魔法の覚醒3
収穫祭の翌朝。
私は家族に魔法が使えるようになったことを話した。
私が光魔法で右手を光らせると、皆一様に驚き、そして喝采した。
だが、父さんと母さんはしばらくすると私を向いて言った。
「これ、大っぴらにできるのか・・・?」
「他人が知ったとき、誰がどう思うか、母さんは分からないわ」
そうなのだ。
なにせこの村には、私以外に魔法を使える人はいない。
私の家族は喜んでくれる。それはわかってた。
でも、他人がどういう反応になるかはさっぱりわからないのだ。
「エルナはどう思うんだ?」
父さんの問いに少し考える。
村で唯一の、八歳の魔法士だ。すべての村人が好意的な目で見てくれるわけではないだろう。無関心だったり、奇異的な目で見られるならまだいいのだ。悪意を持って見る人がいないとも限らない。
「家族以外にはしばらく内緒かな。まずは村長さんとワッツさんの二人にだけお話してこようと思ってるよ」
マーカスさんは私がランダルフ先生と会えるよう動いてくれたし、ワッツさんには先生への礼儀作法について相談した。そのお陰で魔法が使えるようになったのだから、二人には話を通すべきだろう。
「お昼になったら村長さんとワッツさんのところへ行ってくるね」
「昼か・・・。村長はともかく、ワッツさんは昨日の収穫祭の片付けが忙しそうな気がするな。父さんと母さんも昼から片付けに参加するんだが、迷惑になりそうだったら日を改めることも考えておくといい」
「ああ、そっか。そうだね、わかった」
私は、キラキラした眼差しを向けているリンに言った。
「リン。私が魔法を使えることは、村の人にはまだ内緒ね。まずはお世話になった人に相談してから話してもいいか決めるから」
「うん、わかった!」
リンは、にぱっと笑う。可愛い。
私はリンの頭を優しく撫でる。いい子だ。
昼の鐘が鳴る頃、私はマーカスさんの家に向かった。
村には昨日の祭りの余韻が少し残っている。おそらく二日酔いだろうか、顔色の良くない大人達もちらほら見掛けた。
そんな村の中を歩きながら、やがてマーカスさんの家に辿り着く。
話があると伝えると、すぐに会えるとのことで家の中に入れてもらった。
「村長さん、こんにちは」
いつものように、私は右手を胸に当て、お辞儀をする。
「こんにちは、エルナ。楽にしていいよ」
「はい」
マーカスさんが椅子に腰掛けたので、私も椅子にちょこんと座る。
「それで話というのは?」
「実は・・・魔法が使えるようになりました」
「は?」
マーカスさんはしばし呆気にとられて、そのまま沈黙の時間が流れた。
やがて開いていた口を閉じ、咳払いを一つ。
「こほん・・・。魔法、ここで使っても大丈夫かね?」
この『大丈夫』は、見せてもらってもいいか?という確認と、家の中で使用しても危険はないか?という確認のダブルミーニングだろう。
「はい。屋内でも安全なので、ここでお見せします」
右の掌を前に出し、一つ息を吐く。
《光よ、集まれ、我が手に》
詠唱するとすぐに掌が光り出す。
これくらいでいいかな。そう思えば、感覚的に魔力の通りが遮断される。
光はふっと消えた。
マーカスさんは、今度はしっかり口を閉じていたが、やはりしばらく黙り込み、ようやく口を開いた。
「・・・ふう。本当に使えるんだね、エルナ」
「はい」
「いやはや、驚いたよ」
マーカスさんが驚く理由は、第一に私が魔法を使えるようになったこと。第二に習得までに要した期間が季節一つ分だけだったこと。後は私が八歳だということも、か・・・。
驚いた、の一言にそれらの理由が含まれていることを察した私は少し考える。
マーカスさんですらこれだけ驚くのだ。
父さんや母さんも言っていたが、やはり村人に話を広めた場合、その影響がわからない。
「私、こうして魔法が使えるようになったのは昨日の夜からでして・・・。それで、このことはまだ家族にしか話していないんです。私は村人に話を広めないつもりでしたが、今、村長さんの反応を見て改めてそう思いました」
マーカスさんは腕を組み、何度か頷いた。
「そうだな。それがいいだろう。だが・・・」
「えっと、何か懸念でもありますか?」
「エルナ。君はこの先、どうやって魔法を学んでいくのかね?」
「この先・・・あ」
昨日まで家の裏手の空き地で練習していたから、これからも同じ様に、って思ってたけど、よく考えたら色々無理があるな。
まず、今までは詠唱の練習だけで魔法自体は発動しなかったから、人目を避けることに関してそこまで厳重にしてこなかった。
実際に魔法が使えるようになった今、人目を避ける必要が出てきたのに、魔法を発動させて練習するのだから、それって人目を避けるのと真逆のことしてないかってことになる。
それに私は、光属性以外の魔法も試していきたいんだよね。でもそれは誰かに教えてもらうとか、本を読むとかしないと駄目なんじゃ・・・。
「この村で、私が独学でやっていくのは無理がありそうですね」
「そうだろう。私もそう思う」
私は思わず、あ~~、と呻いた。
ついさっきマーカスさんが私に問うた懸念と同じことを聞き返してしまうからだ。
「この先、魔法を学んでいくには、どうしたらいいのでしょうか」
「そりゃ、この村の外に出るしかないんじゃないか」
ですよねぇ・・・。
私はもう一度、あ~~、と呻き、天を仰いだ。




