第24話 二日酔いの休日
第24話です。
しっかり二日酔いですね。
翌朝、昼前。
目を覚ますと、体が重い。
完全に二日酔いだ。
スマホを開くと既読はついているが返信はない…と思ったが、
そのうち一件、未読のマークが光っていた。
深夜三時の送信。
差出人は理人だった。
『楽しんでいただけてよかったです。』
『それと、手料理を褒められたのは初めてでした。また作ります。』
皮肉屋の彼が素直に手料理を褒められて喜んでいた。
カーテンの隙間から差す光に顔をしかめながら、返事を打つ。
『次回も楽しみにしています。』
休日の朝は、まだ始まったばかりだった。
直後、インターホンが鳴った。
宅配便かと思いモニターを見る。
そこに映っていたのは、コンビニの袋を両手にぶら下げた
夜霧だった。
彼はいつもの微笑みでカメラを見つめていた。
インターホン越しに話しかける。
「あれ…こんにちは、どうしたんですか?」
夜霧は画面越しに小さく手を振る。
「お見舞いです。二日酔いでしょう?」
バレていた。
あれだけ飲んでいたら、確かにそう思われるだろうが、
普通、二日酔いにお見舞いとかするだろうか。
しかし、好意を無碍にもできないので、家にあげることにした。
「あー、まあ…どうぞあがってください…」
ドアを開けると、夜霧が猫のようにするりと中に滑り込んだ。
部屋を見回す視線。観察していた。
恥ずかしいから、部屋の中をまじまじとみないでほしい。
袋からスポーツドリンクとゼリーとプリンと…おにぎりが3個だしながら、
「とりあえず適当に買ってきました。」
「…何がいいかわからなかったので。」
手慣れていた。
おそらく、相手の懐に入り込む手段として身につけたのだろう。
何も言えず出されたものを受け取ると、夜霧があたりを見渡す。
「台所、借りてもいいですか?おかゆでも作りましょうか。」
「夜霧くんもママになっちゃう…大丈夫ですよ」
目を細めてくすっと笑う。
「ママですか。ワタシが?」
しかし、彼の手はもう動いていた。
鍋に水を張りながら。
断られても勝手にやる気だったのだろう。
夜霧がこちらを横目に見ながら、米を研ぐ。
「理人だけに良いところを持っていかれるのは癪ですので。」
その一言に一瞬、瑞希の脳がフリーズした。
「えっ……」
声に出たのはそれだけだった。
……なるほど、どうしたものか。
これもまた、やはりそうゆうことだろう。
米を水に浸す夜霧の横顔は穏やかで、いつも通り完璧に整っている。
夜霧は、ちらっと振り返り、こちらに声をかけた。
「顔色悪いですよ、座っていたほうがいいです。」
私は言われるがままリビングのソファに座り、夜霧を眺めることしかできなかった。
コンロの火が弱火でことこと音を立てている。
夜霧の長い指が菜箸でゆっくり米をほぐす。
「…絵になりますね」
声に出ていた。
夜霧は手元見たまま返事をする。
「そうですか?ただのおかゆですけど。」
そっちじゃない。
自覚はあるでしょうに。
「料理してる、夜霧くんが。」
菜箸が止まる。
「……ワタシが?」
それから夜霧は小さく笑った。
いつもの計算された微笑みではなく、不意をつかれたように笑っていた。
「おかゆを作っているだけですよ、変なこと言いますね。」
夜霧は前髪を耳にかけ直しながら言った。
その横顔に朝日が差して、睫毛の影が頬に落ちている。
ただ、純粋に綺麗だった。
少し味見をすると、こちらの方に振り返る。
「少し薄いですかね、塩は…どこでしょうか?」
きょろきょろと調味料を探している。
棚の配置がわからず首をかしげる姿は、普段の余裕ある態度とのギャップがすごかった。
よろよろと台所へ向かい、「ここです。」と言って手を伸ばす。
その時、ふらりと視界が揺れ、バランスを崩した。
傾いた体を夜霧が咄嗟に受け止めた。
手は腰に回され、近いというよりも、ほぼ密着していた。
「…だから座っていてくださいと言ったのに。」
耳元で囁かれた。
その声に慌てる。
「ごめんなさい!!失礼しました!」
塩の小瓶は、ころころとフローリングを転がっていた。
「謝らなくていいですよ。でも、無理はしないで。」
強すぎず、でも確実に離す気がない絶妙な力だった。
さすが何人もの体を知り尽くした男だと感心している自分がいたが、
そんなこと考えている場合ではない。
至近距離で目が合う。
色素の薄い、琥珀色の瞳。
この目に何人が堕とされたんだろうか。
ふっと口角上げていつものように微笑む。
「顔、赤いですよ。お酒のせいですか?」
わかっているくせに聞く、そうゆうやつだった。
直後、手がぱっと離れた。
夜霧の手からするりと抜ける。
夜霧がこちらを見ながら、微笑みを崩さずに言った。
「…残念。」
何事もなかったように塩を拾い上げ、おかゆに塩を振りかけていた。
器によそい、スプーンを添えてリビングの方に持ってきた。
「できましたよ。」
目の前にことりと置かれる。
「……ありがとうございます。」
一口、口に運ぶ。
卵がゆの優しい味が胃に染みた。
夜霧は向かいに座り頬杖ついてこちらを見ていた。
「お味はいかがですか?」
「おいしい…です」
嬉しそうに目を細める。
「理人より?」
また、そんなことを……
「2人ともお料理が上手ですね」
「答えてくれないんですね。」
そう言いながら、ふっと笑った顔を見て、苦笑いをする。
はぐらかしが通用しない。
けれど夜霧はそれ以上追及せず、自分も買ってきたゼリーとおにぎりを開けて食べ始めた。
静かな休日の午後。
二人で並んで軽食をとっていた。
なんだか妙に生活感のある光景だったが、当の瑞希はそれどころではない。
さっきの腰の感触がまだ残っている。
もう顔が赤くなければ良いが…
おかゆを完食した。器を置いた頃、スマホが震えた。
理人からだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
友達の距離感とはなんだったんでしょうか。




