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77番目の使徒  作者: ふわむ
第一章
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徴税官セロトラエ2


「おぉ・・・その手がありましたか」


セロトラエ様の話にマーカスさんは感嘆した。

つまり、いい案だったのかな。


「あの・・・冒険者ギルドの職員ってどんな仕事をするんですか?私ができるんでしょうか」

「そりゃあ、君にぴったりの仕事があるぞ。魔石に魔力を充填する仕事だ」


魔石?充填?

ファンタジーな響きがするけど、どんなものだろう。


「魔石というのは初めて聞きました」

「魔石は魔力を溜め込むことができる鉱石だ。魔道具に使われるんだが、見せた方が早いか」


そう言うとセロトラエ様は足元の鞄から何やら取り出した。

どうやらランタンのようだ。

取り出したランタンの底部に手をやると、カチッという音と共に蓋が開き、中からゴルフボールくらいの大きさの石が出てきた。


「これが魔石だ。このランタンは照明の魔道具でね。魔力持ちが直接魔力を通しても光るんだが、私みたいに魔力持ちでない人間でもこの魔石を入れておけば光らせることができるんだよ」


照明の魔道具!すごい便利そう。

魔道具と知った途端、私のテンションが急激に上がっていく。


「こ、これ、どれくらいの明るさなんですか!?蝋燭より明るいんですか!?時間はどれくらい持つんですか!?」


わたしは思わず椅子から腰を浮かせ、興奮しながらセロトラエ様に質問してしまった。

周りの大人達は思わず目を丸くする。


「質問の内容はそうでもないが、ようやく八歳児らしい態度を見た気がするな。この魔道具は蝋燭よりも全然明るいよ。時間は・・・そうだな、魔石の質にもよるが、このくらいの魔石でも満タンにしておけば三十日間くらいは照らし続けられるんじゃないかな」


そういって、セロトラエ様は魔石をランタンの底部に戻し蓋をした。そしてカチッと、おそらくスイッチを入れたのだろう。ランタンは私の光魔法と同じくらいの輝きで光り出した。

すごいすごい!とても綺麗!


スイッチがオフにされて光が消えた後も、私はしばらく感動の余韻に浸っていたが、やがて仕事への興味が沸々と湧いてきた。


「先ほどの魔石を空っぽの状態から満タンにするのに、どれくらい時間が掛かるものなのでしょうか」

「それは魔力持ちの力量次第だと思うが、充填するだけならさほど時間は掛からないんじゃないかな。ただ一般的な話をするなら、冒険者ギルドに依頼すると常に順番待ちでね。預けて二、三日待たされるのが普通だし、人員不足のときは十日経ってもまだ充填できていません、なんてこともある」


はぁー。魔石に魔力を充填するお仕事か・・・。

もしかしたら色んな魔道具を見たり触ったりできるかもしれない。それはなんか面白そう。

そして冒険者ギルド。

対価はいくらかわからないけど魔法を学べる環境があって、そのために必要なお金を稼ぐ仕事ができる、ってことだよね。そして身の安全も守れる・・・らしい。


私の心はぐらぐらと揺れた。領都、行ってみたい。

セロトラエ様に尋ねる。


「もし行くとなったら、いつから行ってもいいのでしょうか」

「最短なら、私がこの村での仕事を終えて戻るときに連れて行ってもいいよ」

「いえ、それは無理です。半年、せめて半年の猶予が欲しいです」

「ほう。ということは次の春になら行くつもりがある、ということかな」

「それは少々お待ちください」


私は父さんに向いた。

父さんも真剣な目で私を見る。


「父さん。私、領都オルカーテに行ってみたい。そこで仕事しながら魔法を学んでみたい」


父さんは一度目を大きく見開いた後、目を閉じて腕を組み天を仰ぐ。

やがて姿勢を正し、静かに口を開いた。


「・・・いいよ。エルナの好きにしなさい」

「父さん!」

「次の春に行くのかい?」

「うん、そうしたい」

「そうか、じゃあ春まではここに居るんだな」

「うん、居るよ」

「領都に行っても、たまには村に帰ってくるんだろ?」

「絶対帰ってくるよ」

「わかった」

「父さん・・・・ありがとう」


父さんは立ち上がって、マーカスさんとセロトラエ様に向くと胸に手を当てた。


「娘のことを色々考えてくれてありがとうございます。娘を・・・エルナをよろしくお願いします」


そして深く頭を下げた。

私も立ち上がり、父さんの隣で立礼する。


「ああ、エルナのことは任せたまえ。ドナン」


セロトラエ様はしっかりとして口調でそう言った。


「エルナ」

「はい」


マーカスさんに呼ばれて、私は姿勢を戻し返事をする。


「次の春でいいのかね?」

「はい、半年間家族と過ごす時間もありますし、引継ぎもできます」

「ん?引継ぎ?」

「私と父さんでやっている隣村への配達の仕事です。私が春にいなくなるのだから、引継ぎをしなければいけません。引継ぎは大事です」


私がそう言うと、なぜかマーカスさんとセロトラエ様がお互いを見る。

そして・・・


「くくっ・・・」

「ぶふっ・・・ふわっはっはっは!」

「い、いや、その通りだ。ははは。エルナ、君が正しい。仕事の引継ぎは大事だ。くっくははっ」


セロトラエ様が吹き出し、マーカスさんもつられて笑いだした。

んん?何かおかしかったのだろうか。

でも、父さんもワッツさんも訳がわからない、という表情だ。

どうやら、二人の笑いのツボに入っただけらしい。


「はぁはぁ・・・いや、すまんすまん。ちょっと昔を思い出しただけだ。それで、誰に引き継ごうか。案はあるかい?」

「まず、カロン。それからダフ、じゃなくてダフタス。あと、すぐには無理かもしれませんが、妹のリンにもやらせてみようかと思っています」

「ほほう!」

「ちょっと考えてきますので、引継ぎについては明日またお話させて下さい」

「わかった。昼の鐘が鳴ったらうちを訪ねてくるといい」

「はい、では昼に」


私は明日の昼にマーカスさんと会う約束をする。マーカスさんも満足そうに頷いていたそのとき、不意にセロトラエ様が、ぽん、と手を打った。


「一つ思い出した。エルナ」

「なんでしょう、セロトラエ様」

「魔法が使えるようになったのは三日前とのことだが、しばらくは寝るときに魔封具を装着するようにしなさい」

「魔封具・・・ですか」


また何か新しいワードが出てきた。


「ワッツ司祭見習い」

「はい、何でしょうか」

「この村の教会・・・ではなくて斎場だったか。斎場に魔封具は置いてあるかね?」

「一つだけですが、教会から支給された腕輪があります」

「それをエルナに貸してあげるといい」

「え?でも魔封具は犯罪者に使用するものですよね?」


ええっ!?私、何か悪い事したんだろうか。

焦った私は、思わずセロトラエ様に顔を向ける。


「ああ、違う違う。順を追って話そう。魔法士になったばかりの者は、稀にだが寝ているときに誤って魔法を発動させてしまうことがあるそうだ。季節一つ分もすればそういったことは無くなるのだが、魔法を覚えたてのときは事故が起こることがある」

「寝ているときに、誤って発動ですか」

「そうだ。夢を見て無意識に発動してしまう、と考えられている。過去には、寝ている間に火事を起こして亡くなってしまった魔法士もいるそうだ」


セロトラエ様とワッツさんのやり取りを聞いて私は、魔法を覚えたばかりの時期はそんな危険もあるのだと知り、内心驚く。


「それで魔封具というのは、一般的には魔力持ちの犯罪者を拘束するためにギルドや教会などに用意されている魔道具の一種だ。腕輪だったり、足輪だったり、首輪だったり、と形はいくつかあるのだがね。装着された者は魔力を通しにくくなる。だから魔封具は、成り立ての魔法士の誤発動を防止するためにも使われるのだ。エルナは季節一つ分、それを寝ているときだけ装着するといい」


犯罪者にも使うけれど、魔法士の誤発動防止にも使うのか。少し驚いたけど納得だ。

季節一つ分・・・九十日くらいだね。


「なるほど。それじゃあ、エルナ。この後、斎場まで一緒に来てくれるかい」

「わかりました。セロトラエ様、教えてくれてありがとうございます」


私はワッツさんに返事をしてから、セロトラエ様に礼を言う。


「他には何かあるかな?」


マーカスさんは、周りを見渡し確認する。


「それじゃ、これでお仕舞いにしよう。ワッツ、ドナン、エルナ、下がっていいよ」

「では村長、失礼します」

「村長、失礼します」

「村長さん、ありがとうございました。明日の昼、またよろしくお願いします」


ワッツさん、父さん、私の三人はマーカスさんの家を出た。訪ねたのは昼だったはずだが、既に夕方になっていた。

濃密な話し合いだったからか、あるいは張り詰めていたものが緩んだか、外に出たとたん三人とも強烈な疲労感に襲われるのだった。


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