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77番目の使徒  作者: ふわむ
第一章
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徴税官セロトラエ1


結局、私はマーカスさんの家を辞した後、自分の家に帰ることにした。

ワッツさんへの報告は本日はしない。

収穫祭の片付けがある今日と明日は避けた方がいい、とマーカスさんにも指摘されたためだ。


それから二日後、そろそろワッツさんに報告しに行こうかと思っていた昼頃、家にカロンがやってきた。

私と父さんに伝言で、今からマーカスさんの家に来るように、とのこと。

緊急のお仕事かな?と思い、私と父さんは急いで支度してマーカスさんの家を訪ねた。


すぐに家の中に通され部屋に入れてもらう。

室内ではマーカスさんと、ワッツさん、そして立派な服装の見知らぬ男性が座っていた。


「やあ、わざわざすまないね。ドナン、エルナ」


マーカスさんは立ち上がって私たちに挨拶をする。そして小さくウインクをした。

ん?なんの合図だろう?

気にせずにいつも通りやれ、ってことかな。


私は、立派な服装の男性がマーカスさんと同等もしくはそれ以上に偉い人ではないかと察した。

だからこそ、いつも通りの礼儀作法でやってくれ、という意味に捉えたのだ。

右手を胸に当てお辞儀をする。


「村長さん、こんにちは」


少し戸惑っていた父さんも遅れて挨拶する。


「村長、こんにちは」


マーカスさんは満足そうに頷いた。

意図は合っていたようだ。

そして立派な服装の男性に視線を合わせると、その男性も立ち上がってこちらに向いた。服装も立派だが体格も立派で、四十歳前後の格好いいおじさんだ。


「ドナン、エルナ。紹介しよう。こちらはセロトラエ徴税官だ」

「初めまして、ドナン、エルナ。私はセロトラエ。オルカーテから派遣された徴税官だ。本日この第七ホラス村にやって来たばかりだ。しばらくこの村に滞在することになるがよろしく頼むよ」


徴税官!

税の取り立てにきた領都の役人さんだね。

よし、まずは大事なご挨拶だ。胸に手を当てたままの姿勢でセロトラエ様の方を向いてお辞儀をする。


「初めまして、セロトラエ様。この村に住むエルナと申します。こちらは私の父のドナンです。よろしくお願いします」


父さんも私に習ってお辞儀をする。


「初めまして、セロトラエ様。ドナンと申します。よろしくお願いします」


セロトラエ様は大仰おおぎょうに頷いた。


「楽にしてくれたまえ、ドナン、エルナ」

「「はい」」


礼を崩すよう促してくれたので、私と父さんは姿勢を戻す。

セロトラエ様とマーカスさんが椅子に座ったので、続いて私と父さんも腰を降ろした。ちょうど目が合ったワッツさんに軽く会釈する。

しかし、未だにどういう状況かわからない。なぜこの場に呼び出されたのか。なぜワッツさんも同席しているのか。

そんな中、マーカスさんが話を切り出した。


「まず、徴税官について話そう。この村の税を取り立てるために毎年領都から派遣されてくるんだが、村側はいつ誰が来るのか知らされないんだ」

「一応言っておくと、この村に限った話じゃないよ。まぁ、どこの村も収穫祭の前に行くと嫌がられるから、収穫祭が終わってから行くのが暗黙の了解になっているがね」


セロトラエ様がマーカスさんの話に笑いながら付け足す。いつ誰が来るのか知らされない、っていうのは抜き打ちの意味と、癒着防止なのだろう。

あれ?そういえば、なんだか二人は気易い感じがする。私の中のイメージでは、村長と徴税官って立場的にバチバチにやり合う関係だと思ってたけど、私の思い込みだったか。セロトラエ様が単に気易い性格の人なのか、あるいはこの二人の関係が気易い仲なのか・・・。


「それで今年の担当者がこちらのセロトラエ徴税官というわけだが、実は私は若い頃、オルカーテの役人として働いていたことがあってね。セロトラエさんは、同じ職場の上役だったんだよ」

「そう、こいつマーカスは昔、俺の部下だったんだ」


気易い仲だったよ!


「私と隣村のガルナガンテはかつての同僚でね、このセロトラエさんにかなりお世話になったんだ」


セロトラエ様はうんうんと頷いている。

はー、マーカスさんもガルナガンテさんも、昔オルカーテの役人さんだったのか。知らなかった。


「それでね、エルナ」


マーカスさんは私を見て、急に名前を呼んだ。

わたしは思わず身構える。


「例の件だが、セロトラエさんに相談するのがいいと思ったんだ。君がもし成人していれば、君自身が一人で決めて動く、ということも選択できるだろうが、君は未成年。どうしても大人の力が必要になる」


例の件・・・。私の魔法のことだよね。

確かにマーカスさんの言う通り。今の私には私自身を守る力がない。

この先魔法を学ぼうとするならば、教えてもらうためだけでなく危険から守ってもらうためにも大人の力は必要だろう。

マーカスさんは後ろ盾の必要性を説いてくれているわけだ。


そしてセロトラエ様。

マーカスさんがこうして紹介してくれる人だ。信頼の置ける人物に違いない。


「村長さん。私からセロトラエ様にお話しても?」

「うん。君から話すといい」


マーカスさんは、にこりと笑う。

なるほど。マーカスさんが既に話を通してる可能性もあったけど、話していないよってことか。やはりマーカスさんは信頼できる人だなぁ。


私はセロトラエ様に向いて姿勢を正した。


「セロトラエ様。私は三日前から魔法が使えるようになりました」

「は?」「え?」


セロトラエ様とワッツさんの声が重なった。

そうだ、ワッツさんも居たんだった。


「エルナ。見せてあげてくれるかい」

「はい」


マーカスさんに促され、私は椅子から立ち上がる。

そしてゆっくり右手の掌を差し出した。


《光よ、集まれ、我が手に》


詠唱と同時に掌が光り出す。

しばらく光らせてから、私は魔力を遮断して光を消した。


セロトラエ様とワッツさんの口がぽかんと開いたままだ。

マーカスさんはそんな様子を見て、少し間を取って話を進める。


「御覧の通りエルナは魔法を使える。だが八歳になったばかりだ。今後本人がどうするかまだわからないが、仮に村の中で練習を続けた場合、話を聞きつけた良からぬ者が金になると思いかどわかそうとするやもしれない」


父さんが横で身体をびくっとさせる。

拐かす、つまり誘拐ってことかー。いやいや、私も怖いよ、そんなの。


「選択肢は二つあると思っている。一つ目は、自分の身を守れる歳になるまで魔法を使わない。二つ目は、後ろ盾を得て、その庇護下で魔法を学ぶ」

「なるほど・・・。それで私に相談した、というわけか」


固まっていた状態から復活したセロトラエ様がマーカスさんに応える。


「魔法を学ぶなら、少なくとも領都に行く必要がある。ちょうど領都に伝手つてがあるセロトラエさんがいるのだから何か良い案を出してもらえないかと思いましてね」


セロトラエ様はふむ、と顎に手を当てた。

格好いい人が思案している姿は絵になるなぁ。


「確かガルナガンテの実家はノルテック男爵家だったな。あいつに頼むというのはどうだ?」

「私も少しは考えたんですが・・・それ、ノルテック家と婚約くらいしておかないと、家格が上の貴族から寄越せと言われませんかね?」

「ああ、その可能性はあるか・・・ふむ」


物騒だ!貴族様怖いっ!

まだ八歳だし、婚約とか流石に勘弁してほしいよ。

そういやガルナガンテさんの実家が貴族なのは聞いていたけど、ノルテック男爵家っていうのは知らなかったなぁ。覚えておこうっと。


セロトラエ様はマーカスさんから私に視線を移し、じっと見てきた。

おっと、ポーカーフェイスだ。営業フェイスだ。


「エルナと言ったな。先に聞いておこう。マーカスの言った選択肢のどちらを選ぶのだ?」

「ええと、婚約はまだ考えられませんので、魔法を我慢しようかと思います。でも自分の身が守れる歳って何歳くらいからなのでしょう?」

「成人とは言わずとも、せめて十二歳くらいではないかね」

「四年も勉強できないのは・・・でも、命の方が大事なので仕方ないですね」


セロトラエ様は少し眉を上げた。


「エルナ。君は礼儀作法もよくできているし、その歳で算学もできるのか・・・。誰から学んだのかね?」


んん?算学?

ああ、算数のことか。八歳から十二歳まで四年って迷わず言ったからかな。この世界では、八歳の村人が算数を学ぶ機会は確かに少ない。


「そちらに居られるワッツさんから教えてもらいました」


算数は前世の知識だけれど、数字の読み書きを教えてもらったので嘘ではない。


「ほう。ワッツ司祭が・・・」

「あ、いえ。私は司祭ではなく、まだ司祭見習いでして」

「おっと、これは失礼した」

「エルナは最初から賢い娘でしたよ。私は、教えたというよりも進む道を指し示しただけに過ぎません」

「ふむ」


ひぃぃ。そんな事言われたら背中がむず痒くなっちゃう。

ワッツさん、あまり持ち上げないでー!


そんな私の心情など露知らず、セロトラエ様は腕を組み何やら思案してから口を開いた。


「ならばギルドを頼るか・・・。エルナ」

「はい」


おっと、私だ。会話に集中しよう。

・・・ギルドさんって誰だろう。


「オルカーテの冒険者ギルドに勤める気はないか?」


なんで人の名前だと思ったの!私の馬鹿っ!

ランダルフ先生も冒険者ギルドの講習がどーたら言ってたじゃん!

って、落ち着け落ち着け。


「えーと。冒険者ギルド・・・ですか」

「そうだ。私個人の意見になるが、君はこのまま魔法を学んだ方がいい。だが婚約してまで貴族の庇護下に入るのは抵抗があるのだろう?ならば冒険者ギルドの職員になればいい。そこならば貴族も簡単に手を出せないし、魔法も学べるぞ」


冒険者ギルドの職員!?

また私の知らない世界がやってきた。


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