうして生き残る事さえ出来なかったでしょう」
「救世主、様?」
そこでセレスは、無意識に記憶から省いてしまっていた人の事を思い出す。
闇野研一。
世界全てを恨んでもおかしくない孤独な加護を持ちながら、それでも誰かに手を差し伸べる事を諦めなかった、セレスが初めて心から惹かれた異性であり。
(私の一番大事な人を、殺したと言った人……)
そこでセレスは気付いてしまった。
いくら緊急事態とはいえ、党首である自分の看護をエルがしている訳がない。
先代の党首であり唯一の身内と言っていい神官長か、それ以外に傍に居る可能性があるなら、高位の回復魔法の使い手くらいの筈。
「……神官長は、どこです?」
もはや、答えなんて解かり切っていた。
それでも訊ねずには居られなくて、叫びだしてしまわないように、必死で声を押し殺しながら言葉を絞り出す。
「……亡くなりました。立派な最期だったと伝え聞いております」
「そう、なんでしょうね……」
告げられたエルの言葉に、セレスは驚かなかった。
研一に殺したと聞かされた時は戦いの疲れと最もらしい説明に納得しそうになっていたが、落ち着いている今ならば解かる。
そして――
(先生はそこまで愚かじゃないし、あの人だってそうです。あの状況からでも、先生を殺さず、最後までどうにかしようと足掻く。そうでもなければ、あんな加護を授かった時点で、開き直って悪人に堕ちているでしょう……)
セレスの推測通り、研一は神官長を殺していない。
そもそも神官長が研一を閉じ込める為に使った生命力で出来た結界なんて魔法が、存在していない出鱈目の術。
アレ自体がセレスなら研一を逃がす可能性があると予想していた神官長が仕組んだ芝居であり、セレスが部屋から居なくなった時点で、結界は解かれ、研一は自由に動ける状態になっていたのだ。
「詳細を、お願い出来ますか?」
だが、この事実を知っているのは研一と亡くなった神官長だけ。
何も知らないまま、それでも研一は神官長を殺していないという絶対の確信と共に、セレスはエルに続きを促していく。
「はい。伝え聞いた部分が多く、不足もあるでしょうが、ご勘弁を」
そこでエルの口から語られたのは、ある意味では想定通りの内容でしかなかった。
チャーシューメンの守る南地点が魔族軍の増援により、一気に崩れて退却を始めた。
そこを死守する為に後詰として控えていた研一が駆け付けるが、既にチャーシューメン三人衆の一角であるメン将軍は魔族に喰われてしまっていた上に――
残りの二人も、食べられてしまう直前であったらしい。
「動けない二人を庇いながらでは、さすがの救世主様も思ったように動けず、それでも何とか二人を守って魔族を退ける事には成功したそうです」
だが、研一が戦い続けていた間にも戦況は動いていた。
「不甲斐ない話ですが、次に崩れたのが私の任されていた西の防衛地点でした」
センとエルの幻覚攻撃に一度は、なす術もなく撤退する事になった魔族軍が対策を整え、増援を引き連れて西地点に押し寄せたのだ。
幻覚が通じない以上、センやエル達では魔族軍を押し留める事なんて出来る訳がない。
研一も南地点に掛かりきりになっているという、絶体絶命の状況。
「そこに駆け付けてくれたのが神官長だったのです」
その穴を埋めるべく動いたのが、セレスティアに残っていた最後の戦力。
先代の光の国の党首であり、老いた今ですらセレスの次に強いと噂される神官長であった。
「貴女にだからこそ、正直に言わせて頂きます。私は貴女よりも、あの方こそがセレスティア国において、最強の戦士なのではないかと思いました。それ程までに強く、何より恐ろしい戦いぶりでした……」
「でしょうね。勝負すれば私が勝つでしょうが、魔族を前にした先生は、きっと私よりも強いです」
単純な魔力量や魔法の技術ならば、セレスの方が上だろう。
だが、かつて魔族に愛する夫と子どもを奪われた神官長の憎悪は、その技術の差を覆しかねない程の妄執を帯びていた。
魔族を消滅させる為だけに生きる、狂戦士。
自らが傷付く事を厭わず、むしろ己の命と引き換えに戦いを求めるような戦闘ぶりは、助けにきてもらった筈のエルですら震える程であった。
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