第280話 呆気ない終わり
「どうしてれば、よかったんだろうな……」
ケーラー達を前にしているというのに、研一は戦闘態勢も取らず、ただ後悔の声を漏らす。
目の前に居るケーラー達を侮っている訳ではないが、それでも犠牲になった人達の事に比べれば――
もう追い詰めたケーラー達への興味なんて、あってないようなモノだった。
「俺が最初から戦っていればよかったか?」
ぼやく研一だが、それはあまり良い手だったとは言えないだろう。
四方向から同時に攻められたせいで、どこが最初に崩れるか予想が難しかった。
下手に研一をどこかに配置していれば、予想外の防衛地点を突破された際、街は滅茶苦茶になっていた可能性が高いし。
研一が最初から活躍し過ぎた場合、兵士達が研一を見直して、一気に弱体化していた恐れがあった。
崩れた地点の応援の為に研一が控えていたのは、無難な選択だったと言えるだろう。
――それくらいの事は研一だって解かっているのだ。
「……僭越ながら研一様。戦力差を考えれば、十分過ぎる結果かと」
悔む研一に傍に控えるプロディが、少しでも慰めになればと言葉を告げる。
それを気休めの言葉、と否定する事は難しいだろう。
実際、魔族に押され撤退を始めた地点を研一が即座にカバーに入り続けたからこそ、街は蹂躙されずに済んだし。
魔族軍も全軍撤退という道を選ばざるを得なかった。
本当ならばセレスだって奪い去り、鬱陶しい『結界発生装置』の破壊くらいは、したかった筈だ。
セレスティアと魔族軍の戦力差は、十倍には届いていた。
これを研一達の加入の結果、街を無傷で守り切って、最大目標であるセレスを奪われなかった時点で、本来なら満足するべきなのだ。
「ああ、解ってる。傲慢だってのはさ……」
けれど、どうしても考えてしまう。
もし前みたいに島を吹き飛ばす程の力があったなら?
一撃で東西南北の内、一方向の魔族軍を吹き飛ばせる程の力さえあったなら、全員を救えたのではないか。
そして――
(プロディさんの言葉に、心のどこかで納得してしまっている自分が一番気に入らない……)
前の死にたい程に自分の事を嫌っていた頃の研一なら、自分さえもっと上手くやっていればと心の底から自分を嫌悪し。
凄まじいまでの力を発揮出来ていただろう。
だが、今の研一には、自らを憎んで力が湧いてくる兆しが僅かにあるだけ。
心の底、深い部分では納得してしまっているのだ。
ここまで犠牲を抑えられたんだから、よく頑張ったじゃないか。
セレスだって守れたし、もう十分だろう、と。
「だから悪いな。これは敗者から勝者に向けての八つ当たりだと思ってくれ……」
そんな甘えた気持ちに苛立ちを覚え、僅かだが研一の力が増す。
そのまま怒りに身を任せるようにして、全身から魔力が噴き出しながら拳を握ると、俺一人で戦うから二人は下がっていろと言わんばかりの態度で、一歩前に出る。
「……」
心配そうに研一を見詰めているセンやプロディに、目を向ける事もせず。
「謝る事はないよ。最期に強者と戦って散るなら、これ以上の誉れなんて、僕等魔族にはないんだからさ!」
そんな研一の態度を戦闘開始の合図だと判断したケーラーは、もう待ちきれないといった様子で叫んだかと思うと――
地を蹴り、矢すら置き去りにする速度で研一に迫る。
「総大将! 一人だけで楽しもうなんてズルイですよ!」
そんなケーラーを追うように、部下達も一斉に動き始めていた。
全員が研一を狙うように動いており、センやプロディを無視するような陣形であったが、決して舐めている訳ではない。
(この魔力。下手に後ろの二人に注意を向けようものなら、何も出来ずに終わる!)
磨き抜かれた戦士の嗅覚が注げていた。
少しでも研一から目を離せば、それだけで何も出来ずに倒されてしまうだろう、と。
けれど――
その用心深さも、研一の強さの前には無意味だったのかもしれない。
「悪いね。今は温情とか掛けられる気分じゃないんだ! 全力でやらせてもらうぞ!」
「くっ!」
研一は突っ込んできたケーラーに、あっさりカウンター気味の拳を決めて吹き飛ばすと、即座に動き始める。
(今の一撃で塵にならないって事は、相当に強いんだな……)
部隊長級の魔族兵ですら消し飛ばす程の一撃を受けても、原型を留めているケーラーの強さに内心だけで驚きつつ。
ケーラーに続いて追撃しようとしていた魔族達に、間髪入れずに襲い掛かる。
「何だと!?」
研一の強さは理解しているつもりだった魔族も、これには驚きを隠せずには居られない。
総大将であるケーラーの力は、この精鋭だらけの魔族の中でも群を抜いており、いくら研一が強くても態勢を崩すくらいは出来ると思っていたのだ。
当然、自分達の追撃が決まる前提で動いており、研一の攻撃に対処出来る態勢ではない。
「もらった!」
追撃しようとしていた魔族数名が、研一の攻撃を受けて一撃で消滅する。
「迂闊に攻めるな!」
「隙を見て確実に削っていけ!」
その光景を見た魔族達が慌てて距離を取り、慎重に隙を伺おうとするものの、そのくらいで勝敗が覆る事はない。
あまりにも力の差が大き過ぎた。
「はは、なんだ。こんなにも差があったのか。参ったな……」
八十人は居たであろうケーラー部隊は、一時間も経たない内に全員研一に倒され、塵となって消え。
残っているのは、総大将であるケーラーだけであった。
――それでも一時間近く粘り続けたのは、さすがに精鋭ともいうべき実力者達であり、結界内に閉じ込めていなければ、本当にセレスを奪って逃げていく事さえ可能だっただろう。
「これじゃあ、もう戦えないや……」
だが、もはやケーラーに出来る事はない。
研一の攻撃を何度も受け止めた両手は砕けて消えており、全身にもヒビが入っていて、おそらく五分もしない内に死ぬだろう。
「何か言い残す事はあるか?」
「最後に、こんな強い相手と戦えて僕は満足だ。それくらいかな?」
せめてもの情けとばかりに問い掛けられた研一の言葉に、ケーラーが本当に満足そうに呟いて。
それがこの戦の終幕になった。
「そうか。じゃあな」
もはや放っておいても死ぬであろうケーラーに、研一は魔力を込めた拳を叩き付ける。
粉々にケーラーの身体は砕け散り、塵となって消えていく。
こうして、セレスティア国を守る研一の戦いは、終わりを迎えたのであった。
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