第10話 知らない顔
お待たせしました。第10話です。
少しだけ日常が戻りました。
講義は進み、チャイムが響いた。
音と共に澪が起き上がる。
「んん……?おわったぁ?」
「よお寝とったなぁ」
「寝てるんじゃなくてぇ、夢の中で聞いてたんだぁ。」
「それは寝とるんとちゃうんか…?」
いつも遠くで眺めていた光景が目の前で起きている。
無言のまま荷物をまとめていた理人がすっと立ち上がって、こちらを見た。
「今日のお昼はどうします?」
「今日は友達と約束があるので……」
そう言って、友達のところへ行く。
授業中、話を聞かせろと連絡が来たのだ。
「……行ってもうた。」
夜霧が微笑みながら、
「振られちゃいましたね」
澪が目線だけ瑞希が出ていった扉に向ける。
「ふぅん……友達ね。」
理人が静かに呟く。
「賢明な判断です。」
そういった理人の眉が、わずかに動いた。
駅前のファミレスで友達の雪と向き合う。
久しぶりの平穏だ。
パスタをフォークに巻き付けながら、
「ねえ、最近あの有名なイケメングループと一緒にいない?大丈夫?食われてない?」
「大丈夫…大丈夫…食われてはいないよ…」
「ふぅん…?」
「正直、絡まれてるだけなんだよね…」
フォークを止め、真顔になる。
「あの四人に絡まれて「だけ」って言えるの、どんなメンタルしてんの?」
実際、あの四人に絡まれて平気でいられるのはごく一部の人間だけだと思う。
自分でもなぜ平気なのかはわからない。
現実離れしすぎていると思っているからだろうか。
パスタを一口食べてから、身を乗り出す。
「てかさ、あの人たちの中で誰がタイプなの?いい感じにならないの?」
「ええ?タイプとかないんだよねえ。別にいい感じも何もないし」
雪は信じられないという顔をした。
「嘘でしょ…本当にどうなってんの?全員顔面国宝じゃん」
「それはそう思う、けど。」
スープをずずっとすする。
「じゃあなんでときめかないの。バグ?」
「なんででしょうね…?」
呆れ顔をして頭を抱え出した。
「もったいな……。でも気をつけてよ?向こうはそう思ってないかもだし。」
「別に友達でいいんだけどなあ…」
食べ終わった皿を重ねながら
「友達?あの面子と友達って……」
「昔からあんまり急激に近づかれすぎると逃げちゃうタイプだし……」
うんうん頷いて
「知ってるよお。中学の時もそうだったもんね。」
えへへ、と苦笑いで返す。
私は昔からそうだ。
急に好意を向けられると途端に壁を作って逃げてしまう。
まあ、最近はマシになっているはず…だが。
ぽんと肩叩いて
「まあ無理すんなよ、しんどくなったら言いな。」
私はなんといい友人を持ったのか。
「ありがとう…!」
雪の優しさが心に沁みた。
午後の残りの講義も終え、帰路につく。
やっと日常に戻ったと思ったのも束の間。
公園のベンチに見覚えのある長身が座っていた。
聞くつもりも見るつもりもなかったが、自然と目線が吸い込まれる。
夜霧だった。
スーツの女性と何か話している。
目を逸らそうとした瞬間、女性が泣きながら去っていき、
夜霧は、何事もなかったような顔で煙草に火をつけた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
日常は一瞬でした。




