第16話 ライバル
第18話です。
四人は色んな意味でライバルですね。
廊下ですれ違った夜霧が、こちらを見て微笑み、足を止めた。
「あら。瑞希さん。奇遇ですね。」
「こんにちは」
「お昼ですか?よかったらご一緒しませんか。」
「いいですよ」
断る理由もなかったのでそう答えると、
夜霧は嬉しそうに目を細める。
「ありがとうございます。」
二人で学食へ向かった。
学食に到着すると夜霧がメニュー見ながら言う。
「瑞希さんは何を頼まれますか?」
「あれ、他のみんなはいないんですね。」
「……日替わりにしようかな。」
夜霧はトレーを持ちながら苦笑する。
「今日は一人です。……皆さんそれぞれ用事があるようですよ。」
珍しい。
あの四人がバラバラに行動していることなんてあるんだ。
二人とも日替わり定食を注文した。
「たまには静かに食事するのも良いものですよ。」
注文した定食を持って窓際の二人席に座った。
箸を割り、食事を始める。
「そういえば、見ましたか?ミスコンの告知。」
「今朝見ましたよ。」
「ワタシ、すでに推薦されていたみたいでして。」
魚の骨を丁寧に外しながらそう言った。
まったく、食べ方にすら品がある男だな…
「まあ…それはそうですよね。」
本当に、それはそうだ。
夜霧は困ったように微笑んだ。
「まだ正式に受けたわけではないのですが……断るのも角が立つでしょう?」
「そうですねぇ」
「きっと、理人くんも、湊くんも、澪くんも。同じ状況なんじゃないでしょうか。」
「そうですねぇ…去年もそうでした。」
「瑞希さん的には、どう思います?ワタシ達がステージに立つのは。」
「いいんじゃないでしょうか、みんな綺麗な顔してますし、似合うと思いますよ。」
一瞬、夜霧の箸が止まったが、何事もなかったように食事を再開した。
「……綺麗、ですか。」
梅雨にしては珍しい間だった。
すぐにいつもの微笑みに戻ったが。
言われ慣れているでしょうに。
「ありがとうございます。瑞希さんにそう言っていただけると、出る価値がありますね。」
「そうですかね…?」
食べ終えたのか、頬杖をついて少しだけ顔を近づけてきた。
「ええ。貴方の言葉には不思議と重みがありますから。」
そんな大層なことはない。
……というか近い。
周囲の学生もちらちらとこちらを窺っていた。
「あの夜霧くんが女の子と二人きりで食事してる」という視線が刺さっている。
視線が痛い…
夜霧も視線に気づいたのか、すっと体を引く。
「すみません、近すぎましたね。」
苦笑いをしておいた。
その時、学食の入口からずかずかと湊が入ってきた。
きょろきょろと見回した後、大股でこちらに近づいてくる。
「お!なんや二人で。俺も混ぜてや。」
夜霧が隣の席を指さす。
「席は空いてますよ。」
どかっと座り、
「おっちゃん、カツ丼!…あ、ちゃうわ。ここ学食やったわ〜」
一人でノリツッコミをかましてから食券機に走っていった。
嵐のようだ。
「……賑やかになりましたね。」
湊はカレーうどんを持って戻ってきた。
ずるずるとうどんをすすり始める。
「なあなあ、聞いた?ミスコン。」
「俺もう推薦されとるらしいわ。知らん子に。」
やっぱり。
「ワタシもです。」
「理人と澪もそうちゃう?あいつらも顔だけはええからなぁ。」
そう言ってカレーうどんのカレー部分をスプーンでかき混ぜ始める。
「なあ瑞希、お前的にはどう思う?俺がミスコン出たら。」
「似合うと思うよ。」
「ちょっとガニ股とかで歩きそうだけど…」
その言葉を聞いてがくっと肩を落した。
「ガニ股て!俺そんな歩き方せえへんわ!」
してるよ、とは誰も言わなかった。
優しさだった。
夜霧が口元を手で隠してぷるぷると笑っている。
むきになった湊は背筋を伸ばしてみせる。
「ほら、こうやって歩くやろ?上品やろ?」
「上品っていうのは,夜霧くんとか、理人くんのことを言うんだよ〜」
つい、本音が出た。
まるでがーんと効果音が出そうな顔だった。
「理人はまだわかるけど夜霧もかいな……」
夜霧がいつもの余裕を取り戻し、静かに笑う。
「光栄ですね。」と言った。
「くっそー、俺かてちゃんとせぇ言うんやったらするわ。」
悔しそうな顔だった。
「湊くんはいいんだよ、そのままで!」
その瞬間、ぱっと顔上げた。
「え、マジ?」
「えっ、うん…、その明るさが湊くんなんじゃないの?」
一瞬ぽかんとしてから、にっと歯を見せて笑った。
「お前ええやつやなぁ!」
単純だなあ。
梅雨は黙ってそのやり取りを見ていた。
箸を持つ指先がほんの少しだけ強く握られていた気がした。
そのとき、学食に理人と澪が連れ立って入ってきた。
二人とも同じタイミングでこちらを発見し、まっすぐこちらへ歩いてくる。
「やはりここにいましたか。」
理人の後ろからひょっこりと顔をだす。
「瑞希ちゃぁん、昨日のホテルありがとねぇ〜」
理人と湊の表情が一瞬、固まった。
口を開いたのは理人だった。
「……ホテル?」
「うん、泊めてくれたんだよぉ、瑞希ちゃんがぁ。」
何か誤解されそうだったので、慌てて具体的に説明した。
説明を聞き終えた二人はふぅと息を吐く。
「……なるほど。宿を手配しただけ、と。」
疑うように理人がこちらをじっと見る。
「それならいいんですけど。」
目を逸らし、同意を求めるように夜霧にの方に視線を向ける。
「……ね、夜霧くん?」
穏やかに頷いてくれた。助かった。
「ええ、ワタシが送り届けたのですが、場所を間違えてしまったようでして。」
「まったく……澪、次からは事前に連絡してください。」
ため息混じりに言われた。
澪はひらひら手を振りながらわかっているのか、いないのか。
ゆるい返事をした。
「はぁい。」
理人と澪は、ようやくトレーを取りに行った。
数分後、五人が同じテーブルに揃った。
周りの視線を感じたらしく、小声になった。
「なあ、めっちゃ見られてへん?」
この男も視線を気にすることがあったのか。
「今、四人とも注目の的なのに、そこに私みたいな謎の女がいたら、そりゃ見るよ……」
理人が背筋を伸ばしたまま味噌汁をすする。
「謎、ですか。別に不思議ではないと思いますが。」
うんうんとうなづく。
「せやせや、友達やねんから堂々としとき。」
「気にしすぎだよぉ〜」
夜霧は静かな声で言った。
「他の人がどう思うかなんて、気にする必要ありますか?」
四人の目線がこちらに集まった。
一瞬だけ、学食の喧騒が遠くなったような気がした。
湊が珍しく真面目な顔をする。
「そんなん気にしてたら俺らと飯も食えんくなるで。」
それはそうだが、
でも、多少は気になるものだ。
「そうだね。まあ、多少は気になるけど……慣れてないし。」
「多少なら我慢してください。……それとも、私たちといるのが嫌ですか?」
東海の声は淡々としていたが、その奥にわずかな棘があった。
「うん、あんまり気にしないようにしてるよ。」
理人の口角が上がる。
「なら問題ないでしょう。」
夜霧は安堵したように微笑んだ。
湊がぱんっと手を叩いて
「よっしゃ、ほなこの話終わり!なあ、ミスコンの話せぇへん?」
「みんな当事者なんだよねぇ。」
「そうやねん。で、どないする?出ぇへん?」
「正直、面倒ですね。」
理人が素直に答えた。
興味なさそうにお茶をすする。
「澪もぉ。」
夜霧も困った顔をしていた。
「ワタシもまだ決めかねていまして。」
「まあ、そうだよね。」
推薦で出される側からしたらたまったものではないだろう。
そこに湊がガタっと身を乗り出す。
「俺も最初興味なかったんやけどな、優勝したら商品出るらしいで?」
「何が出るの?」
ポケットからくしゃくしゃのチラシを引っ張り出す。
「えーっと……学食一ヶ月無料パスと……」
理人がちらっとチラシを見た。
「図書カード五千円分、あと……」
澪の目が少しだけ光った気がした。
「ペア温泉旅行券。」
「おお、豪華だね!」
全員ぴくっと反応した。
理人が真剣な顔になる。
「ペア、ですか。」
夜霧も顎に手を当てながら、
「これは……なかなか。」
澪もぽそっと呟く。
「温泉かぁ……いいなぁ。」
湊がにやっとする。
「お、やる気出たんちゃうん?」
気だるげに首を振る。
「別にぃ。ただ温泉はいいなって思っただけぇ。」
理人が指で眼鏡のブリッジを押し上げる。
「まあ、考えてもいいですが。」
夜霧はふっと笑った。
「皆さん、さっきまで興味ないと仰ってたのに。」
湊がけらけらと笑う。
「現金なやっちゃなぁ!俺ら!」
現金なのは全員同じだった。
そして、考えていることも、たぶん全員同じだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ペア温泉旅行券…誰の手に渡るのでしょうか。




