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77番目の使徒  作者: ふわむ
第一章
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魔法の覚醒2


村は秋の収穫祭を迎えた。

斎場の前の広場には祭壇が作られ、その祭壇から扇を広げるように料理を乗せるテーブルが幾つも配置される。


酒は隣村から買うが、料理はすべてこの村で採れた物が使われる。

ちなみにこの村で採れた収穫物には、個人の物と村の物があり、村の物とされた物は全て村長の家の蔵に入る。蔵の数は十戸前じゅっとまえ以上あり、どれも大きい。


収穫祭では、村長の家の蔵から出された材料を基に、村の女衆が総出で料理を作る。一部は祭壇に供えられ、そして大半は広場に集まった村人に振舞われるのだ。


未婚の若い娘達は美しく煽情的に着飾る。さらに今年十五歳となって成人したばかりの娘は、祭壇の前で奉納の舞を踊ることができる。当然、若い男達にアピールするためだ。


そんな収穫祭は、大人達だけではなく、子供達も楽しめるようになっている。広場の中には子供向けの屋台がいくつか配置される。子供達は大人達から小遣いをもらって、甘い菓子や飲み物などを買う。平時において村の中では物々交換が多いが、そうやって貨幣にも慣れていくのだ。


とはいえ、子供たちが広場に居られるのは夜の鐘が鳴るまで。夜の鐘が鳴ったら家に帰らねばならない。

なぜなら、そこから先は大人の時間だからだ。


やがて夜の鐘が鳴り、子供達が広場から追い出され始める。

元気な男の子たちは家に向かって駆け出し、女の子たちは母親が家まで連れて帰る。

そうして子供達が全員広場を後にしたことを確認すると、もう一度斎場の鐘が鳴る。


宴が始まるのだ。


大人達は一斉に酒を飲み、騒ぎ出す。これぞ大人の特権だ。

ある者は高らかに歌い、ある者は飲み比べに興じる。そして未婚の若い娘には、同じく未婚の若い男が話しかけにくる。やがて宴もたけなわの内に、一組、また一組とカップルが生まれ、広場から離れていくのだ。


ここまでが、私がよく聞く収穫祭の話だ。成人したお姉さんや井戸端会議のおばさんは、こんな感じで大人の時間を話してくれる。


・・・だが、私は知っている。

八歳だが、前世の大人の記憶がある私、エルナは、広場から離れたカップルがどこかでイチャコラするのを知っているのだ!


はー、なるほどね。この村で成人した娘がすぐ結婚してしまうのは、大体この収穫祭のせいかー。

そういえば、この村では夏から秋に掛けて生まれてくる子が多い。この収穫祭で新婚カップルとなりイチャコラするのと、家から出る機会が減る冬籠りの間にイチャコラするからだろう。


私はまだ性欲なんぞほぼ無い状態だが、第二次性徴が来た頃にはどうなっているのか。

大いに不安である。

この世界は割と性に開放的なので、下手に前世の記憶を持っている分だけより刺激的に映るのだ。


・・・さて、こんな事を悶々と思いながら私が何をしているかというと、だ。

本日の収穫祭で、無事広場から追い出された私は、リンと一緒に母さんに連れられて家に帰った。もちろん母さんはすぐに広場へ戻っていった。

リンを寝かしつけた私は今、家の裏手の空き地で魔法の練習をしているのだが・・・。


「光よ、集」《まれ、我が手に》


うひょお。調子いいーーーっ!!

何だこれ?昨日より魔言のノリがいい。段違いだ。

初めて魔言を作り出せるようになってから数日経っているが、昨日まではせいぜい語尾だけしか魔言にならなかったのに。

それが今日は一気に伸びた。何で?昨日までと今日とで何が違うの?


収穫祭で世界がお喜びになっているのだろうか。

それとも、私の頭の中が若干ピンク色になっている影響からだろうか。


いや、これは冗談だが。

でも全部が全部冗談ではなく、本当に魔言の調子がいいのだ。

その後も何回かやってみる。

やはり調子がいい。やれば少なくとも語尾は魔言となり、完全な失敗がほとんどなかった。


「ふーっ。ちょっと休憩するか」


腰を下ろした私は、そのまま地べたにごろんと背中をつけ、大の字になって夜空を見つめる。

この世界の夜は地上の光が少ない。夜空の星がとても綺麗に見えるのだ。


もちろんそれは、私が前世の記憶と比較してのこと。

この世界の住人は生まれたときからこの夜空しか知らないから、特別な感情は抱かないかもしれない。


「むーん」


届きそうな星に、無意識に右手を伸ばしてみる。

そのまま手をにぎにぎしてみた。


魔言・・・。

唇から発した言葉に、一言一言、まるで魔力の筆で塗っていくような感覚。

その感覚を例えるならば・・・。

『集まれ』を『a』『t』『u』『m』『a』『r』『e』にというように母音と子音に分割して、一文字づつ魔力の筆で塗装していく。

今はそんな感覚に近い。


そして、最初の一文字目を塗装するのがとても難しい。

はぁ、どーしたものか。

前世だってあんまり詳しくなかったけど、絵画だって、書道だって、きっとそうだよ。

白いキャンバスに最初に筆を入れるのが、一番難しいんだよ!


って、あれ?そういう問題じゃないよな。なんか思考すべき方向性がズレてきてるなぁ・・・。

と、頭の片隅では分かってた。

分かってはいたんだけど、ズレた思考が惰性で進んでいく。それがなんか心地良い。


筆だから初手の始動が遅いのか?

魔力スプレーを噴射させて、そこに言葉を通す?


んー。いや・・・こうか。


《光よ、集まれ、我が手に》


それは不思議な光景だった。

夜空に輝く無数の星の、そのどれよりも美しく、天に伸ばしていた右手が輝いたのだった。


あ・・・。


私は、しばらく右手の輝きを見つめていた。

やがて光は弱まり、また夜空に無数の星が現れる。

思わず呟く。


「漫画の吹き出しかぁ・・・」


この瞬間だけ、私はいつも思い描いていた『光魔法が発動するイメージ』を頭から放り出していた。


私は『魔力で満たされた袋の中に言葉を吹き込むイメージ』で、詠唱したのだ。

思い浮かべた明確なイメージとは、漫画の吹き出しだった。

その結果、なぜか魔法が成功してしまった。


光魔法を成功させたのだから、私には、魔力持ちとしての適性と、さらには光属性の適性があった、ということなのだろう。

加えて、偶然にも漫画からイメージを得たということは、前世の記憶も助けてくれたのだろう。

そしてなによりも・・・。


「先生・・・やりましたよ!」


そうだ!ランダルフ先生の教えがあったからだ!

胸の奥が熱くなって、一気に達成感で満たされていく。


「よし、復習しよう!」


私は勢いよく起き上がった。

姿勢を正し、呼吸を整え、詠唱をする。


そうやって繰り返す光魔法は、もう失敗することはなかった。


私は満足すると、練習を終えて家に向かう。

こうなると、そのうち光魔法以外の魔法も知りたくなるだろうね。

今夜、気持ちが昂って眠れなくなったらどうしようー。


だがそれは杞憂だった。

家に帰った私は相当疲れていたらしく、横になったとたんに寝てしまった。







収穫祭のこの日。第七ホラス村に一人の魔法士が誕生した。

八歳の魔法士エルナ。

様々な偶然が重なり、彼女にとって良き教えがもたらした奇跡。


エルナはその奇跡を掴み取ったのだ。


そして彼女はのちに知ることになる。

実は、彼女の頭の中がピンク色だったことも、魔力が通りやすかった要因であったことを。

だがそれを知るのは、これから何年も先のことになるのだった。


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