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77番目の使徒  作者: ふわむ
第一章
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村長の息子カロン2


「サーチェ先生、一番下まで書きました」

「よろしい。では次の紙を渡します」


私は今、サーチェおばさんから出された課題をこなしている。

最初は渡された数枚の紙に書かれた基本文字を読み、今は基本文字の書き取りをしている。

懐かしいな。去年ワッツさんに教えてもらったときのことを思い出す。

あの時は、一枚の紙に書くところが無くなるまで書いていたっけ。

今日は余白を取って綺麗に書き、埋まったら次の紙をもらえる。紙はそれなりにいいお値段するんだよね。


「書き取り、全部終わりました」

「結構です。では最後の課題、この紙に書かれた計算をしなさい」

「はい」


問題用紙と答案用紙を渡される。

前世の記憶がある私にとっては、数字が読めさえすれば見た瞬間に答えが出るような計算だ。

答えをすらすらと書いていく。


「計算、終わりました」

「あら」


サーチェおばさんは受け取った答案用紙を見て、目を細めた。


「結構ですよ、エルナ。これで勉強は終わりです」


私は立ち上がって、サーチェおばさんに立礼する。


「先生、ありがとうございました」

「楽にしていいわよ、エルナ。これから家に帰るのかしら?」

「はい、村長さんに報告して帰ります」

「隣にファトラとシアラがいるから、良かったら顔を出してあげて」


ファトラとシアラは、カロンの腹違いの妹達。

ファトラはマーカスさんの第二夫人の娘で、シアラは第三夫人の娘だ。マーカスさんの家は他にも何人かお子さんがいるが、この二人は比較的私と歳が近い。


「わかりました。挨拶してきますね。サーチェおばさん、失礼します」

「ええ、またね。エルナ」

「・・・カロン、お先に失礼するね」

「・・・・・・」


カロンは返事をすることなく、机の上の問題用紙を睨んでいた。

私はそのまま部屋を出て、隣の部屋のファトラとシアラに挨拶をした後、階段を降りて一階に居たマーカスさんに声を掛ける。


「村長さん」

「ああ、エルナ。終わったのかい?」

「はい、サーチェおばさんに出された課題が全部終わったので、これで帰ろうと思います」


私は出された課題の内容と、カロンがまだ途中であることを簡潔に話した。


「そうか。もう少しだけ話をしてもいいかい」

「はい」

「サーチェとカロン、どうだったかな」


私は少し考えて答える。


「そうですね・・・。村長さんから勉強相手になってほしいと言われて、最初に思ったのは、親が自分の子供に勉強を教えるって情が入り込む余地があるから、サーチェおばさんはカロンに対してどうなんだろうなーって」

「ほう!それで一緒にやってみてどう思ったかね」


マーカスさんは嬉しそうに声を上げ、先を促した。


「逆でした。サーチェおばさんは甘くなかったです。ちゃんと情を除いていました。正直、すごいと思いましたよ。情が入っていた・・・というか甘えていたのはカロンの方で、今まで課題から逃げていたんじゃないかって」

「なるほど・・・」


村長の息子だからこそ、情を除いたサーチェおばさん。

子供だからこそ、母親に甘えてもいいと思ったカロン。

単独で見るなら問題なくても、組み合わさると上手くいかない。よくあるよね。

例えられそうな話は、この世に溢れるくらいありそうだ。


「それで今日一緒に勉強して思ったんですが、まずはファトラ、シアラと一緒に勉強させてみたらどうでしょうか。カロンには張り合える競争相手が必要なんじゃないか、ってそう思いました」


私は今まで一人でワッツさんに教わっていたから、競争相手の必要性を感じなかった。でも、もしかしたら無意識に前世の記憶の中の自分と競争してたのかもしれないね。マーカスさんと会話しながら、そんな可能性に気付かされた。


「カロンとファトラ、シアラで別々に勉強させていたが、そうか、そうしてみるか」

「ただ、ちゃんと課題を達成できたら、誉めてあげたり、遊びの許可を出してあげたりしたほうがいいですよ。課題を達成したら嬉しいことがある、って感じさせるのが良いんじゃないかと」

「わかった、そうしよう。いやー、エルナ報告ありがとう。カロンの勉強嫌いには困っていたんだが、少し希望が見えてきたよ」

「それは良かったです。それで、その・・・対価にはなったんでしょうか・・・」


そう。勉強相手になったのは、魔法士様に会えるよう取り計らってもらう事の対価として、私が引き受けた依頼だった。

おずおずと伺う私に、マーカスさんは満面の笑みで答える。


「ああ、対価は受け取ったよ。これからガルナガンテに頼むための手紙を書いておくから、明日の朝の鐘が鳴ったらドナンと一緒に配達に行ってくれるかな。もちろん仕事として、だ」


私も思わず頬が緩む。

配達には昨日行ったばかりだ。明日また配達があるとは父さんも思っていないだろう。


「わかりました。今から帰って父さんに話してきます。村長さん、失礼しますね」

「ああ、明日また会おう。ご苦労だったね、エルナ」


私は家に向かって駆け出しながらマーカスさんに手を振った。







「やれやれ、エルナ。これからもちょくちょく君に対価を支払うことになりそうだよ」


マーカスは駆けていくエルナの背を見ながらつぶやくのだった。







家に帰って父さんに今日の話をしていたら、横で聞いていたリンが寄ってきた。


「おねぇちゃん、わたしも一緒に勉強したいー」

「じゃ、今度、斎場に行って一緒にワッツさんに勉強教わろうか?」

「うんうん、おねぇちゃんと一緒に勉強するー」


リンは嬉しそうに笑う。可愛い。

一緒に勉強すれば、リンにいい格好が見せられるかもしれないな。

それに私にも競争相手は必要だ。いつかリンがそうなってくれると良いな。

はしゃぐリンを相手にしながら、私はそんな未来に思いを馳せた。


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